【川井式F解剖学】抜きにくいサーキットでの“戦略”

グランプリレポーター“川井ちゃん”の好評連載。各GPのキモとなったポイントを解剖する素人厳禁マニアックコラム、2017年シーズン第2回中国GPのテーマは「各チームの戦略と、その思惑」だ。
Red Bull
© Red Bull
By KAZUHITO KAWAI

今年の中国GPのトップ5は、昨年のトップ5と同じチームが占めた。つまり、昨年の優勝者であるニコ・ロズベルグの名前をルイス・ハミルトンに、3位だったダニール・クビアトの名前をマックス・フェルスタッペンに書き換えると今年の結果になる。とにかく、戦略的には各チームの工夫と思惑、そこからくる失態が見られたグランプリだった。

■ポイント1:レッドブルの判断の良さ

今回のレースは少し濡れ状態からのスタートだった。さらに、スタート後すぐにサーキットの70%以上がほぼドライ路面になった。オープニングラップ終了時のコントロールラインの通過順位は、1位ハミルトン、2位セバスチャン・ベッテル、3位バルテリ・ボッタス、4位ダニエル・リカルド、6位キミ・ライコネン、6位ダニール・クビアト、7位フェルスタッペン(!)。16番手グリッドからのスタートだったフェルスタッペンは、この時点ですでに9台ものクルマを抜き、7番手まで浮上していた。

1周目にウイリアムズのランス・ストロールが、セルジオ・ペレスと接触し、グラベルで止まったため、2周目にバーチャル・セーフティカーとなった。それを見て、フェラーリはベッテルをドライタイヤに交換させ、6番手でコースに戻った。残りの上位チームはそれをしなかったため、これは良い判断かと思われたが、バーチャル・セーフティカーが解除された3周目終了時から4周目開始時にかけ、パスカル・ウェーレインの代役として、ザウバーから出走していたアントニオ・ジョビナッツィがメインストレートでクラッシュ。すぐにセーフティカーが導入されてしまった。

このため、2周目終了時にタイヤ交換していなかった上位ドライバー達がピットに飛び込んだ。ここで秀逸だったのがレッドブルだ。レッドブルは4周目にセーフティカーが導入された時、リカルドのタイヤを交換せず(ピットレーンを通過しただけ)、フェルスタッペンをボックス(ピットイン)させ、彼のタイヤを交換した。これはふたりの差が3.4秒しかなかったため、リカルドのタイヤ交換を行い、そしてフェルスタッペンにも同じ作業をする……、つまりダブルストップにすると、フェルスタッペンが遅れる可能性があったからだ。

レッドブルはセーフティカー・ラップが長引くと判断し、フェルスタッペン1台だけのタイヤ交換に留め、そしてリカルドのほうは、その次の周に作業を行った。これは非常に良い判断だったと思う。それでも本来なら、2台のレッドブルはメルセデスのボッタスの後ろになるはずだった。メルセデスは同じ4周目終了時にトップのハミルトンと2番手を走っていたボッタスをダブルストップさせ、タイヤ交換している。ハミルトンは問題なくトップのままコースに戻ったが、ボッタスは遅れてしまいフェルスタッペンの後ろ、5番手になってしまった。

ピットストップ前のハミルトンとボッタスの差は9.1秒あり、通常それだけあれば、タイムロスせず、ダブルストップが可能だ。メルセデスもそう考えていたからダブルストップさせたのだと思う。しかし、メルセデスはボッタスのタイヤ交換で手間取った。これは3つタイヤを外したところで、リヤジャッキが壊れてしまったから。これによりレッドブルの2台は順位を上げ、それまでの3位リカルド、5位フェルスタッペンから、2位リカルド、4位フェルスタッペンとした。ちなみにバーチャル・セーフティカー時にタイヤ交換したベッテルはボッタスの後ろ、6番手に落ちている。フェラーリは皮肉にも、自チームのサードドライバーであるジョビナッツィに足を引っ張られたというわけだ。


