エアレース

【Red Bull Air Race特別対談】TERU×室屋義秀「アーティストとアスリートの共通点」

ロックバンドのボーカルと飛行機のパイロット。かけ離れたフィールドで活躍する両者が、「エアレース」というテーマをきっかけに語り合う。
Written by 中三川大地
読み終わるまで:8分公開日:
Red Bull Air Race Special Talk

Red Bull Air Race Special Talk

© Maruo Kono

日本を代表するロックバンド「GLAY」のボーカリストを務めるTERUと、日本人でただひとりレッドブル・エアレースの現役パイロットとして闘う室屋義秀。アーティストとアスリートと立ち位置こそ違っても、人々を魅了するパフォーマンスを追い求めるという意味では同じ世界にいる。彼らふたりの出会いを導いたというラジオDJにして喋り屋のやまだひさしを交えた3人で、今回、最前線で闘う男達の内面を語り合った。
アーティストとアスリートのルーティーン
TERU 僕はやまちゃん(やまだひさし)のおかげでレッドブル・エアレースを知って、実は去年、彼に連れられて幕張に応援に行ってたんです。その時は残念ながら強風で中止になって(土曜日予選)、生で見ることはできなくて。でも、映像なんかを見ると、縦横無尽に飛行機が飛ぶその迫力もさることながら、すごくいいスポーツだなって思うようになりました。アスリートスポーツって若い子しか活躍できないような印象があるけど、レッドブル・エアレースはすごく年齢層が幅広いですね。
室屋 身体能力だけじゃなくて、パイロットとしての経験が重要なスポーツだからでしょうね。飛行技術に語学に機械工学に――、そういう知識を身に付けるのにけっこう時間がかかる。だから30代くらいで勢いがついてきて、レジェンド級の選手ともなると60代までいるんです。
やまだ TERUさんだってGLAYのボーカリストとして今年で23年。これだけの長い間、最前線で歌い続けている。GLAYはもはや、レジェンド級のグループだと思います。アーティストとアスリートって、まったく畑が違うように思えて、常に観客の前で最高のパフォーマンスをするという点では同じ。長年、最前線に居続けるための努力って、実は似通っている部分があったりして……。
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© Maruo Kono

室屋 僕は1年を通して自分なりに定めたルーティーンをするよう心がけています。朝5時くらいに起きて、気を整えて、徐々に身体を動かすようにして、そこから練習に入って。決勝の日も決して変えない。大事な本番だからと下手にプレッシャーを感じてしまうと、逆に思うように飛べない。練習と本番では観客がいるかいないかだけなので、取り組むべき課題は同じだと考えています。
TERU 僕もそうですね。緊張するとノドに影響しちゃうので、いかにリラックスするかってことを自分に課してます。ライブの日は、朝起きて半身浴して、その日の曲目を何度も聴いて、リハーサルでは本番と同じように声を出してっていう感じで。どのくらい声が出せるかでその日の体調が分かるので、それを踏まえて充分に暖気して、あくまで自然体で本番へと向かいます。
やまだ TERUさんは昔っからストイックなアーティストという印象があります。ツアー中はお酒も飲まないし、食事も野菜が中心。なにより毎日規則正しい生活を送っていらっしゃる。
TERU 日ごろのケアをあまり意識していなかった時代は、本番で声がガラガラになっちゃうことがあって悔しい思いをしました。10年後、20年後もGLAYとして歌いたいって思ったら、そんな生活を改めなきゃダメだなって再確認して。それからはツアー中は禁酒にしたし、夜は野菜鍋の毎日に。それが一番、声の出る身体を作れるんです。
Red Bull Air Race Special Talk

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© Maruo Kono

やまだ でも、昨日の打ち上げでは(注:対談は4月20日の神戸公演翌日に実施)、少しお酒を飲んでましたね。ツアー中に解禁した珍しい日だったそうで。
TERU 23年目を迎えて、新しい刺激を求めたくなったというか。体調を整えて声を出すためのルーティーンは必要だけど、そこに適度に刺激を与えることで自分のモチベーションを高めて、よりよい表現ができるのかもしれないと思って。なにより自分自身が楽しまなければ、ファンの皆さんには逆に申し訳ない。だから今回はあえてルーティーンを変えてみたんです。
室屋 じゃあ、昨晩はTERUさんの貴重な姿を見れたんですね。思えばルーティーンなんて、どこの教科書にも載ってはいなくて、すべて自分で編み出していくもの。僕もどんなルーティーンをするとどうなるとか、“あ、神経が研ぎ澄まされていくな”とか自分で分かりますから。
TERU 僕たち、自分の身体で人体実験してるようなものですね。
(写真右)対談進行役を務めたやまだひさしさん。

