不滅の進化:ドラムンベースの長寿の秘密

20年以上続くドラムンベース。その魅力の根源をトップアーティストたちと紐解いていく。
今もドラムンベースの未来を見つめるGoldie © Chelone Wolf
By Joe Roberts

ドラムンベース界の大御所、Goldieにとって2016年の幕開けは華々しいものとなった。その音楽界における貢献、そして若者たちへの指針を示してきたその実績が認められ、新年の英国叙勲者リストにおいて彼はMBE(大英帝国勲章のひとつ)を授かったのだ。Goldieがデビューアルバム『Timeless』をリリースしたのは21年前。このアルバムは、ロンドンのクラブRageで大量のエクスタシーを摂取しながらFabioやGrooveriderのDJプレイに合わせてダンスした幾多の夜から着想を得た、渦巻くようなグルーヴと未来主義的な世界観を詰め込んだ作品だった。このアルバムはドラムンベース作品として初めてUKアルバムチャートでトップ10入りを果たし、メインストリームにおけるドラムンベースのブレイクを高らかに宣言する記念碑的作品となった。

90年代中盤に快進撃を続けたドラムンベースシーンは、1997年にまたしても歴史に残るマイルストーンを生み出す。Roni Size and Reprazentがデビューアルバム『New Forms』でMercury Music Prizeを受賞したのだ。しかし、90年代も終わりに近づく頃になると、ドラムンベースはダークでパラノイド的なサウンドの方向性へと向かいはじめる。当時のシーンのムードを象徴的に表しているのがBad Companyの「The Nine」であり、またEd Rush and Opticalのデビューアルバム『Wormhole』にはミレニアム前夜の緊張感が張りつめていた。チャート上でそれまでドラムンベースが占めていた位置はUKガラージに取って代わられ、その後もグライムやダブステップが台頭し、メディアからの脚光を奪い去っていった。

「ドラムンベースはこうあるべき」、「こうしたサウンドでなければならない」という既成概念を破り捨てるプロデューサーたちが至る所に存在している

 

しかし、これでドラムンベースが終わったわけではなかった。いや、むしろ00年以降はドラムンベースが本来のアンダーグラウンドな性質を取り戻し、新たな胎動へ向け準備していた時期だと言えるだろう。どのDJも判を押したように同じようなトラックをプレイしていた狂宴の時代はもうとっくに過去へと追いやられた。2012年にYouTubeへアップされた『Raveageddon』と題された映像では、90年代のドラムンベース・ブームが(あくまでも親しみを込めた形で)コメディのネタになったりもしていたが、ドラムンベースのサウンド自体は依然として進化を続けていき、2012年にDJ FreshがRita Oraをフィーチャリングしてリリースした「Hot Right Now」はドラムンベースとして初めてUKシングルチャート1位を獲得した。このドラムンベースの復権はもちろんポップシーンだけに留まるものではない。よりアンダーグラウンドなレベルでも、「ドラムンベースはこうあるべき」、「こうしたサウンドでなければならない」といった既成概念を破り捨てるプロデューサーたちが至る所に存在しているのだ。その過程において、ドラムステップのような新たな派生ジャンルも生まれている。

今回我々はこのシーンで長く活躍する重要人物たちに話を聞き、ドラムンベースがなぜこれほど長く愛され続けているのか、その魅力の根源を探ってみることにした。そして、今もドラムンベースの進化を加速させている注目の新鋭たちの名前も聞き出した。

なぜ長期に渡り生き延びているのか?

「有機的な成長という点こそ、その理由の大部分を占めているんじゃないかな」と切り出すのは、Goldieと共にMetalheadzのレーベル運営を手掛けるIf Khanだ。Metalheadzはその設立当初よりDoc Scottをはじめとするシーンのパイオニアたちを数多く輩出してきた名門中の名門レーベルだ。If Kahnは、ドラムンベース独特のルーツを大事にする精神性が継続の理由ではないかと推測する。「ジャングルとドラムンベース、この2つのジャンルはインターネット時代の到来以前にしっかりと根付いていた。したがって、インターネットのスピードに左右されることなく、じっくりと着実な成長ができていたってことが言えると思う」とIf Khanは語る。

dBridgeはダークなドラムンベースで一世を風靡した名ユニットBad Companyの元メンバーで、現在はExit Recordsのオーナーを務める人物だ。彼は「異論があるのは承知の上だけど」と前置きしながらこう語る。「ドラムンベースっていうのは、英国が生み出した最初のオリジナルなエレクトロニック・ミュージックだと思う。言ってみれば『これこそ俺たち自身の音楽だ』っていう実感があるんだ。だから、僕らが世界に向けて発信している作品にはオリジネーターとしての自負やプライドがあるのさ。プロデューサーたちは本当に心血を注いでトラックを作っているし、みんながドラムンベースを愛している。ずっとドラムンベース一筋で、他のジャンルには見向きもしないような頑固者は今でもたくさんいるよ」

