『Richard Burns Rally』:今も続く人気の秘密

12年間に渡り「究極のラリーシミュレーション」の称号を守り続けているゲームの人気の秘密はコミュニティのたゆまぬ努力にあった。
ラリーの象徴、Mitsubishi Lancer Evolution © Ondřej Zeman/YouTube/Richard Burns Rally
By John Robertson

ビデオゲームの世界では「次のゲームが最高のゲーム」という考えになりがちだ。新作がリリースされるたびに旧作は闇に葬られる。この世界(特にメインストリーム)では最新のテクノロジーが開発の必要最低条件であり、グラフィックが更に進化してAIが更に複雑になり、ソフトウェアも処理能力を更に無駄なく引き出すようにプログラムされていくにつれ、プレイヤーたちも自然にテクノロジーの最先端へとシフトしていくのが常だ。

この流れが一際強く感じられるジャンルがレーシングゲームだ。たとえば、『Forza Motorsport』がリリースされるたびに、旧作は死に向かう。これはこのジャンルのほとんどすべてのシリーズに当てはまる。『グランツーリスモ』、『DiRT』、『Need for Speed』など枚挙にいとまがない。

大抵の場合、新作タイトルはリリース後1週間で売上の大半を稼ぎ出す。そして、プレイヤーたちも新作をしばらくプレイすると、今度は別の新作をプレイするようになる。しかし、コミュニティが深く関わってくると、この生と死の永遠のサイクルに変化が起きる時がある。

そう、愛され続けるゲームが生まれるのだ。プレイヤーたちはひたすらプレイを続け、仲間を作り、ゲームプレイを極めていく。やがて、そのゲームを愛する彼らは、シーンやファン、そしてデベロッパーに恩返しをしたいと思うようになるのだ。そのようなゲームのひとつが『Richard Burns Rally』だ。

2004年にPCでリリースされたオリジナルの『Richard Burns Rally(以下RBR)』は、熱心なモッダーたちで形成されたコミュニティがこのゲームを進化・拡大させる努力を続けてきたおかげで、今も数多くの称賛と尊敬を集めている。リリースから12年が経過しているにも関わらず、今もこの作品はラリーシミュレーションのコアファンから「ラリーゲームの最高峰」として扱われているのだ。

『RBR』のコミュニティでWorkerBeeというゲーマータグで知られるドイツ人Gunter Schlupfは「『RBR』は現在手に入る中で唯一の真のラリーシミュレーションですね。ゲーマーなら分かると思いますよ」と断言する。彼はコミュニティに広く知られているプラグイン、Next Generation Physics(NGP)の開発で高く評価されている人物だ。このプラグインを組み込むことで、路面タイプごとのタイヤの接地の違い、ドライブチェーンの追加(後輪駆動など)、サスペンションの修正、タイヤの劣化など、あらゆる部分までシミュレートできるようになる。

シミュレーションのリアルな感覚こそ、WorkerBeeが求めているものであり、NGPが提供しようとしているものだ。WorkerBeeは2004年のオリジナルについて、「ゲームとしては機能が少なく、未完成ですが、シミュレーションとしては僕が望む形でコーディングされています」と評価している。『RBR』のシミュレーション重視の仕様は2001シーズンのWRCの総合王者に輝いたプロラリードライバー、Richard Burnsが監修した結果であり、物理演算はラリーカーをドライブする楽しさのシミュレートではなく、ラリーカーの再現に割かれている。

『RBR』のこの特徴によってWorkerBeeは物理演算モデルに興味を持つようになり、このゲームをリバースエンジニアリングして、オリジナルを進化させるMOD、NGPを開発することになったのだ。

しかし、WorkerBeeはプロのビデオゲームデザイナーでもなければ、プログラマーでもない。過去20年間ソフトウェアエンジニアとして働いてきた彼は、それ以前は車の整備工だったのだ。そして、このふたつの職務経験が『RBR』のMODに彩られた歴史の中で最も有名で最も広く使われているMODのひとつを生み出すことになった。

現在、Reddit上で新しいマシンやレーストラックを発表しているデザイナーは基本的にWorkerBeeの物理演算をベースにして独自のフレームワークを作ったり、一エンジンを搭載するのに必要なマシンのボディをデザインしたりしている。

しかし、この大量のマシンとレーストラックがいくつかの問題を引き起こしている。新規プレイヤーたちはこの確立されたコミュニティのコンテンツとNGPに代表されるMODの多さに辟易してしまうのだ。ゲームをインストールするのもひと苦労で、専用のWikiサイトを参考にしながらステップを踏んでいかなければならない。最新のバージョンを見つけることさえも新規プレイヤーにとっては難しく、定期的に開催されているリーグ戦やトーナメントに向けた練習の障壁になっている。

ここで必要となってくるのが管理人の存在だ。彼らは余った時間を使ってコミュニティの管理を担当している。オリジナルを開発したWorthog Gamesが存在していない今、この役割は重要だ。

