Scar:難病を乗り越えて

難病を乗り越えて『Mortal Kombat』シーンで活躍を続けるプロプレイヤーを紹介する。
2016シーズンに台頭したScar(左) © Robert Paul/@tempusrob/rmpaul.com
By Ian Walker

トーナメントレベルでのゲーミングは究極的には肉体の強度が求められるものではないが、健康状態が問題になるケースがある。プレイヤーとしていかに優れていても、長期のウイルスや感染による病気はプレイに影響を与えてしまう。そしてこれを誰よりも身近に体験してきたプレイヤーのひとりが、Brad “Scar” Vaughnだ。

世界最強の『Mortal Kombat X』プレイヤーのひとりに数えられるScarは、スポットライトを浴び続けてきた人物だが、2016年末のクリスマスシーズンは特に大きな注目を浴びた。Scarはここ数ヶ月に渡り、アップダウンを繰り返す激しい日々を体験してきたが、そのような日々によって自分が掲げる2017シーズンの大きな目標が消えてしまうことはなかった。

急転直下

元NBAプレイヤーのRick Foxがオーナーを務めるeSportsチームEcho Foxは、格闘ゲームコミュニティ史上最大規模となるプロプレイヤーの大量獲得と共に、2017年を意気揚々とスタートさせている。Echo FoxはScarの他にも、数々の格闘ゲームで成功を収めてきたJustin Wong、ももち、ときどのベテラン3人、『スマブラ for Wii U』シーンで活躍するLeonardo “MkLeo” Lopez-Perez、そして『Mortal Kombat』シリーズのスーパースター、Dominique “Sonic Fox” McLeanを獲得したのだ。

このビッグチームとの契約というグッドニュースの真裏に位置しているのが、Scarが2016年後半に送った苦しい日々だ。Scarは家族や友人とクリスマスを過ごす代わりに、横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)の治療のために入院していたのだ。Echo Foxからユニフォームなどのグッズが送られてくる中、Scarは先行きが分からない長期の入院生活を送っていた。

横紋筋融解症は非常に珍しい病気で、ひと言で説明すれば、骨格筋の急速な壊死を引き起こす病気だ。この病気は大きな痛みを伴う(Scarはこの痛みを、激しい運動をしたあとに感じる体の可動範囲の制限や張りに似ていると表現している)が、筋肉の壊死によって体内のプロテインが血液中に流出することで、腎臓などの内臓の他の器官の機能不全も引き起こしてしまう。トーナメントレベルでプレイする格闘ゲームプレイヤーは、同じ動作を繰り返すことによって生じる手毛根管の痛みなどの心配をする必要があるが、Scarの場合は、命に関わる危険な状況に一気に放り込まれてしまったのだ。

「2日間連続で病院側から僕には問題があるという話を聞かされた。どうなるか分からない状態だってね。僕の胆嚢に異常があって、肝酵素が上昇していると伝えられた。また、複数のスキャンの結果、腎臓が機能停止する危険性があるとも言っていたよ。最悪の気分だったね。メンタルが疲弊したし、ストレスも溜まっていた」

結局、Scarは年末年始を病院で過ごすことになり、『Mortal Kombat X』のビッグトーナメント、Kumite in Tennesseeを欠場したが、Echo Foxとの契約の話、そして格闘ゲームコミュニティ全体からの励ましのメッセージによって彼は前向きな気持ちを取り戻した。

「ビッグトーナメントに出場できなかったのは痛かったよ。NetherRealm Studiosが高額の賞金を用意した最後のトーナメントだったからさ。でも、健康が何よりも大事だし、欠場することにしたんだ。でも、Echo Foxからのビッグニュースが僕の目を2017シーズンに向けてくれた。Echo Foxのメンバーになれたのは本当に素晴らしいことだし、置かれていた危険な状況を脱して、素晴らしい環境に身を置けている今に感謝している。言葉では言い表せないよ」

 

コミュニティのサポート

Scarはトーナメントレベルでのキャリアは豊富ではなかったが、2016シーズンに一気にブレイクした。Echo Foxと契約する前のスポンサー、Panda Globalのサポートによって、Scarはメジャートーナメントの大半に参加することが可能になり、その結果、瞬く間に『Mortal Kombat』シーンで一目置かれる存在へと成長した。そして、EVO 2016、CEO 2016、SoCal Regionals 2016などで残した好成績により、Scarは優秀な若手プレイヤーとしての評価を確立させた。

