Salomon Mamores VK™参加者フランソワ・ゴーノン
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マウンテンランニング

バーティカル・キロメーター・レース:上達のヒント

山肌を駆け上るスピードを競う過酷な山岳ランニングを極めるために必要な準備とは?
Written by Matt Maynard
読み終わるまで:7分公開日:
VKレースに挑戦するマット・メイナード

VKレースに挑戦するマット・メイナード

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ここ15年、バーティカル・キロメーター・レース(VK)の人気が高まり続けている。これはただひたすら早く山を駆け登り、山頂を目指すという山岳ランニングレースの一種だ。そのレースフォーマットはシンプルで、大抵の場合、走行距離5km以下・標高差1,000mが設定されている。
英国ではUK Skyrunner®シリーズの一環として、今年からスコットランド・グレンコーでSalomon Mamores VK™レースが開催されている。9月16日から18日にかけて開催されたこのレースには、英国人ウルトラランナーで、RedBull.comにジャーナリストとして寄稿もしているマット・メイナードが参加した。今回は、VKレース参戦のためにマットが必要としたトレーニング内容を10項目に分けて解説する。
Salomon Mamores VK™参加者フランソワ・ゴーノン

Salomon Mamores VK™参加者フランソワ・ゴーノン

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1.練習する山はひとつに絞る

VKレースの準備は、心肺能力を高め、平坦路を速く走るだけでは不十分だ。とはいっても、アルプスのような山にわざわざ向かわなければトレーニングできないというわけではない。地元の適当な丘や山を見つけ、そこを駆け登ってみよう。各ランのタイム差を8秒から15秒程度に収めることを目指してみよう。ゆっくりとジョギングしながらスタート地点に戻るのも効果的だ。
このトレーニングの目的は運動負荷を最大限に高めた状態に慣れることにあるのだが、ひたすら同じランを繰り返すのでモチベーションを保つのが難しい。モチベーションの低下に苦しんでいる場合は、各ランの運動負荷を軽めにするか、ランの回数を減らしてみるといいだろう。高負荷トレーニングで燃え尽きてしまい、レース用のランニングシューズを履かずに終わるよりはましだ。
名前の通りまさに “バーティカル(垂直方向)” なレース

名前の通りまさに “バーティカル(垂直方向)” なレース

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2. シューズはできるだけ軽量なものを選ぶ

1953年にエベレスト登頂に成功した登山家エドモンド・ヒラリーはかつてこんな名言を残している ―「登山靴が1ポンド重いということは、5ポンド余計な重さを背中に背負っていることに等しい」― 登山においてシューズの重さがいかに重要かということは、以降も様々なケースで証明されている。
私は今回のSalomon Mamores VK™のために、Inov-8社製のTalon 212を選んだ。重量212gは理想的な軽さで、柔らかなラバーを持つソール部分はSalomon Mamores VK™のコースで多く見られる草の生い茂った路面でも良好にグリップする。軽量ながら強靭なアッパーと破れにくい特性のつま先は他ブランドの製品と比較しても群を抜いた仕上がりだ。
コース中最も急峻な中盤セクション

コース中最も急峻な中盤セクション

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3. ルートを学ぶ

Salomon Mamores VK™レースでは、5kmの距離で標高1,000mを一気に駆け登る。だが、他のVKレースではわずか1.92kmの距離で標高1,000mを駆け登るものもあるというから、これはもはや山岳ランニングというよりはクライミングに近い。VKレースではこうした過酷さが待ち受けるものだが、事前にしっかりとルートを確認しておけば、メンタルはずいぶん楽になる。また、高度マップや等高線データを学んでおけば、どこで走り、どこで歩くべきなのかが理解できるはずだ。
今回のレースは、手を使って這い上がる必要がありそうなセクションがあったが、レース当日に最も緊張したのは、観客が取り囲むスタート直後の約600mの平坦路のダッシュだった。
スコットランド民俗衣装キルトでの参加も可

スコットランド民俗衣装キルトでの参加も可

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4. 過酷さに備える

10kmの平坦路を1時間以内で走れるなら、VKレースのタイムは2~3時間ということになる。必要な運動量も10kmの平坦路レースとほぼ変わらない。最大心拍数に近い状態で走ること、つまり、沿道の観客に「ハロー」と言うことさえ難しくなる状態で走ることになる。(VKレースの世界最速記録は29分42秒)。
今回のレースでは山頂付近で2人のスペイン人の友人たちが応援に駆けつけてくれていたが、私は最大限の努力をしていたため「オラ!」と返すことができなかった。
キンロックレーベン山頂の尾根から見下ろす景色

