GTレースの歴史と魅力

フォーミュラだけがレースじゃない! 様々なマシンとドライバーたちが生み出す多様性に満ちたGTレースの魅力を解き明かす。
By James Roberts

ニコ・ロズベルグが2016年のF1ワールドチャンピオンを確定した瞬間、彼は1950年のジュゼッペ・ファリーナから綿々と続くF1世界選手権王者の系譜に名を連ねた。

時に忘れられがちな事実だが、F1を世界最高峰の格式を持つモータースポーツたらしめている根拠は、そのひとつの長い歴史にある。これは、多様なクラス設定、プロからアマチュアに至る多様なドライバー層、巨大メーカーから零細プライベーターに至る多彩なマニュファクチャラーによって成り立っているGTレースにはないものだ。

F1を頂点としたフォーミュラ・レースのヒエラルキーに慣れた目から見れば、GTレース(もしくはスポーツカー・レース)の世界はいかにも混沌として見えるが、一度理解すれば、魅力的な世界が待っている。素晴らしいマシン、多様な才能を見せるドライバー陣、そして多様な国籍を持つ様々なクラス車両が繰り広げるスピードの祭典はほぼ毎週のように世界のどこかのサーキットを舞台に繰り広げられており、その中にはニュルブルクリンク、マウント・パノラマ、デイトナ、スパ・フランコルシャンなどのクラシックサーキットを使用した24時間レースも含まれている。

今回はそのGTレースの歴史と魅力を解説していこう。

1.GTレースの起源は古い

Ford GT40 © Ford

1960年代のGTレースと言えば、伝統のル・マン24時間レースを席巻したFord GT40や、そのライバルとして活躍したFerrariの名車群を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、果たしてこれらはGTマシンなのだろうか? 厳密に言えば答えはノーだ。当時のGTクラスを戦ったSunbeam Alpine、AC Cobra、Porsche 956Bこそ本来の意味でのGTマシンで、GT40がル・マンで出走したクラスは、正確に言えばプロトタイプクラスだった。

GTマシンとは何かをよりシンプルに説明するため、モータースポーツ・コメンテーターで、スポーツカー・レーシング専門家でもあるデビッド・アディソンの弁を借りるとしよう。「GTレースとは、普段見かける市販スポーツカーとほぼ同一のルックスを持つマシンで戦われるレースです。GTレースのFerrariやPorscheのマシンには、ほぼ例外なくそのベースとなるロードヴァージョンが存在します」

 

2. 現代のGTレースの形式は1990年代中盤に成立

Mercedes CLK GTR © Mercedes

「GTレースがスポーツカー・レースの最高峰クラスとしての地位を確立したのは、1994年以降のことです。そのきっかけは、BPRグローバルGTチャンピオンシップの創設でした」とアディソンは語る。「1994年以降、ヨーロッパ全土でGTカテゴリが明確なものとなっていきました。これは、ステファン・ラテルという人物の尽力による部分が大きいですね」

BPRグローバルGTチャンピオンシップは、Porscheとゆかりのある元レーシングドライバーのユルゲン・バースと亜麻色の長髪がトレードマークの実業家ステファン・ラテル、そしてフランス人イベントオーガナイザーのパトリック・ペーターの3人が主導する選手権シリーズで、このシリーズは大きな人気を博した。シリーズは世界中の有名サーキットを転戦し、グリッドにはCorvetteやPorsche、Ferrariなどの錚々たるスポーツカーが並んだ。しかし、巨大マニュファクチャラーの興味と資金投入が、参戦コストの上昇とレギュレーションのたゆみを生むまでそう時間はかからなかった。

この状況は、McLaren F1やMercedes CLK GTRといったゲームチェンジャーの出現を促し、彼らは圧倒的な資金と共に現れてあらゆる勝利を手にし、1990年台後半に入るとGTレースから一気に手を引いていった。

3. GTレースは数多くの名車を生み出したが、世代交代は激しい

 

Maserati MC12 V12 © Maserati

上昇を続ける参戦コスト、そしてPorscheやMercedesなどの著名メーカーによる独占的状況の拡大は、その繁栄に与かろうとするモータースポーツ統括団体FIAの興味を引いた。

