The End of the Beginning
© Yusaku Aoki
ミュージック

The End of the Beginning – AIR閉店に寄せて

2016年を迎えると同時に閉店した代官山のクラブ “AIR” が東京のクラブ・シーンで果たした役割、そしてその先に見えてくる未来とは?
Written by 浅沼優子
読み終わるまで:4分公開日:

13分

air

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今年の新年カウントダウン・パーティーを最後に、代官山のクラブAIRがその14年の歴史に幕を閉じた。経営上のやむを得ない理由からとはいえ、長く続いてきた名クラブがまた一つ無くなってしまったことは実に寂しい。
AIRがオープンした2001年という年は、今振り返ると東京においてクラブ・シーンが最も活気づいていた、最盛期だったように思える。西麻布にはYellowがあり、新宿歌舞伎町にはLiquidroomやOtoがあり、青山にはManiac LoveやMix、渋谷にはCave、Harlem、Nuts、Club Asia、Wombなどがあった。六本木界隈や下北沢にもそれぞれのカラーに合うクラブが多く営業していたし、翌2002年には首都圏最大規模のageHaが新木場にオープンした。
代官山という、夜の繁華街ではないひっそりとしたロケーションに定員500人超の中規模のクラブが出来ると当時聞いた時は、結構驚いたように記憶している。2004年にLiquidroomが恵比寿に移転し、Unitも代官山に登場したことから、この一帯を音楽好きが行き来するようになったが、それまでは渋谷駅の南側にThe Room、東側にSecobarがあるくらいで、それより先は夜遊びエリアからは外れているように感じたからだ。いわゆる「オオバコ」と呼ばれる千人以上クラスでもなく、数百人以下の「コバコ」でもない、その中間の大きさも新鮮だった。代官山といえばファッションの街で、遊びに来る人も「クラバー」というよりはおしゃれで落ち着いている印象の人が多かった。コマーシャルでもなく、とてもアンダーグラウンドというわけでもない、まさに東京のクラブの平均的スタンダードを象徴していたのがAIRだったように思えるのだ。そしてそのスタンダードは、世界にも類を見ない高さを誇っていた。
The End of the Beginning

The End of the Beginning

© Yusaku Aoki

東京を訪れる、もしくは日本に憧れる訪米人のほとんどが見ているであろう、2004年の東京を舞台にしたアメリカ映画『ロスト・イン・トランスレーション』で、主人公の映画俳優と出張中に彼が出会う若い女の子が共に訪れる東京のクラブのシーンが撮影されたのがこのAIRだった。このため、東京のクラブというとここをイメージする外国人は多い。遊び慣れた感じのファッショナブルで都会的な人々が集い、華やかさと色気、そしてややミステリアスな雰囲気を備えた場所。人と音楽が混ざる、東京の洗練を表す空間、そんなクラブらしいクラブだったのだ。
The End of the Beginning

The End of the Beginning

© Yusaku Aoki

通常ならオオバコで使用するようなスケールの最高品質のサウンドシステムと、吹き抜けの天井の堂々と輝く大きなミラーボール、そして黒い壁に映える鮮やかな照明。正面のダンスフロアよりほんの少し高い位置に設置されたDJブースは、DJの使い勝手がいいように完璧にデザインされていた。そこで、14年の間、東京の若手から日本のトップDJたちの多く、そして数々の世界的スターDJたちもプレイしてきた。
奇しくも、AIRは「当たり前に存在するが無くなると生きていけない、そんな空気のような場所でありたい」という願いを込めてつけられた名前だったという。AIRが空気のように当たり前に存在する時代は終わってしまい、その他の伝説的な東京のクラブの多くが姿を消してしまった。AIRが無くなってしまったことは、遊び場の一つ減ってしまったというだけでなく、東京のクラブの指標となっていた場所が消滅してしまった喪失感がある。日本から海外へ進出して活躍するDJやアーティストが増えている一方で、東京のクラブ•シーンは現在まさに過渡期にあると言えるだろう。AIRのように、「東京の当たり前」は至ってカッコ良く、良質で魅力的なんだということを今一度体現してくれるようなクラブが、近い将来に生まれてくれることを願う。
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