2016年洋楽ベストアルバム25

Angel Olsen、Anderson .Paak、Kendrick Lamar、Frank Oceanなど、2016年も素晴らしいアルバムの数々がリリースされた。
2016年ベストアルバム
By Alex Herrmann, Troy Kurtz, Bailey Pennick and Elliott Sharp

2016年が奇妙な1年だったと言ってしまうのは簡単だが、少なくともそのハードで大変な1年を切り抜けさせてくれた素晴らしい音楽がいくつか存在した。奇妙な1年だったという意見は何も間違っていない。むしろ、真実だ。しかし、今年我々が受け取ることができた素晴らしき音楽的功績に暗い影を投げかけてしまう。

正直に言えば、2016年のベストアルバムの多くは、これまでの年にリリースされた作品を一掃するほど素晴らしいものだった。近年の音楽業界は常に変化しており、アーティストたちは進化を重ねながらお互いから新しくてエキサイティングな何かを学び取っている。近年の音楽がスペシャルな理由、そしてアルバムごとに我々が魅了される理由はここにある。これは偶然のサプライズではない。1年を通じて素晴らしいアルバムが聴けているのは、革新的なサプライズなのだ。

Kendrick Lamarの「To Pimp A Butterfly」なくして、Beyoncéは米国の黒人社会に光を当てたアルバムをリリースできていただろうか? Chance the Rapperの山火事のように世間に広がっていった楽観主義なくして、Kanye Westは『The Life of Pablo』でここまで明確にゴスペルを引用できていただろうか? 有り難いことに、音楽のコミュニティはこれまで以上に密接に繋がって、積極的にコラボレーションを重ねるようになっているため、我々がその答えを知る必要はない。

2016年は美しい瞬間とパワフルなリリースに溢れた1年だった。今回はベストアルバムを25枚ピックアップして紹介する。

 

25:Tycho『Epoch』(Ghostly International)

2010年のBurning Manでの夜明けのセットでエレクトロニック・ミュージックを再活性化させたScott Hansenが率いるTycho。その運命の朝から数えて3枚目のアルバムとなるのが『Epoch』だ。そのどこかに暗さが感じられる優美な音楽はいつも通りだが、レイヤーを重ねて生み出されていくHansenのエレクトロニカはこのアルバムでひとつのピークを迎えている。ロングドライブのお供を探している人は、『Epoch』を試してみると良いだろう。(Troy Kurtz)

 

24:AlunaGeorge『I Remember』(Island)

Aluna FrancisとGeorge ReidのユニットAlunaGeorgeのセカンドアルバムとなる今作は “2作目のスランプ” に陥ることを上手く回避しており、自信と世界を意識したダンスチューンが備わっているこのアルバムは、2016年の他の優秀なアルバム群に一切引けを取っていない。2人は最近流行のジャンルに手をつけており、ダンスホールにも挑戦しているが、「I’m In Control」ほどこのリズムを上手く消化できているトラックは、DrakeとRihanna以外のアーティストの作品ではないに等しい。『I Remember』には「Mean What I Mean」など、数々のヒットトラックが詰まっているが、Francisがベッドルームポップの領域に取り組んだ「Mediator」などでは繊細な一面も楽しめる。(TK)

 

23:Hinds『Leave Me Alone』(Mom + Pop)

スペイン・マドリッド出身の女子4人で構成されるHindsは、今年1月に1年を代表する1枚『Leave Me Alone』をリリースした。太陽、気楽な旅、そして若さ溢れる夢物語などの特徴をタイトル(Leave Me Alone/放っておいて)で見事に表現しているこのアルバムは、リスナーたちに音楽を聴く楽しさを提供してくれた。しかし、彼女たちのサウンドを間違った方向に想像してはいけない。『Leave Me Alone』は生々しく荒々しい最高のガレージロックアルバムなのだ。(Bailey Pennick)

22:RÜFÜS DU SOL『Bloom』(Sweat It Out)

Disclosureのデビューアルバム『Settle』の爆発的なヒットがRÜFÜS DU SOLのようなバンドに対して、世界にインパクトを与えるチャンスを与えたのかどうかは分からない。しかし、アンダーグラウンドなクラブカルチャーをメインストリームに紹介したDisclosureと同じく、オーストラリアの3人組RÜFÜS DU SOLにも、シンガロングできるハウスミュージックを生み出す才能が備わっている。『Bloom』もその方程式に沿ったアルバムだが、最後を飾る10分間の大曲「Innnerbloom」は彼らの魅力がキャッチーなリフだけではないことを示している。(TK)

21:Whitney『Light Upon the Lake』(Secretly Canadian)