僕らが世界に向けて発信している作品にはオリジネーターとしての自負やプライドがあるのさ

dBridge

 

「今ではすっかり当たり前のことと思われているけどね」と切り出すのは、BBC Radio 1の人気DJにしてShogun Audioのレーベルボスを務めるFriction。彼は昨年、待望のファーストアルバム『Obsolete Medium』をリリースしたばかりだ。ドラムンベースはクラブやフェスなどで独特の能力を発揮すると彼は考えている。Frictionは「俺のキャリアはおよそ9年前にスタートした。それからというもの、多くのフェスや大規模な舞台でプレイする機会がどんどん増えつづけているんだ。みんなドラムンベースを聴きたがっているのさ。ドラムンベースがずっと人気を保ちつづけている理由は、そのテンポや独特のエナジー、プロダクションにあると思うね」と続ける。いっぽう、dBridgeはドラムンベースがさまざまなサブジャンルを生み出す拡張性について指摘する。「ドラムンベースシーンでは誰にでも居場所があるし、ニッチな空間を見つけるために無理にクロスオーバーする必要もない。他のプロデューサーがどんなことをやっているかというトレンドの傾向さえ気にする必要もないんだ」とdBridgeは語り、Frictionもまた同様にドラムンベース独自の多様性について同意する。「このジャンルの美しい点のひとつは、ビッグだったり威勢が良かったりするものもあれば、メインストリーム寄りのクロスオーバーチューンもあったりして多様性が豊かなところだ。それぞれのプロダクションを平等に評価できるのさ。たとえば、Sub Focusのチューンを聴いたすぐ後にdBridgeのチューンを聴いても何の問題もないのさ」

「結局のところ、後付けのジャンル分けなんて何の役にも立ちはしないのさ。共通しているのは、テンポが近いってことぐらいだろ。dBridgeのチューンとSub Focusのチューンがそれぞれ全く異なる種類のエモーションを持ち合わせていることは明らかだ。人によっては片方だけを気に入って、もう片方は気に入らないってこともあるだろうけど、俺みたいなタイプのリスナーだったら両方とも好きになってもおかしくないはずさ」

Ed Rush & Optical

ドラムンベースはどこへ向かうのか?

そのリズム様式の複雑さを考慮すれば、ドラムンベースという定型の上にはあらゆる新たなアイディアを展開できるだけの素地があるというのは当然に思える。「僕らが作り、プレイしている音楽は、制作技術という点では最も難解なものになっているかもしれないね。でも、あらゆるベースミュージックの中でもドラムンベースは依然としてエキサイティングでパワフルなんだ」と語るMatt QuinnことOpticalは、パートナーであるEd Rushと共にVirus Recordingsを主宰しており、2人はドラムンベースシーン屈指の名プロダクションチームとしてリスペクトされている。

Opticalは続ける。「また、最近のドラムンベースでは、他の音楽では到底聴くことのできないユニークなリズムが生まれつつある。本当にカッティングエッジな感覚を持ったプロデューサーたちは、従来の4/4グリッドに沿った音楽からどんどん離れているし、これまで誰もやったことのないような方法でフロアを沸騰させるようなチューンを作る方向に集中していると思う」

また、Frictionはこう補足する。「俺が思うに、アンダーグラウンドなドラムンベースが復活する日は近いはずさ。極端な実験主義的アンダーグラウンド・シーンのことを言っているんじゃなくて、あくまでもダンスフロアを主眼にしたアンダーグラウンド・ミュージックという意味だけどね。こうしたフロアを主眼に置いたアンダーグラウンドなドラムンベースは、ここ数年シーンから失われていたものだ。もちろん過去にもアンダーグラウンドなシーンは存在したが、Chase & Status、Sub Focus、Andy C、そして俺のようなドラムンベース・アーティストが属するコマーシャルなダンスシーンからは完全に切り離された状態が長く続いていたからな」

また、彼はアンダーグラウンドとオーバーグラウンドの双方を繋ぐ「ミッシング・リンク」が存在していた時代を、Calyx & TeebeeやFourwardのことを引き合いに出しながら懐かしく回想する。「Bad Companyがスタジオで制作しているという噂を聞きつけたCalyx & TeebeeやFourwardがやってきて、そこにサウンドを加えたりしていたものさ」

アンダーグラウンドなドラムンベースが復活する日は近いはずさ

Friction

 