1997年から2009年にかけて、ステファン・ラテル率いるStéphane Ratel Organisation(SRO)の主導によりFIA GT選手権が開催され、Porsche 911やLister Storm、Dodge ViperなどのGT2カテゴリ、そして6.0リッターのV12エンジンを搭載し2005シーズン以降の同選手権を席巻したMaserati MC12などのGT1カテゴリのマシンたちによってこのカテゴリは百花繚乱の盛況ぶりを見せた。

2010年までにGT2カテゴリが撤廃された一方、GT1カテゴリは継続された。しかし、FIA GT選手権は次第に時代の変化の波に取り残され、Lamborghiniを駆ったマルク・バッセング&マーカス・ビンケルホックが2012シーズンのチャンピオンになったのを最後に同選手権は終わりを告げた。

4. GTレース人気再燃のきっかけとなったGT3カテゴリ

Audi R8 GT3 © Audi

コスト上昇とメーカーの影響力の拡大に起因するエントラント減少を食い止めるためにGT3カテゴリが創設された。GT3カテゴリは本来GT1とGT2の下位カテゴリとして2005年にFIAが制定したもので、ホモロゲーション認可された最大出力600馬力前後のロードゴーイング・カーを対象としている。つまり、Porsche 911 GT3、Aston Martin Vantage、Audi R8、Corvette、BMW Z4などがその対象となっている。

「コストが上昇を続ける過程でGT2は見向きされなくなり、GT1のマシンもスパ24時間のようなレースには適していませんでした。そこでGT3というカテゴリが制定され、これが契機となってBlancpain GTシリーズのアイディアが生まれたのです」とアディソンは証言する。「GT3の人気が高まっていく一方、従来のGT1はエントラントの減少に伴い斜陽となりました。GT3の参戦コストは安価でしたからね。結果、FIA GT選手権はBlancpain GTスプリントシリーズと名前を変え、FIAの冠を取り去り、FIA管轄シリーズとしての費用を削減したのです」

厳密に定義すると、現在のGTレースは、ヨーロッパを中心としたBlancpainスプリントとエンデュランスカップ(2011年創設)、米国を中心としたWeatherTech スポーツカー選手権、そしてヨーロピアン・ルマン・シリーズとアジアン・ルマン・シリーズによって構成されている。

FIAがフラッグシップカテゴリとして扱っているFIA世界耐久選手権(WEC)はル・マン24時間レースというビッグイベントを抱えており、LMP1/ LMP2 / GTE Pro / LMGT Amの計4カテゴリで構成されている。尚、GTE Proクラスには現在Ford GT40が参戦しており、1960年代のル・マンを席巻した名車と同じ名称を継承したこのマシンは、GTレース黎明期と現代のWECを繋ぐリンク役を担っている。

5.「GTレースは複雑」と感じる人は、バサースト12時間からどうぞ

 

Red Bull Holdenの2017年仕様マシンとジェイミー・ウィンカップ © VUE Images/Red Bull Content Pool

2017年のバサースト12時間レースは、GT3 Proクラスでの優勝を目指して15台以上のマシンが熾烈なトップ争いを展開された。バサースト12時間は昨今のGTレースの人気再燃を象徴するイベントのひとつで、スパ24時間レース、そしてマレーシアのセパン12時間レースと共に、インターコンチネンタルGTチャレンジにおける3大レースの一角を成すビッグイベントだ。

バサースト12時間には「ミスター・ヴァーサタイル」と呼ばれるほどの万能の器用さを誇るシェイン・バン・ジスバーゲン、近年は日本を主戦場に活躍するゲーマー出身のレーシングドライバー、ヤン・マーデンボロー、そしてオーストラリアV8スーパーカー界のレジェンドであるジェイミー・ウィンカップなどの強豪ドライバー陣が参加し、GT Pro/Am、GT Am、GT4、プロダクション・サルーンなど、各カテゴリ総勢50台以上のエントラントと共に1周6.2kmのマウント・パノラマ・サーキットを舞台にハイスピードな戦いを繰り広げた。極めて高いスキルとスピードの融合は、クレイジーなスリルと溢れんばかりの興奮に満ちており、2017年も素晴らしい内容になった。

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