私が愛したエレキギター:YO-KING
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ミュージック

私が愛したエレキギター:YO-KING

真心ブラザーズのヴォーカル&ギターとして日本の音楽シーンの第一線を走り続けるアーティスト、YO-KINGさんが自身のギター哲学をマイペースに語る。
Written by 西廣智一
読み終わるまで:7分公開日:
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さまざまなアーティストがライブやレコーディングで使用するエレキギターの数々。これらの名器/愛器はどのような理由でアーティストの手に渡り、どんな思いで普段使われているのか。YO-KINGさんは今から7、8年前に大阪の楽器店で、自分が生まれた1967年に生産されたエピフォン・カジノを手に入れた。このインタビューではこのギターに対する思いからギターや音楽に対する考え方、さらには好きなビートルズのギタリストまで、雑談に近い形でギター談義をしてもらった。
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──この色のカジノ、実物を見るのは初めてです。
本当ですか? ちょうど僕の生まれ年に作られたそうで、それを聞いたら買おうと思って。しかも67年製しかこのカラーがないっていう噂もあって、それはもう買えってことですよね。モノを買うときってそういう縁というか、買うべき要素が2、3こ重なると買おうっていう気になるんですよ。
──ギターを購入するときって、そういう縁以外に何か基準ってありますか?
ギターってある程度までは価格といい音の度合いが正比例してるんだけど、あるラインから骨董的価値になって、値段といい音っていうのが決して比例するわけじゃなくなるんですよね(笑)。僕の場合は即戦力を探してるんで、やっぱりこの「比例するライン」までのギターを探す、という感じですね。
──なるほど。どうしてカジノが欲しかったんですか?
最初はセミアコを1本も持ってなかったんで、カジノかギブソンのES-335のどっちかが欲しくて。カジノはジョン・レノンが「Let It Be」で持ってるイメージがあるから、特にね。ただ、若い頃はギャーンと弾きたいから、セミアコは難しいギターなんですよ。例えばレスポールとかサステインが長いからずっと鳴ってくれるけど、カジノはそんなになくて。常にギターの音が前に出ているわけじゃないから、音と音の合間にドラムとかベース相手に「どうぞ、どうぞ」って譲ることができるギターですよね(笑)。
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──レスポールは花形だし前に出ていってしまうと。
そうそう、ドーンと出ちゃいますから。だから、カジノはどちらかというとバッキング用のギターっていうイメージがありますよね。実はこれ、僕以上にメンバーの桜井(秀俊)さんが気に入っていて、やたらと「貸してくれ」って(笑)。レコーディングだとよく使ってるんですよ。
──メンバー同士でそういうやり取りもあるんですね。ギターは頻繁に探すほうですか?
僕は欲しいなという思いが降りてきたときに探すというか。ジャガーが欲しいなと思ったらジャガーを探して、これがいいかなっていうのを買っちゃうという。でもね、自分はまだそこまではいってないけど、自分的には弘法筆を選ばすで、どんなギターでもいいっていう人がカッコイイかなと思うんです。僕、ツアーでもレンタルでいいっちゃあいいんですよ(笑)。あと重いしね(笑)。
──(笑)。
旅は手ブラ派なんで、珍しいと思いますよ。楽器は好きだけど、こだわりは特にないっていう。
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──ところでYO-KINGさんはいつ頃からギターを始めたんですか?
僕ね、小4なんですよ。ただ、バンドのギタリスト方向に行くというよりはフォークの弾き語り方向に行ったんで、テクニック的にはスリーフィンガーはできるんだけどロックっぽいギターは大学に入るまでやってなくて。
──憧れのギタリストというと誰ですか?
ベタですけどキース・リチャーズですね。早弾きとかにはあんまり興味がないんですよ。ただ、先日亡くなってしまいましたけどプリンスのギターはすごいなと思ってました。あんなに弾けたら楽しいだろうなと。ただ、僕は下手は下手なりに楽器と一体化することができるんじゃないかと思っていて。あの一体感は努力してできるものではなくて、ある程度選ばれた人というか根拠なき自信を持つ者だけが入っていけるというか、「俺、今すげえ音楽と一体化してるな」っていう確信があるかどうかなんですよね。別に科学的根拠とかいらなくて。そのときは演奏もすごいいいと思うんです。
──そう思えるようになったのって、いつ頃からですか?