Frictionの意見とは対照的に、dBridgeはドラムンベースが今後他ジャンルとのクロスオーバーをすることで成功を得ていくはずだとの持論を展開する。彼は自身の運営するレーベル、Exit Recordsが辿ってきた道のりを引き合いに出しながら「僕のレーベルはドラムンベース専門だと思われがちだけど、個人的にはエレクトロニカ・レーベルとして見てもらいたいという思いがある。僕のレーベルの作品にはヒップホップからの影響を受けた作品もあるし、アンビエントに影響を受けた作品もある。IDMと言っても差し支えない内容の作品もあるしね」と語る。

dBridgeの発言を裏付けるために、2015年終盤にStrayがExitからリリースしたEP「Paradise」をチェックしてみてほしい。このEPには、「Queen」のようなリキッドローラー・チューンから、タイトル曲「Paradise」のような暖かなシンセとサイレン、ヘビーなスウィング感に満ちたBrainfeeder的ヒップホップ・トラックまで幅広いテイストが展開されている。また、Strayはソロ活動と並行してIvy Labというプロジェクトに参加しており、2015年には『Ivy Lab Presents 20/20 Volume One』と題されたデビューアルバムを発表。ここでは「Hiya」のようなトラックでハーフタイム・ビーツを下敷きにした実験を展開しつつ、純然たるグライム・チューンと呼べそうな「No Answer」まで多様性に満ちた作風を展開している。

また、昨今にわかに盛り上がりを見せるフットワーク影響下のジャングルの存在も興味深い。ジャングルが培ってきたチョップド・ブレイクス(切り刻まれたブレイクビーツ)という手法に、シカゴ・ジュークに発祥を持つ最先端のリズムをかけあわせたこのサウンドクラッシュをドリーミーな音楽にまで引き上げたアーティストこそ、Exitからも作品をリリースしたロサンゼルス在住のアーティストMachinedrum(本名Travis Stewart)だ。

Ivy Lab

ドラムンベースの強さとは?

「ドラムンベースシーンは、常にロンドンが先導してきたんだ」と語るのは、ジャングルの始祖として知られるFabio。長年の相棒であるGrooveriderと共に現在もなお精力的な活動を続けるこの伝説的DJは、この記事のためのインタビューを行った月にも6回のギグを抱えていた。彼はシーンの中心はあくまでもロンドンであるとしながらも、同時にブリストルやバーミンガムにも健全なドラムンベースシーンが存在すると語る。「週ごとのイベントの数はかつてほど多くはないが、水曜の夜にMotionで開催されているBailey’s Soulは凄く盛り上がっている」

「たしかに、ロンドンこそシーンの中心地さ」と語るのはFriction。しかし、彼はShogunが手掛けるイベントや、RamやHospital Recordsといったレーベルによるロンドンのレギュラーパーティを例に出しながらも、マンチェスターのパーティWarehouse Projectにも賞賛を送る。Frictionがこのパーティにゲストとして招かれた際、木曜日の夜にもかかわらず3000人ものクラウドの前でプレイしたそうだ。

ドラムンベースは依然として男性中心のシーンだ。こうした現状は、20年以上の歴史を持つシーンとしては理想的ではない

Fabio

 

ロンドンを代表するクラブ、Fabricには常に熱心なドラムンベース支持者たちが集まっている。このクラブが展開している名物MIX CDシリーズにおいて相棒のEd Rushと共に「FABRICLIVE 82」を手掛けたばかりのOpticalは「Fabricは僕らにとって精神的な拠り所であり続けているのさ」と語る。一方、OpticalとEd Rushが率いるVirusクルーはヨーロッパ各国をはじめ、米国、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、そしてロシアなど世界各国でも精力的なツアーを行っている。

If Kahnは最近中国とインドで体験した印象的なパーティを思い起こしながら、国際的なドラムンベースシーンの広がりを実感している。いっぽう、現在ベルギーのアントワープに住むdBridgeは、Kahnとは若干異なる意見を述べている。「僕の誤解かもしれないけど、ロンドンでは大量の人口流出が進行しているように見えるんだ」と、現在は外部からロンドンを見ている彼はその客観的印象を語る。ロンドンでひたすら上昇を続ける生活コストから逃れるため、MalaもまたdBridgeと同じくアントワープへ移住したという。こうした動きは、近い将来におけるシーンの変化を示唆しているのかもしれない。

Fabio & Grooverider

これから注目すべきアーティストは?

「本当に沢山の注目すべきアーティストがいるんだ」と語るのはOpticalだ。彼は頭の中にある長いリストをめくりながら、まずは地元ロンドンの逸材、InsideInfoの名を挙げる。彼はFabricからのお墨付きも得た注目のニューカマーだ。さらに、無慈悲なまでに歪みの効いたドラムンベースを数多く生み出すオランダからはNoisiaとBlack Sun Empireの名前が挙がった。

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