『WRC 5』のグラベル
© Kylotonn Games
ゲーム

『WRC 5』:ライバルとの差

WRCの公式ライセンスを持つ人気ラリーシリーズ最新作について開発者に話を聞いた。
Written by Ben Sillis
読み終わるまで:11分公開日:
『WRC 5』

『WRC 5』

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World Rally Championship(WRC)の新作が届くまで実に2年も待たされた。Milestoneが開発した『WRC 4』が2013年末にリリースされてから、ライセンスの関係からパブリッシャーBigben InteractiveとデベロッパーKyloton Gamesのダイナミックコンビが復活し、新作に取りかることになったのだ。
そしてようやく、新たなマネージメント、新たなエンジン、IRL WRCに参加する13カ国にまたがる50を超える公式チーム及びドライバー、そして苦労の末に再現された全長350km以上のステージと共に、待望の新作『WRC 5』がリリースされた。『WRC 5』はPS4、PS3、PS Vita、PC、Xbox One、Xbox 360でプレイできるが、今回はリリースを祝うと共に、どのような経緯で開発が行われたのかを探るべく、『WRC 5』のゲームディレクター、Alain Jarniouとクリエイティブディレクター、Diego Sartoriにゲーム自体や、ライバルゲームとの差、そして新・旧世代機にまたがってラリーゲームを機能させるための努力などについて話を聞いた。
『WRC 5』が公式ライセンス以外で他のラリーゲームと異なる部分は?
Jarniou:WRCの公式ライセンスを取得しているこの新作では、いちから開発をし直しました。過去の『WRC』シリーズからは一切引き継いでいません。自分たちの理想のラリーゲームを新たにデザインする自由が与えられたと言えますね。今回、私たちが注力した部分のひとつとして挙げられるのは、ラリーカーの物理演算とハンドリングです。これらはラリーゲーム特有の部分ですね。クラシックなレーシングゲームではアスファルトの上の物理演算を考える必要がありますが、私たちの場合は、アスファルト、グラベル、雪面、また、それぞれのウェットコンディションにおいて、説得力のある物理表現を追求する必要がありました。しかも、このような様々な路面が、同じステージに含まれている可能性がありますし、ラリーカーのセッティングも多種多様です。『WRC 5』ではこの部分と、ドライビング・エクスペリエンスに注力しました。ドライビング・エクスペリエンスはできる限り現実に近づけてあるので、他のラリーゲームとは違うと感じるはずです。
また、周辺環境も現実世界のラリーと同様、かなり大きなスケールにしました。すべての路面は個別に用意されたもので、他のステージに流用していません。リアルなラリーを体感してもらうために、この点は非常に重要です。ペースノートシステムの場合は特に重要ですね。『WRC 5』で追加した他の新しい機能は、オンライン対戦ですね。『WRC 5』には「eSports WRC」という新しいオンラインモードが組み込まれています。これはWRCの2016シーズンとシンクロして進行します。ESLが統括する形で、2016年1月からスタートします。
『DiRT Rally』はプレイしましたか? 感想は?
Jarniou:『DiRT Rally』は多少プレイしました。ラリーゲームの開発において、良い参考になる作品と思います。『DiRT Rally』はゲームプレイとヴィジュアルに関して、非常に説得力のあるラリーが楽しめますが、私たちは別の部分に注力しました。『WRC 5』はよりとっつきやすいゲームに仕上がっています。『WRC 5』のドライビングは、ビギナーが楽しめると同時に、ハードコアなプレイヤーも楽しめるような調整が可能です。また、ラリーカーとステージに関しては、あらかじめすべてのコンテンツを盛り込んでいます。早期アクセス型とは違うアプローチです。プレイヤーは待たされることなく、WRCの2015シーズンを最初からすべて楽しめます。
Bigben InteractiveとKylotonnがこれまでに手がけてきたレーシングゲームは?
Sartori:『GTR』、『GTR 2』、『GT Legends』、『RACE』、『RACE 07』及びエクスパンション一式、『 RaceRoom Racing Experience』、『DTM Experience 2013』、『WRC 5』ですね。
Jarniou:私は『V-Rally 3』に携わった経験があります。主に関わっていたのはキャリアモードですね。このモードは当時の他のレーシングゲームと比較すると非常に革新的なものでした。また、世界初のMMOレーシングゲームと言われている『Test Drive Unlimited』の開発にも関わった他、その続編の『Test Drive Unlimited 2』にもゲームディレクターとして関わりました。この続編はオリジナルを多くの部分で進化させた作品です。
現在『WRC 5』はどの段階にあるのでしょう? 何人が開発に関わっているのでしょう? チーム内はラリーファンが多いのでしょうか?