同年のNortheast Championshipsで、Scarは風邪のような症状を覚えた。彼は薬局で市販薬を購入して症状の改善を図り、そのトーナメントはSonic Foxに続く2位という好成績を収めたが、うっかり摂取した市販薬が横紋筋融解症を発症させる引き金になった。

「実は、今回のクリスマス時期の入院前にも2回入院したことがあったんだ。でも、当時はそこまでトーナメントを転戦していなかったし、ダメージは大きくなかった。初めての時は1ヶ月入院したんだ。病院側はここまで酷い症状を見たことはないと言っていた。病院は筋肉の壊死のレベルを血中のCPK(クレアチンホスホキナーゼ)量でチェックする。通常のCPK値は200~400で、最大でも約20,000なんだけど、僕が救急治療室に初めて入った時のCPK値は57,000もあって、その翌日には300,000まで上昇した。この病気を20年見てきたという人も、こんなレベルの症状は見たことがないと言っていた。今も彼らは原因究明に取り組んでいるんだ」

先日の3回目の入院をする直前、Echo Foxと1ヶ月に渡る打ち合わせを続けていたScarは契約締結を目前に控えていたが、幸運なことに、Echo FoxはScarの病状について万全のサポートの姿勢を見せ、必要なだけ時間をかけて病気を完治させたあと戻ってくれば良いとScarに伝えた。1月上旬に退院したScarは、現在の自分の体調は85%まで戻っているとしている。

「入院中のみんなからのサポートは本当に心が温まるものだったよ。あんなサポートは受けたことがなかった。僕は昔からずっと自分のことを “クールなグループ” には入らない人物だと思っていたし、自分ひとりの世界に閉じこもっていた。だから、みんなが示してくれた愛とサポートは現実とは思えなかったよ。みんながあんなに心配してくれるなんて知らなかったから、感動して涙が出た」

「今はみんなが仲間だってことを理解できているよ」

「強敵と書いて…」な関係のScarとSonic Fox © tempusrob/rmpaul.com

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横紋筋融解症はまだ解明されていない部分が多く、Scarがまたトラブルに見舞われる可能性は残されているが、本人は2017シーズンに向けて士気を高めており、数々の新しいトーナメントや、EVOやESL Pro Leagueなどのビッグトーナメントでの優勝を狙っている。

「僕はSonic Foxほど多くの優勝を記録していないし、僕も彼のように最高の瞬間を味わいたい。それが最大の目標さ。今の僕はメジャートーナメント優勝候補に数えてもらえているけれど、僕自身としてはそれよりもひとつ上のレベル、誰もが欲しがるビッグタイトルを獲得したいと思っているんだ」

現在、ScarとSonic Foxはチームメイトだが、Scarは今も彼をライバルとして捉えている。『Mortal Kombat』シーン最強の2人と言われることも多い彼らは、メジャートーナメントで定期的に対戦しているが、ScarはSonic Foxとの切磋琢磨を続けながら、今後はアイディアの交換もすることで、メジャートーナメントでのEcho Foxの存在感を高めていきたいと考えている。

「Sonic Foxと僕の関係は今も昔もあまり変わらない。基本的には僕は僕、彼は彼って感じで、たまに一緒にトレーニングする程度なんだ。僕たちの今のキャリアは、個別に練習を重ねてきたことで作られてきたんだ。でも、今は同じチームだから以前よりは一緒に練習する機会も増えるだろうし、お互いのアイディアを交換して更に強くなると思う。でも、僕は頂点に立ちたいと思っているし、Sonic Foxが全力を出さずにいられないような存在でいたい。グランドファイナルで彼と対戦する − これが僕のモチベーションなんだ」

Scarは至って前向きだ。ラフな日々も経験してきたが、Echo Foxのサポートもあり、彼が自分の才能を最大限まで活かせる準備は整っている。

「この世の中で何をやろうと構わないけれど、ひとりでは実現できない。サポートが必要になる。素晴らしいサポートシステムの存在は自分にとって大きな助けになる。近くにいる様々な人たちから学ぶことができるからね。格闘ゲームコミュニティに限って言えば、Echo Foxは僕たちが手に入れられる中で最高のサポートシステムだと思うよ」

 

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