キンロックレーベン山頂の尾根から見下ろす景色

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5. 正しい食事を心がける

VKレースのスタート2時間~3時間前には食事を済ませておくように心がけておきたい。レーススタートまで1時間を切ったら、水は飲まないこと。普段、地元の丘や山でトレーニング・セッションを行う際は、練習開始直前にカフェイン入りのエナジージェルを試してみよう。体に合うようなら、実際のレース直前にも摂取しよう。筆者が実際に摂取したのはScience in Sport社製のカフェイン・ジェル。消化が良く、他ブランドの同種製品と比較して粘性が弱いため、この製品を選んだ。
短いストライドはエナジー温存に有効

短いストライドはエナジー温存に有効

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6. 深呼吸を忘れずに

Salomon Mamores VK™は参加者が30秒間隔でスタートし、ひたすら山頂を目指すタイムトライアル形式のレースとなっている。レース直前のウォームアップを高負荷にすると息づかいが荒くなってしまう。スタート1分前を切ってからは、ゆっくりと深呼吸をして、これまでの練習の成果を発揮できるように落ち着きを取り戻そう。
山頂付近では岩が多く出現する

山頂付近では岩が多く出現する

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7. ストライドは小さく

スタートしてから最初の約600mはハイスピードで駆け抜ける平坦路だ。そこから先は上り坂だが、さほど難しくない傾斜が続く。ここでは、ストライドを小さく保ってエナジーを効率的に保とう。
過去に参戦したレースでは、走っているつもりなのに歩いている他の参加者に抜かれることもあった。今回はその教訓を活かし、中盤まではパワーハイク(やや足の進みが力強いハイキング)を意識して足を進めた。
Salomon Mamores VK™は他の山岳ランニング大会とは大きく異なる

Salomon Mamores VK™は他の山岳ランニング大会とは大きく異なる

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8. パワーハイク

現時点でのVKレース世界最速記録の保持者ウルバン・ツェマーは、レース中に走ることは滅多にない。ある研究によると、勾配率が28%を超える急峻な登り坂の場合は、走る代わりに歩くことでエナジーの消費を抑えられることが判明している。
尻に身体の重心を寄せるよう意識し、踏み出す足をハードにプッシュしてみよう。現在市販されている太ももまで覆うタイプのランニング用ショートパンツは、素材の表面にグリップ性を高めるためのラバープリントが施されている製品もある。これは、太ももに手を添えて足を踏み出す際に手が滑ることを防ぎ、腕と脚で最大のパワーを生み出すことを可能にする。VKレースに参加するアスリートたちの中には、トレッキング用のポールを併用する者もいる。
もしくは、普段の練習からパワーハイクを取り入れてみよう。
山頂の尾根には多くの観客が集まる

山頂の尾根には多くの観客が集まる

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9. 全力を振り絞る

Salomon Mamores VK™のグレンコー山頂を例にとるまでもなく、VKレースの大半は山頂がゴールに設定されている。ゴール直前の5分間はペースのことなど一切気にせず、とにかく最後の一息まで全力を振り絞ろう。山頂でゴールを迎えた直後はなるべく早く暖かい服装に身を包むようにして、軽い軽食でエナジー補給をしてからゆっくりと山を下ろう。もちろん、まだレースを続行している他の競技者たちへ声援を送ることは忘れずに。
ゴールに向け最後の力を振り絞るフランソワ・ゴーノン

ゴールに向け最後の力を振り絞るフランソワ・ゴーノン

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10. カウベルを持参する

Salomon Mamores VK™は英国初のVKレースだが、このレース形式はすでにヨーロッパではポピュラーで、とりわけフランスでは長年に渡り高い人気を誇っている。シャモニーなどでのVKレースではさながらツール・ド・フランスのそれを思わせる大観衆が山腹の沿道に集い、カウベルをけたたましく鳴らしながらランナーたちに声援を送っている。こうしたスタイルを他の国でのVKレースの応援に取り入れてみるのもきっと楽しいだろう。
Salomon Mamores VK™の詳細は こちらをチェック! 
本記事の執筆者マット・メイナードはSalomon Mamores VK™に参加し、全160名の参加者中33位でゴールした。タイムは56分19秒。マットのTwitterアカウントは こちら