ここ1年ぐらいですね。
──そんなに最近のことだったんですね!
そうそう、最近。努力とか練習とかは嫌いなんだけど(笑)、そういうところを探索するのは好きなんですよ。どういう心境で音楽をやるか、自分の心持ちがどう表現に影響していくかというのを実験しているような感じなんですよね。だから僕でいうと常に楽しく上機嫌でいると、どういう音楽ができるのかっていう実験をしてるような(笑)。お客さんも楽しませたいんだけど、やっぱり基本は僕の遊びだと思ってるんで。それに付き合ってもらって、ダメだったらまあ消えていけばいいなっていう覚悟はいつでもあります。
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──なるほど。これは完全にビートルズファンとしての質問になりますけど、ポール・マッカートニーもギタリストとして相当な腕前ですけど、YO-KINGさんはビートルズの中では誰のギターが一番好みですか?
好みは……やっぱりジョージ・ハリスンですかね。昔はジョン・レノンの、テクはないけどアイデア一発のやつが好きだったけど。「Cold Turkey」のギターソロとかすごくいいんですよね。(実際に弾いてみせる)ちょっとアバンギャルド系なんですよ。でもね、やっぱりジョージのフレーズがすごいなと思います。
──僕も最初はジョンのギターが好きだったんですけど、最後に行き着いたのは同じくジョージだったんですよ。
早弾きでもないし、ちゃんとメロディがある。先日久しぶりに「Real Love」を聴いたら、短い小節数の中にいろいろ入っていていいソロなんですよ。で、たまに長いソロが入ってる曲があるなと思うと、エリック・クラプトンが弾いてたりして(笑)。たぶん長いアドリブが入るようなブルースソロって、苦手なんじゃないですかね?
──納得です。ではいつか欲しい究極のギターってありますか?
究極のギターは……いや、もう手に入れちゃったかもしれない。あんまり我慢しないんで、欲しいもので買えるものだったらすぐ買っちゃうし(笑)。ヴィンテージもそんなにね……もう大体今所有してるのでいいかなって感じです。やっぱりギターって触ってあげてナンボだし、死ぬまでに1回もケースから出さないギターってかわいそうじゃないですか。
僕、これからはモノを減らしていくと思います。毎日触れられるぐらいの数でいいんじゃないかなって。時計とかスニーカーとか洋服とか。マンガ、CD、レコードもあるし。ヤバイですよ。どうしましょう(笑)? 楽器も使うもの以外はちょっとずつ減らしていってるんですけどね。
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──そういう姿勢は自然と音楽にも反映されていくものなんでしょうか?
反映されるでしょうね。相性っていうかね、いいモノから使っていくっていうのは大事ですよ。でも僕はミュージシャンでは本当に珍しいタイプだと思います。普通は自宅にスタジオとか作りたがるんだけど、そういう感情もまったくないし(笑)。「なんでみんなスタジオ作りたいんだろう、家にまでスタジオがあってどうするの?」って(笑)。
──毎日家で弾きたいからじゃないですか?
でも僕、ひどいときは10日ぐらいギターを触らないこともあるから(笑)。知り合いの中では一番ここ(指の先)が柔らかいですよ(笑)。そういう意味では、仕事としてやってるけども、ちゃんとアマチュア感覚はあるかもしれないですね。
──そういう感覚が楽しもうという気持ちにも直結してる?
そうですそうです。とにかく絶対に努力や苦労はしないぞともう決めちゃったんで(笑)、決めたことは貫き通さなきゃいけないなって。でも、ちょうど時代が「こういう生き方もいいよね」って受け入れてくれるようになってよかったです。昔はこんなこと言ったら先輩からもファンからも怒られちゃうし、大変でしたよ。だからこういう考えで音楽やってもいいよねって人が増えたら、すごく素敵な状況なんじゃないかなと思うんです。
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◆Profile
YO-KING
1989年、真心ブラザースとしてデビュー。2015年には初のカバーアルバム『PACK TO THE FUTURE』をリリース。YO-KINGとしてソロでも活躍する。YO-KING×桜井秀俊 弾き語り対マン・ツアー『サシ食いねぇ!』を全国巡演中。