Jarniou:ゲームはもう完成しています。開発に関わったのは100人以上ですね。開発に関わってくれたSébastien Chardonnetのようなプロラリードライバーを除き、チームの大半は熱狂的なラリーファンですね。エンジンのコーダーのようなそこまでラリーを知らなくても問題ないセクションもラリーファンでした。
『WRC 5』のグラベル

『WRC 5』のグラベル

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実際のラリーを体験したことはありますか?
Sartori:メカニックを目指していた若い頃は、勤めていた会社がCitroen AX Sportで北欧のレースに参加していました。私は幸運なことにそこに関われたので、ラリーに何が必要なのかを学べました。そのあと、自分用にCitroen AXにGroup Aのパーツを組み込み、金銭的に余裕がある時は、Auto Xや小規模なRally Sprintsに参加していましたが、望んでいたほど長くは続きませんでした。そのあとは、Danish Touring Car ChampionshipとSports Racing World Cupで、メカニックやエンジニア、ドライバーアシスタントとして働きました。
新しくなった天候変化の表現と物理エンジンについて教えてください。このようなシステムを開発するためにどんな努力をしたのでしょう?
Sartori:まずは、リサーチを重ねて、チームやドライバー、コ・ドライバー、メカニック、エンジニアと話をしましたね。テレメトリデータや映像を研究・分析しつつ、実際のラリーレースに顔を出すことが、ハンドリングにはどのような要素が必要なのか、そしてどの部分をゲーム内で強く押し出せるのかを理解する大きな助けになりました。Kevin AbbringやSébastien Chardonnetのようなドライバーから実体験を聞くことも、全開でアタックするラリーカーを操縦しない限り得られないダイナミクスを理解するのに役立ちました。
Jarniou:Kylotonnは自社開発のエンジンKtHDを使っています。このエンジンとそれに付随するツールはレーシングゲームに特化したものです。PBR(Physically Based Rendering:物理ベースレンダリング)を使用することで、様々な天候変化や時間変化が得られます。また、この物理エンジンはDiego(Sartori)やSébastien Chardonnetのようなエキスパートの助けを借りながら、『WRC 5』専用として開発されたものでもあります。
高速でターンするにはスキルが必要

