小島秀夫が語る『Death Stranding』

『メタルギア』シリーズを終えた小島秀夫が “小島節” 全開の最新作について語った。
知的な色気が人気のマッズ・ミケルセンが悪役を演じる © Kojima Productions
By Benjamin Kratsch

 小島秀夫はクリエイティブのビッグネームの中ではスペシャルな存在だ。『メタルギア』シリーズを生み出した先見の明を持つゲームデベロッパーである彼を突き動かしているのは何なのか? 彼の最新作『Death Stranding』のティーザートレーラーを、ただの伝統的なエンターテイメント作品のそれとして扱っている限り、その答えには辿り着けない。

小島によって毎回慎重に選ばれているトレーラーのサウンドトラックは、おそらく完成版には収録すらされない。そして、まるで蛇のように壊れかけた橋から降りてくる黒い液体や、『007 カジノロワイヤル』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に出演しているマッズ・ミケルセンの体に吸い込まれていくケーブルなど、トレーラー内に存在するすべてのシンボルは、アートの視点から見る必要がある。

小島はかつてスミソニアン博物館での講演で次のように発言している。「アートは解釈によって変わってきます。たとえば、絵画を見る時に、僕が他人とはまったく異なる感想を持つ可能性がありますが、僕はそこが面白いと思っているので、トレーラーの制作に画家のそういうテクニックを持ち込もうとしているんです」

「ですので、(ティーザートレーラーが)多少の混乱を招くことは特に問題ありません。TwitterやRedditを見れば、皆さんそれぞれ独自の解釈をしています。そのすべてが正しい解釈ではありませんが、そこが面白いところなんです。個人的には数分間ですべての種明かしをしてしまうような映画やゲームはあまり好きではありません」

 今回紹介する第2弾ティーザートレーラーリリース後の小島との会話からは、彼のこの考え方が少しもぶれていないことが明確に分かる。『Death Stranding』は、『メタルギアソリッドV』の開発後期に小島と彼が長年勤めていたコナミとの痛々しい別離の理由と同様、その大半が謎に包まれている。

 コナミ退社後

 

カリフォルニア州のAnaheim Convention CenterでRed Bull.comのインタビューに応じた小島は、コナミ退社後について次のようにコメントしている。「元々は静かに事を進めようと思っていたんです。これまでよりもスケールが小さい、インディータイトルを開発したいと思っていました」と語る小島は、コナミからのドラマティックな退社に関わるあらゆるプレッシャーから解放されており、非常に活き活きとした表情をしている。「ですが、僕の親友のひとり、ギレルモ・デル・トロに『ダメだよ、ヒデオ。それは無理だ。世間はもっと大きなものを求めているし、君は彼らにビッグタイトルを提供する必要がある』と言われたんです」

デル・トロと小島が初めて出会ったのは東京で行われた『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』の試写会だった。その後、友好を深めた2人は『サイレントヒル』シリーズのリブート版のプレイアブルティーザー『P.T.』の開発をスタートさせるが、メディアから高評価を得たにも関わらず、コナミによってそのリブート版本編の開発は中止に追い込まれた。

笑顔が戻った小島秀夫 © Kojima Productions

 ハリウッドを代表する映画監督のひとりであるデル・トロは、2人の共同作品については裏方に徹する予定だったが、コジマプロダクションが開発中のPS4独占タイトル『Death Stranding』では、当初の予定よりも大きな役割を担っている。2本目のトレーラーの中で、デル・トロは3Dスキャンされており、胎児が入れられた特殊な容器(実に小島らしい恐怖表現と言える)を抱えている重要人物のひとりを演じている。

このシーンは何を意味しているのだろうか? 小島はその点について明らかにしていないが、我々が予想するのは自由だ。デル・トロ演じるキャラクターはスーツを着ており、そのスーツの左襟に「Bridges - United Cities of America」と書かれたピンが留められていることから、終末戦争後の米国のある州に存在する政治家、または大統領である可能性さえも考えられる。なぜなら、長官や上院議員など、米国の権力層の多くはスーツの襟にピンバッチを付けているからだ。「ギレルモの声は使っていますが、モーションキャプチャーには他の俳優を起用しています。なぜなら、彼の時間を奪いたくないからです。こちらに多くの時間を割く代わりに、自分の映画に集中しろと(笑)」と小島は冗談を言う。