(写真右)対談進行役を務めたやまだひさしさん。

© Maruo Kono

アーティストとアスリートのコンマ1秒
やまだ レッドブル・エアレースはスピードと正確性を競う競技だから、室屋さんは0.1秒を削るために全てをかけている。かたやTERUさんだって0.1秒の中にある調和をもって演奏を追求している。ストイックなトレーニングを続けるお二方だからこそ、我々が想像するよりもずっと“コンマ1秒”の大切さを知っている気がします。
室屋 決勝前の練習なんて3分×3セットで9分しかない。それじゃとても足りないから、常に頭の中でシミュレーションするんです。それこそ0.1秒ごとに時間を刻んで、頭の中で飛んでいる。
TERU 実は昨日のライブで、“次の曲は〇〇だ!”ってリハーサルとは違う順番の曲を叫んじゃった(笑)。でも、お客さんはそれで盛り上がっちゃって、もう後には引けない。メンバーはもちろん、照明さんとか舞台演出さんを巻き込んだ全員が、それこそ0.1秒で意思疎通し合って僕が叫んだ曲に変えてくれて、それで歌いきった。僕ひとりだけじゃない。なによりみんなの集中力と一体感が、ハンパないなって思いました。
やまだ え、あのシーンって、そんな裏ドラマがあったんですか?
TERU でも単純に僕が間違えた、というわけでもなくて、その時の雰囲気とかで“この曲だ”って舞い降りるときがあるんですよ。なにかに導かれるみたいに。
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© Maruo Kono

室屋 僕も決勝を飛ぶ直前になったら風向きがガラリと変わったりして。そういう時にこそ、経験と日ごろのトレーニングがモノをいうのかもしれない。それに突然の環境変化がよい方向に振れて、奇跡を起こすことがある。そういう時は、僕を応援していただいている皆さんのエナジーが、なにかを引き起こしたのかもしれないと本気で思うんです。
やまだ そういう意味ではレース会場やライブ会場って、人間のエネルギーの塊ですね。
TERU ライブ前になったら直撃寸前の台風が突然横にそれてくれたりとか、たとえ雨であってもむしろ悪天候が味方になるようないい雰囲気に包まれたりとか、いろんな感動を経験させてもらえました。
アーティストとアスリートの聖地、幕張
やまだ そうした意味ではGLAYのライブによる強烈なエナジーが会場を包む6月の幕張(レッドブル・エアレース千葉2017)には期待できます。GLAYが歌う書き下ろしの新曲『XYZ』は、室屋さんへの応援を込めた曲だとか。XYZって単に“空を駆け抜ける爽快感”とか、X軸Y軸Z軸を意味することでの“三次元”だけを表現しているわけじゃないんですね。
TERU 室屋さんの挑戦を含めたレッドブル・エアレースにあるヒリヒリした感じ。これって“限界を超えていく”競技なんだろうなぁって思って。だから室屋さんを始めファンの皆さんに“限界を超えていこう”というメッセージを込めたつもりです。僕らもライブ活動を通して、限界を超えた演奏を提供できたときの快感を知ってるから。幕張での僕らの歌声は、物理的には飛んでいる室屋さんには届かないけど、でも、ファンと一緒に創り出した大きなエナジーを届けたいと思います。
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室屋 緊張しないようにルーティーンを心がけているけど、そんなこと言われちゃうと、やっぱり緊張しちゃいますね。幕張はGLAYの聖地でもあるし。
やまだ 実は僕、99年のGLAY幕張20万人ライブ(MAKUHARI MESSE 10TH ANNIVERSARY GLAY EXPO '99 SURVIVAL ※国内単独ライブとしては最高の観客動員数20万人、単独アーティストの有料ライブに限れば世界最多の動員数を記録した伝説的なライブ)のとき、会場だけに流すラジオのDJを経験させてもらったんです。20万人も集まるから、来場者は入場してから開演まで5時間も待ってしまう。大勢のファンを少しでも退屈させないようにっていうメンバーやスタッフのみなさんの粋な計らいですね。結果的に、それがラジオDJとして活動する大きな転機になったし、そこからGLAYとは事あるたびにご一緒させてもらえるようになった。だから幕張は僕の活動にとっても“聖地”なんです。
室屋 逆に当時の僕はどん底だったなぁ。パイロットを目指してアメリカで免許を取ったはいいものの、日本は乗れる飛行機が皆無だし、飛ぶ環境もない。まして旅客機以外のパイロットなんてまったく認めてもらえない。どう食べていけばいいのか、はっきりいってまったく分からない状態でした。
TERU そんな3人が20年弱の時を経て、各々のステージでいろんな経験をして、今、同じ場所に特別な意味を抱く。なんか不思議な運命を感じますね。
室屋 でも、僕はまだ“聖地”とは言わない。胸を張って断言できるのは幕張で今シーズンも勝利を収めてから。XYZからエナジーを頂いて、己の限界を超えます!
TERU 大会後にはファンの皆さん共に、その勝利の喜びを分かち合いたいですね!
(原稿:中三川大地 写真:河野マルオ)
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※こちらの対談のフルストーリーは、6月3日~4日に会場で発売される『レッドブル・エアレース千葉2017 公式ガイドブック』で読んでいただくことができます。
◆Information
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