■ポイント2:ライコネンのタイヤ戦略

 レース後、フェラーリのライコネンへの戦略(ソフトタイヤで引っ張って最後まで走り切ろうというもの)は、レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーに「無意味なもの」と、けなされた。これは僕も同感だ。下のふたつのグラフとラップタイムチャートを見て欲しい。

 


ベッテルはメルセデスのハミルトンより2周早く2回目のピットストップを行った。ハミルトンの無線にもあったが、これにより両者の差はそれ以前の12.2秒から9.4秒に縮まった。つまりアンダーカット2周分で2.8秒縮まったことになる。

ハミルトンとベッテルが使っていたタイヤはデグラデーションの少ないソフトなので、アンダーカット一発でも1.4秒と少なめ。しかし、前を行くライバルがタレの大きい、そしてタレきってしまったスーパーソフトを履いていたら、それは2秒以上の可能性もあった。抜きにくいサーキットで、チームの戦略家達はこのアンダーカット効果の大きさを気にする。

話をライコネンの戦略に戻そう。リカルドを抜きあぐねていたライコネンは25周目に「本当に(このタイヤで)最後まで走り切れると思っているのか? そんな感じはしないぞ。前のクルマに近いからスライドしている。もしストップしなければならないとしたら、もうすぐだぞ!」という無線をチームに入れている。序盤、タイヤをソフトに替えたチームの多くは、そのままそれで走り切れるかもしれないと考えていた。土曜日の午前中からの摩耗率だと行けそうな感じだったのだ。フェラーリもそう考えていた。ところが実際には不可能だった。

ライコネンが前述の無線を入れた25周目の時点で、彼のソフトタイヤは21周しか使われていなかった。ただし、ラップタイムグラフからもわかるように、彼のラップタイムは横ばいで、この時点ではデグラデーションが悪化する様子はない。またこの時、彼の目の前を走るリカルドのスーパーソフトタイヤも持ちこたえている。この25周目、両者のギャップは1秒以下だが、フェラーリ陣営がライコネンにリカルドのアンダーカットを狙わせるには、残りの距離がまだ30周以上あったことを考えると、ためらう気持ちは理解できる。

Ferrari
© Ferrari

しかし、23周以上使ったソフトタイヤで走るベッテルのタイムを見れば、ライコネンは(前にリカルドさえいなければ)クルマのバランスがベッテルほど良くないにしても、ラップあたり0.5秒以上速く走れるのは確実。それだけに、ライコネンは30周目を超えた時にリカルドとのギャップが1.5秒以下(射程内)だったので、レッドブルにアンダーカットを仕掛けるべきだったと思う。

中古のスーパーソフトしか残っていなかったからか、フェルスタッペンがすでに2回目のピットストップを行っているにも関わらず、リカルドはコース上に留まっていてくれたのだから……。特にギャップが1.12秒しかなかった31周目終了時は狙い目だったと思う。そうすれば4位でフィニッシュできた可能性が高かった。

ところがフェラーリはライコネンをピットストップさせずに最後までコース上に留めれば、もう1度ピットストップしなければならないスーパーソフトを使っているレッドブル勢の前、3位になれると考え、それをしなかった。結果的にフェラーリがライコネンに2回目のピットストップを行った後、コースに戻った段階ではリカルドとの差が14秒以上になってしまったことを考えれば、30~31周目にアンダーカットを仕掛けるべきだったと思う。ベッテルの戦略は不運なところはあったが、全く無駄がないものだ。なぜ、それをライコネンでできないのか、理解に苦しむ。

 

※48週目以降は省略。

 

◆2017シーズンの記事
第1回 ピットストップのタイミング

 

 

◆AUTHOR PROFILE

KAZUHITO KAWAI
F1のテレビ解説&レポーターとしてお馴染み、“川井ちゃん”こと川井一仁。多くのF1ドライバーやチームスタッフから「Kaz」のニックネームで親しまれる、名物ジャーナリスト。1987年からF1中継に参加し、現在まで世界中を飛び回り精力的にグランプリ取材を続ける。

 

◆INFORMAITON
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