小島が世界的に非常に有名なゲームデザイナーであるということ、彼の作品のトレーラーが生み出すハイプが大きいということ、そして彼が手がけた作品の多くが高評価を得ているということを踏まえると、コナミ退社後の小島が新チームを組むのはそこまでタフな作業ではなかったはずだ。

しかし、それでも新しいスタジオをゼロから立ち上げる作業は、『メタルギア』シリーズのリードアーティスト新川洋司とプロデューサー今泉健一郎を含む首脳陣にとっては難しいチャレンジとなった。小島は「ビッグチャレンジでしたね。ですので、パートナーを探すことにしたんですが、結果的にSony PlayStationがパーフェクトなパートナーということになりました」と説明している。

その後、プログラマーだけではなく、デザイナー、ソフトウェアエンジニア、グラフィックアーティスト、さらにはハリウッドのビッグネームまでもがコジマプロダクションに連絡を入れてきた。

数多くのスタジオやスタッフがサポートを申し出てくれたことには本当に感謝していますし、頭が下がる思いでした

小島秀夫

 「業界中の数多くのスタジオやスタッフがサポートを申し出てくれたことには本当に感謝していますし、恐縮しましたね」と小島はコメントしている。小島はコナミからのドラマティックな退社について話をしたがらないが、コナミが『メタルギアソリッドV』で使用されたゲームエンジンFoxEngineを小島が退社時に持ち出すことを許可しなかったことは明らかだ。しかし、幸運なことにSonyは独自のルートを持っていた。

小島が説明する。「新しいゲームエンジンを探そうという話になりまして、マーク・サーニーと一緒に世界中を回ったんですね」と説明する。サーニーはPlayStation 4とPlayStation 4 Proの開発担当として知られている人物だ。「それで、2人でGuerrilla Gamesを訪れて『Horizon: Zero Dawn』をプレイしたんですが、彼らのテクノロジーに対する考え方が気に入ったんです。それからは、あっという間に物事が進んでいきました」

「Hermen Mulst(Guerrilla Gamesのマネージングディレクター)がゲームエンジンのソースコードがすべて入ったUSBスティックが入ったクールなボックスを送ってくれたんです。僕にとってはスペシャルな瞬間でした。というのも、僕たちはまだ契約も交わしていない段階だったからです。彼らは僕と僕のチームを信頼してコードベースを送ってくれたんですよ。Hermenも僕と同じくらいおかしな人だと思いますね」と小島は笑う。

このテクノロジーのコラボレーションから始まったGuerrilla Gamesとコジマプロダクションの関係はすぐに友情へと変わっていった。現在、コジマプロダクションはアムステルダムに位置するGuerrilla Gamesのスタジオの隣にサテライトスタジオを構えている。小島は大きな笑顔と共に「(アムステルダム)近辺に住んでいて、僕たちと一緒に働きたいという人は、是非応募してください」と続ける。

 

ハリウッドスターの参加

 

小島は人員確保に自ら積極的に動く人物だ。本人はその点について次のように説明している。「僕は直接電話で話したいんですよ。ですので、ギレルモに電話して、ノーマン(リーダス。『ウォーキング・デッド』のダリル・ディクソン役)の電話番号をもらったんですが、話してみると僕のファンだと言うことが分かりました。僕自身も『ウォーキング・デッド』や彼の他の作品の大ファンですし、彼も僕のゲームのファンなんです」

「僕たちは他のプロジェクト(『サイレントヒル』リブート版)で一緒に仕事をした経験がありましたが、あれが開発中止に終わってしまったことをかなり悲しんでいました。ですので、改めて、今作に参加したいかどうかを彼に訊ねたんです。今作ではかなり近い距離で仕事をしていますよ。2人で一緒に彼のキャラクターを作り込んでいますし、アイディアやインスピレーション、カメラアングル、ストーリーの進め方など、様々な部分について会話を重ねています。マッズ(ミケルセン。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレン・アーソ役)とも同じ形で進めています。彼は『Death Stranding』では悪役を演じます」

ギレルモ・デル・トロの役は政治家なのか? © Kojima Productions

 しかし、小島は常に「小島秀夫」であるため、ストーリーについては次の発言以上の詳細は明かしてくれない(ただし、『メタルギア』シリーズが冷戦時代、ナノマシン、2足歩行ロボット、ゾンビ、スイカなど、ありとあらゆるものを取り入れてきたことを踏まえると、今作もクレイジーなものになるはずだ)。「ストーリー全体についての詳細や、女性キャラクターについて話をするのは時期尚早ですが、核となる部分はすでに用意してあります」