「レーストラックに関して言えば、ベストのレーストラックを見つけて、質の悪いレーストラックを破棄する作業はかなりの重労働ですね」こう説明するのは、Redditのr/simrallyページの管理人を務める米国人Otis “Deadstump” Clappだ。「NGPがリリースされてから、オリジナルに収録されていた “デフォルト” のラリーカーをやめて、NGP対応のラリーカー だけを使うようになりました。NGPの方が優れているからです」

Deadstumpはr/simrallyのためのラリーイベントを毎週主催している。彼が選ぶレーストラックとマシンは、長年使用されているものもあれば、彼が良いと思う最新のものも含まれている。彼のイベントは新規プレイヤーがネットワーク対戦の『RBR』に参加する入り口の役目を果たすと同時に、新規プレイヤーたちが、他人の手を借りながら、最高(大抵の場合 “最新” でもある)のMODを加えた自分たちのバージョンを作る助けにもなっている。また、ベテランプレイヤーたちにとっては、無駄な時間を消費することなく毎週対戦が楽しめる場所として機能している。

そして、Deadstumpも『RBR』のその膨大なコンテンツの管理をある程度楽しんでいる。

WorkerBeeのようなモッダーたちが管理人を必要とするほど大量の物理演算モデルを次々とリリースしているという事実は、Worthog Gamesが開発したオリジナルのクオリティがいかに素晴らしかったかを証明している。2005年にがんでこの世を去ったプロラリードライバーRichard Burnsが監修を担当して2004年にリリースされたこの作品は、ラリーシミュレーションとしては非常に高いレベルにあった。レーシングカーマニア、ドライビングマニアたちがこのゲームとMODコミュニティに集まるのは当然なのだ。

尚、WorkerBeeと同じく、DeadStumpも熱狂的なラリーファンで、年に1、2回は現実世界のラリーイベントでマーシャルを担当しているが、安全に管理された環境でドライバーたちがレースをできるよう進行を見守るマーシャルという役割は、『RBR』で彼が担当している役割と同じだ。

DeadStumpが説明する。「僕はRichard Burnsの現役時代にラリーの楽しさを知ったんですが、正直に言うと、当時の彼は好きではありませんでした。なぜなら、既に彼がSubaruから離れていたからなんです。PeugeotをドライブしていたBurnsとMarcus Gronholmは僕にとっては “悪役” でした。ですが、今振り返ると、彼は優秀なドライバーで、素晴らしいスポーツマンだったと思います。彼の死は残念でした」

このゲームの多くのファンと同様、Deadstumpのこのゲームへの情熱は、ラリードライバーのRichard Burnsの素晴らしさが引きだしたものではなかった。プレイヤーたちは素晴らしいラリーゲームならば誰が監修をしていようとも構わない。しかし、Burnsがこの世を去ってから、彼のこのゲームにおける役割を再考し、その功績に感謝するプレイヤーたちが出てくるようになった。今も成長を続ける『RBR』のゲームとしての素晴らしさが、Richard Burnsの評価に繋がっているとも言えるだろう。

たとえば、WorkerBeeは、Richard Burnsはこのゲームのもっと大きな部分に影響を与えていると考えている。「僕を含めたコミュニティはRichard Burnsが病気と闘いながらもこのゲームの開発に携わってくれたことに感謝していると思います。彼がラリードライバーとしての生活に100%を注いでいたら、おそらく『RBR』はこの世に存在していなかったでしょうね」

Richard Burnsが今のコミュニティの中においてどれだけ大きな存在なのかは分からないが、Richard Burnsが監修を務めていたからこそ、WorkerBeeはこのゲームの物理演算を理解して進化させようと思い、NGPを開発したのだ。そして、彼のNGPが登場したことによって大量のコンテンツが生み出され、Deadstumpのような管理人が登場し、ずっと前に消えているはずだったこのゲームが今も生き残ることになったのだ。

WorkerBeeはオリジナルについて次のように振り返っている。「『RBR』を最初にプレイした時のことは今でも良く憶えていますよ。ゆっくりドライブしいても、実際のラリーカーの感覚が実に上手く再現できていると感じられました。それで僕は “実際のラリーの感覚をもっと追求できるゲームだぞ” と確信できたのです。僕が作りたかったのは “ドライブ” できるゲームであって、“プレイ” するゲームじゃなかったんです」

WRCで総合優勝を果たしてから4年後、オリジナルの『RBR』がリリースされたわずか17ヶ月後、Richard Burnsはがんで命を落としたが、ドライブとレースをこよなく愛していた彼が、“プレイ” よりも “ドライブ” の感覚が得られるゲームの中で生き続けているというのは我々の心にぐっとくるものがある。

ラリーシーンを代表するドライバーに触発されたその真のドライブ感覚こそが、『RBR』が長きに渡り愛されている理由だ。 “プレイ” を切り捨てているからこそ、エンジニアリングや物理演算を知っている人たちがこのゲームの中核となるシステムを進化させ続けることが可能になっている。『RBR』は勝利を目的とするゲームではなく、スキルを極めることを目的とするゲームなのだ。

スポーツや人生と同じで、「トップに立ち続ける」という結果は、目の前の勝利ではなく、たゆまぬ努力と進化がもたらすものだ。重要なのは過程であり、数多くのシミュレーションゲームがこのゲームから多くを学べるはずだ。

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