Max Verstappen of Red Bull Racing RB16B Honda on track during the F1 Grand Prix of Qatar at Losail International Circuit on November 21, 2021.
© Getty Images/Red Bull Content Pool
F1

【F1の空力を学ぶ】風がマシンに与える影響とは?

何があろうと全力で前進しているように見えるF1マシンだが、実は風の影響を受けやすい。風がF1マシンに与える様々な影響を解説しよう。
Written by Jakub Winiewski
読み終わるまで:6分公開日:
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世界最速のゴミ収集車?

F1マシンは単に機械的な部分のみならず空気力学的にも極めて複雑な構造となっている。
F1では空力効率に優れたボディを設計すれば、マシンは最大のダウンフォースを発生すると同時にドラッグ(空気抵抗)の増加を最小限に抑制できるようになると考えられており、空力開発を担うエンジニアたちがマシン周囲の空気が最大限の効率で流れるボディ形状を実現するべく数万のパーツ群を非常にタイトな空間に詰め込んでいる。
Almost all F1 design work is carried out on Computer-Aided Design (CAD) stations

F1マシンはCAD / CAMを駆使して設計される

© GramaFilm/RBMH

このような処理が施されているにもかかわらず、モータースポーツの最高峰に君臨するF1マシンが前面から受ける抵抗係数はゴミ収集車のそれに匹敵する。また、ブレーキング開始時にアクセルペダルを離すだけで市販スポーツカーのフルブレーキ時と同程度の減速効果が生じる。
そのため、風が吹いているときの加速 / ブレーキングのパフォーマンスは無風でのドライビングとは大きく異なってくる。風によって発生する抵抗の大きさが風速の2乗に比例することは物理と数学によって明らかにされている。
つまり、風速が変化するたびに、ドライバーはブレーキングポイントやコーナー旋回時の安全な速度を見極め直すことを強いられるのだ。
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向かい風と追い風の違い

風がマシンの前方から吹いてくる向かい風の状態では、正面から受ける空気の運動量がさらに大きくなる(すなわちドラッグが増加する)ため、マシンの加速能力が低下する。
これによりエンジンへの負荷が増加するため、加速力が鈍り、最高速も低下する。過剰な抗力に立ち向かうためにエンジンはさらに酷使され、燃料消費量の増加というさらなる問題も生まれる。

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Red Bull Racing: The Life of a Bolt

See how a front suspension bolt is created before it makes it onto the Red Bull Racing RB12.

とはいえ、このような状況が常に悪夢かというとそうではない。なぜなら、ひとたび直線区間を抜ければ、向かい風は味方になってくれるからだ。前方から吹き付ける空気の塊はマシンを食い止め、より速やかで効率的な減速を可能にしてくれる。
これによりドライバーはブレーキングを少し遅らせることが可能になり、またわずかに少ない踏力でブレーキペダルを踏める。つまり、ドライバーはコーナーの入り口で若干プッシュできるようになる上にブレーキの摩耗も抑えられるようになるのだ。
向かい風のさらなる利点としては、DRS(ドラッグ・リダクション・システム)の効果がさらに高まり、オーバーテイクがさらに容易になることが挙げられる。
空気抵抗が大きいとDRSによるドラッグ低減効果は低ドラッグ時よりも顕著になるため、リアウイングのスロットを開いているマシンと閉じているマシンの間の速度差は無風状態に比べてはるかに大きくなるのだ。
風がマシンの後方から吹く追い風の状態では、端的に言って向かい風とは正反対となる。後方から吹き付ける空気は加速するマシンを後押しするので、より少ない時間でより高いスピードが得られる。
追い風は燃料消費量を抑え、ストレートでのトップスピードを向上させるが、その代償としてブレーキの摩耗が増加し、ストレート終端部で早めにブレーキングしなければならなくなる。
また、突然ダウンフォースを失ってライバルマシンに追突したり、コースアウトしてウォールにクラッシュしたりしないようにドライバーはコーナーリングスピードをやや落とし、より注意深くターンしなければならない。
追い風ではDRSの効果も低くなる。なぜなら、DRSを作動させていないマシンに対するスピード面のアドバンテージがさほど大きくならないからだ。また、追い風ではマシンが対処しなければならない抵抗が少なくなり、その抵抗に立ち向かうための燃料消費量も少なくなるため燃費が向上する
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厄介な横風

側面から風が吹き付けられると、マシンはヨーイング(片揺れ)状態となり、特にコーナーでの不安定さが増してしまう。
マシンのフロントエンドが左右に揺り動き、ドライバーは正確なレーシングラインとコーナリングスピードを維持しにくくなってしまう。このような状況ではマシンのポジション修正が不可欠で、極端な場合、派手なカウンターを当てなければならなくなり、大きくスライドしてしまうときもある。
最も危険なのは突風だ。なぜなら、これに遭遇したドライバーは突如として安定を失い、修正のための反応が取りにくくなってしまうからだ。突風が吹いたときの挙動は各マシンの性質、サーキットやその設備に合わせたセットアップによって異なってくる。
シルバーストンでは風がドライバーのミスを誘発する

シルバーストンでは風がドライバーのミスを誘発する

© Clive Mason/Getty Images for Red Bull Racing

風がドライバーたちにもたらす問題を如実に理解できるのは、英国のシルバーストンとサウジアラビアのジェッダ市街地コースだ。
どちらのサーキットも自然の障害物が少ない場所に位置しているため風通しが良く、強い突風も吹き、その予測も難しい。これらのサーキットで行われた過去のレースの多くでドライバーたちがスピンコースアウト、あるいはウォールへのクラッシュなどを喫する場面が確認されてきた。
これは主にマシンの横側から前触れもなく吹き付ける風が原因で、このような風はマシンに予測不可能な挙動を取らせる。そのため、通常のコンディションならマシンをコントロールできるはずの対策が役に立たなくなってしまうのだ。
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エンジニアたちの風対策

風に対するマシンの挙動はそのマシンの空力効率によって変わってくる。変動する風に対してマシンが正しく挙動して不都合な突風を無効化できるなら、ごく一部のコンディションでしか正しく機能しないマシンよりもよっぽど上手く走ってくれる。

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Gone in 2 seconds

What can Daniel Ricciardo and Max Verstappen do in the time it takes to make an F1 pit stop?

風に対するマシンの感度に関連する問題の解決策を握っているのは各チームのエンジニアたちだ。彼らはウイングの枚数を追加したり、ボディ形状に変更を加えたりしてマシンの挙動を改良しようとしている。
しかしながら、このような改良は常にできるわけではない。特定のチームがシーズンを通じてこの問題に苦しみ続け、状況を好転できるアップデートを投入できないケースが見られるのはそのためだ。
8月末からF1 2023シーズン後半戦を戦うマックス・フェルスタッペンセルジオ・ペレスに "味方の風" が吹いてくれることを願おう。
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