関西在住クリエイターの緩いハブ(結節点)として── ゲーム開発者交流イベント「Ichi Pixel」

大阪府大阪市北区のバーで月1回ペースで開催されているゲーム開発者交流イベントが目指す、"新たな地平"とは?
By Giichi Totsuka

   

 

(撮影/宮澤修平)

大阪にはなかったゲーム開発者が気軽に集える空間

大阪市営地下鉄および阪急電鉄の共同使用駅・天神橋筋六丁目から徒歩3分。閑静な住宅街に点在する、古民家のリノベーション店舗のひとつである「Bar Escae」は、和と洋のエッセンスが混ざりあう隠れ家的バーだ。この洒落た空間が、昨年の夏以降、関西のゲームクリエイターたちの"拠りどころ"として注目されている。

▲イベント時には1階フロアのボックス席が片づけられ、スタンディングバー風の営業となる「Bar Escae」(撮影/宮澤修平)

「Ichi Pixel(イチピクセル)」は大阪市内のIT企業に在籍する20代前半の女性プログラマー・仲島瀬里奈さんの主宰で、2016年8月より開催されているゲーム開発者向けミートアップである。インディーゲームを作っている人、または作ってみたい人を中心に毎回30〜40人ほどが訪れ、思い思いの形でくつろいだひとときを過ごしている。年齢層は20代から40代と幅広く、"ゲーム開発者のラフな集い"に興味津々な、関西に本社がある大手ゲーム会社の社員の姿も珍しくないという。

参加者の男女比はおよそ9:1。大阪エリアに潜在する"ゲーム女子"との交流を期待していた仲島さんにとって、この現状は物足りないようで、「これから女性を増やしていきます!」と力強く宣言した。

▲自身の性格を「人見知りなくせに目立ちたがり」と分析する仲島さん。ツッコミどころ満載(?)の緩いMCが、本イベントの独特のムードにつながっている。現在はスマートフォン用アドベンチャーゲーム『From_.』を制作中。

会社ではスマートフォン用のゲームアプリを開発し、自身でもオリジナルのインディーゲームを制作している仲島さんは、東京で定期的に開催されている「Tokyo Indies」のようなミートアップが大阪エリアになかったことから、Ichi Pixelの主催を決心した。その背景には、自身のゲーム開発環境が孤独であることや、ゲームの話をできる同世代の友達がほしい……との思いがあった。

事前に申し込んだ参加者が、制作中のインディーゲームについて思い思いのスタイルで発表する"プレゼンテーション・コーナー"に寄せる思い入れも強い。2013年から毎年京都で行われているインディーゲームの祭典「Bitsummit」などの大規模な展示イベント以外で、自分の作品の進捗を発表できる場があることの大切さは、視察目的で訪れたTokyo Indiesにプレゼンターとしても参加したことで、実感している。そうした一方、自分以外のクリエイターの優れた作品の発表を見ることで「負けてなるものか」という気持ちを刺激し、自分自身のモチベーションを維持している面もあるという。このような経験を参加者同士が共有できる場所として成熟していくことが、Ichi Pixelのひとつの理想形かもしれない。

▲2017年1月27日に行われた「Ichi Pixel 6th meet-up」でのプレゼンテーションの様子。壁面に大写しにされたプロジェクター映像とともに、プレゼンターが自作ゲームの紹介をする。プレゼン中、笑いやツッコミが観客から自然に上がるのは、大阪という土地柄ゆえの特徴か。勝手に盛り上がる。ひとりいるとそれに便乗する。

"淀まないイベント運営"を支える、縁の下の力持ちたち

そんなIchi Pixelが半年間、月1回ペースを崩すことなく開催できている原動力は、仲島さんの情熱のみではない。

レトロテイストの2Dアクションゲーム『LA-MULANA』などを世に送り出してきた開発チーム「NIGORO」のプロデューサーであり、これまでに数々のインディーゲームイベントの運営面に携わってきた仲村尚史氏は、仲島さんがイベント主宰に名乗りを挙げたことをおおいに喜んだひとりである。長期にわたってインディー・シーンの活性化に尽力している仲村氏は、その一方で、「どんな組織・集団にも新陳代謝は必要。年長者がのさばっていると、思考も人の動きも止まります」と、シーンの牽引役の"世代交代"を歓迎している。

これまでに培ってきたイベント運営ノウハウをIchi Pixelに惜しみなく注ぐ仲村氏。彼はまた、関東地方出身の関西圏在住者という立場からも、大阪で開催するミートアップのありかたを冷静に分析する。

「東京で100人集まるイベントを大阪でやると、50人くらいになるんです。これは単純に、人口の密集度の問題。一時的に客足が増えたとしても、急激に規模を大きくするのはやめようとは(仲島さんに)言っています。大事なのは、関西でゲーム開発者としてやっていきたい人に長くつきあってもらうこと。"ここに来れば、同じ志を持つ仲間に会える"と思ってもらえる場所になるため、毎月かならず開催することは、暗黙のルールですね」(仲村氏)

▲店内では、持ち寄った自作ゲームをお互いに見せあい、プレイしあう光景も多く見られた。初対面の相手でも"ゲーム"を媒介に会話できるのが、開発者向けミートアップの醍醐味といえる。

フリーのWEBデザイナー兼カメラマンである宮澤修平氏も、Ichi Pixelの運営メンバーのひとりである。「僕自身、人とつながるのが好きなんです」と笑顔で語る宮澤氏は、さまざまな交流イベントに顔を出しては、クリエイター・業界関係者と面識を持ち、時には、互いに必要としあう人物同士を引き合わせたりもしている。「(Ichi Pixelに訪れるような人たちは)みんなそうしているのかなと思っていたけれど、どうやらそうではないみたいで……」と気づいた宮澤氏は、イベントカメラマンという立場も活かしつつ、参加者とのコミュニケーションを積極的に図っているという。

仲村氏は、自身の立場を「おっさんの部活動」と冗談めかして表現する。収益第一で取り組んでも長続きしないし、"ゲーム業界の発展のために!"と使命感に燃えても、いまの若い世代の温度には合わないだろうから、むしろ緩くやっていこう……ということは、当初から申し合わせていたという。Ichi Pixelが内輪の寄り合いにならず、毎回新たな参加者が一定数訪れる"生きたイベント"として存続しているのは、運営メンバーのこうした基本姿勢があるからだろう。

 "新しい何かが生まれる場"としての発展

2017年になってからは、イベントの通知手段にLine@(事業者向けLINEアカウント)を導入したり、YouTubeチャンネルを開設してイベント中に行われたプレゼンテーションの動画を公開したり(※プレゼンターの同意を得た回のみ)と、イベントの存在がより身近に感じられる仕組みを積極的に採り入れている。経験ゼロの状態から始めた仲島さん自身、回数を重ねることで「自分はこういう風にしていきたい」という主張が徐々に増えていき、イベントにも新風が吹き込みつつある。

「このイベントに集まった人たちで、ゲームを作ったりできたらいいなと思っています。その状態は、プログラマーだけの集まりでは成立しません。自分の描いた絵を動かしたいイラストレーターさんなど、ゲーム制作に直接関わっていないアーティストにとってもメリットがある、化学反応で新しい何かが生まれる場にしていきたいですね」(仲島さん)

国内インディー・シーンの"地殻変動"は、関西から、ごく緩やかに始まっている。

(撮影/宮澤修平)

◆Information

【Ichi Pixel公式サイト】はこちら>> ※2017年2月中旬より正式オープン予定

【Ichi Pixel Youtubeチャンネル】はこちら>>

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