F1 SHIBUYA GP ~F1レーサーが渋谷を快走、その裏側~

ダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペン、いまノリにノッているふたりの現役F1レーサーが渋谷の街を走行する映像が世界中で話題だ。ここでは彼らのコメントとともに映像制作の舞台裏をお届けしよう。
By 中三川大地

 

「街道レーサーっていうの? 今まで映画でしか見たことなかったから、今日は実際に乗れるって聞いて楽しみにしていました」 

マックス・フェルスタッペンはまだ19歳ながら、RedBull Racingのスーツを見にまとってレースを語るときの表情はもうすっかり一人前のF1ドライバーだ。しかし、その緊張から解き放たれるわずかなプライベートタイムにみせるのは、ポケモンGoをこよなく愛するひとりの若者だった。

「これはオーナーがたったひとりで仕上げたんだって? 僕もね、故郷のオーストラリアにはクルマ好きの友達がたくさんいるし、僕自身だって自分で改造するのは大好き。でも工具を使うのはヘタだけどね」

兄貴分のダニエル・リカルドもまた、日本の街道レーサーには興味津々だった。初めて対面したときのクールな造形に惹かれて、いてもたってもいられずに率先して運転席に乗り込む。 

© Maruo Kono

 

レースウイークも佳境に突入し、いよいよ鈴鹿GPが迫った10月のとある日、彼らは1台の旧い国産車に乗って東京を散歩する。それも、1979年式の日産スカイライン(通称ジャパン)にして、70年代後半から80年代前半にかけてのシルエットフォーミュラに端を発して日本のストリートで独特の成長を遂げた街道レーサースタイルだ。まるで、日本の伝統工芸品である。

© Maruo Kono

 

そのアグレッシヴな外観とはうらはらに、実際は拍子抜けするほど乗りやすい。それが流儀かのごとく、常に音楽をかけっぱなしで東京 渋谷界隈を駆け抜ける。転がすだけなら容易いが、表彰台の1位と2位を独占するようなイケイケの現役F1レーサーですら戸惑わせたのは、混沌とした街並みには不便極まりないリベット留めのオーバーフェンダーと、地べたを這うような激低車高だ。随所に備わるガードレールと、そして路面の凹凸が、レース中の無線よりも高い頻度で訪れる。

© Maruo Kono
© Maruo Kono

 

でも、リップスポイラーと路面とがガリッと擦れるたび、お祭りのように騒いだりして、その不便さもまた楽しそうだ。約40年前の擦り切れたファブリックシートから、お祭り騒ぎで目を覚ましたようにちっぽけなクモが出てきたときに、マックスは本気で叫んでいたっけ。F1史上最年少選手として第一線でバリバリ活躍する血気盛んな男も、虫だけは苦手なようである。

© Maruo Kono

  

「僕らが闘うF1マシンとの共通項が何かって? そんなのあるわけない。タイヤが4つ付いていることと、ステアリングで操作することくらい」 

この異色の組み合わせを発見してシャッターを向ける渋谷センター街の人たちに対して終始笑顔を振りまいている彼らの表情から、その言葉が発せられた瞬間、ほんのわずかレース中にみせる真剣な目が宿った。これが日進月歩で進化を続ける世界最先端のマシンを扱いこなし、そして世界最速を目指す男たちの矜持なのか。いかに刺激的な街道レーサーであっても、並列に括れるほどF1は甘くないのである。 

© Maruo Kono

 

同時に、黄色い声援を送る彼らのファンに混じって、70年代の暴走族スタイルをこよなく愛していそうなニッカポッカの男(いかにも職人気質の男)が、ゴツい指でスマホを持ってジャパンにカメラを向けていた。彼には現役F1ドライバーよりも、約40年もの時間が経った街道レーサーがお好みらしい。 

ダニエルとマックスはそれを横目にみつつ、この街道レーサーに多大なる敬意を払っているようでもあった。「F1と同じ刺激があるよ」なんて安直なリップサービスをしては、逆に日本の街道レーサーに対しても失礼だ、と思っていたのかもしれない。時代を超越した魅力を放つ日本の伝統工芸品を前に、彼らはあらためて気持ちを引き締める。世界の頂点に立てば、40年といわず永遠に語り継がれるヒーローになれることを、このふたりはよく分かっている。

© Maruo Kono

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