高速でターンするにはスキルが必要

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トップドライバーは開発に参加していますか? どのような効果がありますか?
Sartori:Sébastien Chardonnetがコンサルタントとして開発チームと一緒に仕事をしました。彼のお陰で、私はクレルモン=フェラン(フランス)の近くにある、テスト施設を訪れることができました。そこではCitroen DS3 WRC 3をドライブするチャンスや、SébastienがドライブするCitroen DS3 World Rally Carの助手席に座るチャンスを得ました。レース体験を本格的に再現しようとしている人にとって、実体験に勝るものはありませんし、Sébastienは優秀なゲーマーでもあるので、この実体験を狙っているターゲットに合わせてどのような形で再現するのが最良なのかについて、しっかりと話し合えました。これまでの自分のキャリアの中で思い出深い瞬間は沢山ありますが、この体験はその中でもベストのひとつと言えますね。
リアリズムの追求にはどのようなアプローチを取っているのでしょう?
Sartori:家庭用ゲーム機やゲーム用PCが現実世界に影響を与える要素をすべてシミュレートするのは不可能だということは十分に理解しているので、ワールドラリーカーのドライブがどのようなものなのかという点に絞り、そこを本格的で信憑性の高い形で表現しようとしました。まずドライビング・エクスペリエンスを決定づける要素の見極めから始まり、その後、それらの要素を重視しながらシミュレートを続けていくという作業になります。
例えば、『WRC 5』ではラリーカーの挙動やドライバーのアプローチに影響を与える様々な路面を用意したいと思っていたので、各路面が異なったドライビング・エクスペリメントを提供できるように注力しました。
また、ドライバーの足と手の動きにも注力しました。操作をステアリングホイール、ブレーキ、ハンドブレーキ、スロットルによって生まれるダイナミックな変化に近づけようとしました。ステージを走るラリーカーの中を見れば、ドライバーの手足が忙しなく動いていることにすぐに気付くと思いますが、『WRC 5』ではそのような様々な入力が必要となります。スキルのあるプレイヤーがこのゲームのステージを走っている姿を見れば、ステアリング、ブレーキ、ハンドブレーキ、スロットルをコントロールするために指が忙しなく動いていることに気付くでしょう。
様々な路面が用意されている

様々な路面が用意されている

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技術的な部分への取り組みの成果は? 1080p/60fpsが実現されているのでしょうか?
Jarniou:多種多様な天候変化と時間変化、そして可能な限り現実に近づけた路面を加えた巨大な環境を作り上げたので、長時間のプレイ、そして様々なゲームプレイをマスターするための長大な練習セッションに期待してください。次世代機では、最低1080p/30fpsの数値で安定して動作していますが、大半のステージでは60fpsで動作します。
『WRC 5』は旧世代機と次世代機の両プラットフォームに対応しています。その理由は? また、制限を感じる部分はありますか?
Jarniou:私たちが重視していたのは、あらゆるプレイヤーに最高のラリー体験をしてもらうという点でした。ですので、ゲームプレイにおいて妥協点はありません。プレイヤーはどのプラットフォームでも同じドライビングが体験出来ます。ですが、旧世代機では風景の表現に差があります。次世代機やPC版と同じドライビングを楽しんでもらうためにはこの部分を妥協しなければなりませんでした。
PS Vita版も他と同じ機能がすべて盛り込まれるのでしょうか? 今後もPS3・Xbox 360版をリリースするのでしょうか?
Jarniou:PS Vita版でも大半のゲームモードで同じ体験ができます。唯一妥協しなければならなかったのがオンラインモードで、これはPS Vitaではプレイできません。PS3にも、Xbox 360にも、まだ沢山のラリーファンがいます。彼らには引き続きWRC公式ライセンスと共に、最高のラリー体験をしてもらいたいと思っていますし、今後開発するゲームでも、彼らはターゲットに含まれています。
通常のラリー以外のモードはありますか?
Jarniou:WRCはそれだけで非常に難しいレースですが、オンラインでは独自のモードも収録しました。もちろん、ジュニアカテゴリのルーキーからスタートし、様々な目標をクリアしてWRC 2やWRCを目指すというキャリアモードも収録されています。キャリアモードでは、プレイヤーごとにユニークなドライビングスタイルが与えられます。これはチームの選択時には重要なポイントになります。自分のスタイルがチームとフィットしなければ、チームやメカニックのムードやパフォーマンスに悪影響を与えます。プレイヤーの皆さんには現実の若手ドライバーの世界を体験して欲しいですね。
DLCをリリースする予定はありますか?
Jarniou:予定はあります。数本のDLCがリリースされるので、このゲームの寿命を延ばしてくれると思います。今後の予定については近日正式に発表する予定です。