彼のこのような発言を踏まえて、あえて予想してみるが、おそらく『Death Stranding』のリリースが2018年より前になることはないだろう。

 

『Death Stranding』の秘密

 

まだ『Death Stranding』の詳細を話せる段階ではない小島は、シンプルに「トレーラーの中には大量の情報とヒントが隠されていますよ」とコメントするに留めているが、Guerrilla GamesのHermen Mulstはいくつかの情報を教えてくれている。

『Horizon: Zero Dawn』のゲームエンジンDecimaを使用 © Kojima Productions

 「僕たちのゲームエンジンDecimaは、たとえ広大なオープンワールドであっても、非常に細かい表現が実現できます。物理ベースレンダリングによって、すべてのマテリアルにユニークなタッチを加えて、細部まで描くことが可能なんです。キャラクターの肌、天候によって変化する髪の毛の動き、ヘルメットの金属の汚れなどが表現できます」

また、Hulstは『Death Stranding』に関係するさらに興味深い情報として、このゲームエンジンを使用すれば、都市部に住む大人数を非常にリアルな形で動かすことも可能だとしている。彼のこの情報からは、第2弾ティーザートレーラーの中で確認できる、戦争で廃墟となった都市の橋を渡る戦車と兵士、そしてその上を飛ぶ戦闘機が、『アサシン クリード』シリーズのような大人数の市民とブレンドされる可能性が見えてくる。

もしそうなれば、『Death Stranding』は、人の多い都市部が登場することがほとんどなかった『メタルギア』シリーズからは大きく離れた作品になる。また、小島本人も次のようにコメントしている。「『Death Stranding』は最初から最後まで楽しめるシングルプレイヤーモードの他に、ユニークな協力プレイも用意しています。プレイヤーを “なわ” のように結びつけたいと思っているんです。また、この作品は “繋がり” がテーマですし、 “Strand” という単語も、心理学では “より糸” を意味します」

ケーブルで兵士と繋がっているミケルセン © Kojima Productions

 この発言は、第2弾ティーザートレーラーのマッズ・ミケルセンが兵士と黒いケーブルで繋がり、(おそらくだが)そのケーブル経由で兵士たちをコントロールしている理由を説明している(ちなみに、テレパシーは小島作品の特徴のひとつでもある)。また、小島はこのゲームのキャラクターの詳細については固く口を閉ざしているが、時代設定については、ティーザートレーラーを見る限り、複数の時代が同時に存在していることが分かる。というのも、近代的な戦車やハイテクゴーグルを装着した兵士と共に、第2次世界大戦時の米国軍のパラシュート部隊も確認できるからだ。『Death Stranding』はある種の「死後の世界」なのだろうか?

また、『Death Standing』は地球汚染についても触れているようだ。これまで発表されたティーザートレーラーでは、重油にまみれて死んでいるイルカが確認できる。しかし、実際にどうなるかは分からない。我々の気を逸らすためのものなのかも知れない。『THE PHAMTOM PAIN』のトレーラーで、燃えるクジラが登場していたのを憶えているだろうか? あのクジラはビッグボスの幻覚に過ぎなかった。

しかし、小島はストーリーについては口が固いものの、技術面に関しては積極的に発言している。「Decimaは革新的なレンダリングエンジンですが、Guerrilla Gamesと同じ世界を生み出しても意味がありません。『Horizon: Zero Dawn』はアーティスティックで美しい世界を描いていますが、僕たちは非常に写実的な世界を描こうとしています。また、僕は物理ベースライティングの大ファンですので、“ガラス部屋” という部屋も用意しました。この部屋はただの応接室なんですが、戦車や赤ん坊の人形など、ゲーム内のすべてのオブジェクトの反射のクオリティやライティングの精度を検証できるんです」

その不気味な赤ん坊の人形が何を意味しているのかはまだ明かされていない。しかし、現在確認できているティーザートレーラーが、ゲームプレイそのものであることは明らかになっている。小島は熱を込めて次のようにコメントしている。「ティーザートレーラーは、PS4 Proを使ってリアルタイムでレンダリングされたものです。完成版のリリース時にはもっと美しくなっていますよ」

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