Julien EhrichとMacx KakacekのソングライティングデュオWhitneyの鬱や失恋などのシリアスなテーマへの取り組みにはどこか大胆不敵な感じがある。そして、Whitneyの考え抜かれたキーボードソロやホーン、ギターリフは、すべての楽曲を名曲に感じさせる。『Light Upon the Lake』は気楽なリスニングが楽しめるアルバムだが、同時に非常に大きな満足感も提供してくれる。楽器演奏は非常にリラックスしており、触感性とグルーヴがあるビートは安心感と落ち着きを提供してくれる。我々全員が必要としていたサウンドだ。(BP)

 

20:Sumac『What One Becomes』(Thrill Jockey)

Sumacのセカンドアルバムとなる今作は強烈な爆音が詰まっており、これこそ我々がメタルバンドに求めるものだ。しかし、最も素晴らしいのは、Aaron Turner(ISIS、Old Man Gloom、Mammifer)が率いるこのトリオバンドが、集合と破壊を見事に行き来しているという点で、最小限のサウンドと最大限のサウンド、ビッグなリフと細かいノイズ、そして空間性と高密度の優れたバランスは、リスナーの注意を喚起し続ける。オンスターチューンの「What One Becomes」は超強力なので、特に注意が必要だ。(Elliott Sharp)

 

19:Nicolas Jaar『Sirens』(Other People)

Nicolas Jaarの作品を聴くのは、豪華な夕食を終えたあとで暖炉の前に座って滑らかなポートワインを飲むようなもので、言い換えれば、我々が時として必要とする耳のデトックスだ。Jaarは2011年にリリースしたデビューアルバム『Space Is Only Noise』は、非常に綿密に編み込まれたエレクトロニック・ミュージックで高い評価を得たが、このアルバムをきっかけに “神童” と呼ばれるようになった彼が満を持して今年リリースしたのがセカンドアルバム『Sirens』だ。空間と時間を自由自在にコントロールする彼の才能は圧倒的で、子供の頃のレコ−ディングと政治的メッセージが込められたポエトリーが含まれるこのアルバムは、彼のこれまでのキャリアを通じて最もパーソナルな作品になっている。(TK)

18:Ka『Honor Killed the Samurai』(Iron Works)

Kaがラップすれば誰でも耳を傾ける。ニューヨーク・ブラウンズビル出身のラッパーである彼は、ヒップホップと人生を学び続けており、4枚目の自主制作アルバムとなる『Honor Killed the Samurai』は、ストリートでの自分の体験を封建時代の日本の歴史と精神に結びつけている。今作は不吉なムードと悲しさを擁した催眠的な作品で、歴史を重視した知識に溢れる彼のユニークなリリックに最高の雰囲気を提供している。「Just」を大音量でかけながら、『武士道』を読み、腕立て伏せ100回をこなしてみよう。(ES)

17:Danny Brown『Atrocity Exhibition』(Warp)

デトロイトが生んだ比類なきラッパー、Danny Brownの最新作となる今作は、2011年にリリースされたカルトクラシック『XXX』に、さらなる冒険心に溢れるビートと、Brownのトレードマークである奥深さと刺激に満ちた鼻にかかったフロウとリリックを加えた作品だ。『Atrocity Exhibition』はロックのように聴こえる時も多いラップアルバムで、実際、本人はインスピレーションの源としてTalking HeadsやJoy Divisionの名前を挙げている。英国人プロデューサーのPaul Whiteが大半を手がけたサウンドは今年リリースされた他のヒップホップアルバムとは一線を画しているが、Brown本人の才能も頭ひとつ抜き出ている。(Alex Herrmann)

16:YG『Still Brazy』(400/CTE/Def Jam)

『Still Brazy』は特に目新しいアルバムではない。24インチのリムを付けたローダウンの車でLAのストリートを走り回るようなサウンドだ。要するに、コンプトン出身のこのラッパーの最新アルバムは、ウェストサイドが得意としてきたベースとシンセを組み合わせたストレートな作品に仕上がっているというわけだ。しかし、YGは往年のウェストサイドサウンドをただリバイバルさせたわけではない。彼はコンプトンと同義であるこのサウンドを使いながら、自分の人生をえぐり取るような真正直でパーソナルなストーリーを披露している。この作品は簡単に消化できるような作品ではない。「Who Shot Me」はストリートでの成功に伴う危険が示されており、「I Got A Question」は鮮やかなディテールと共に米国の警察の暴力に疑問を投げかけている。(AH)

15:Kanye West『The Life of Pablo』(GOOD/Def Jam/Roc-a-Fella)

今回のリストではこのアルバムのどのバージョンを取り上げれば良いのだろうか? 様々な変更が加えられ、再アップロードが繰り返され、初期ミックスには問題が散見され、「bleached asshole」というフレーズは物議を醸し出したが、それでも、ここ10年のヒップホップの頂点に輝き続けるアーティストはまたやってくれた。「Ultralight Beam」は5分間の教会のエクスタシーとも表現できる作品で、「Real Friends」と「30 Hours」で久々にラップらしいラップを披露するなど、このアルバムの “最高” はどこまでも “最高” だ。『The Life of Pablo』は、本人のキャリアを通じて最もまとまりに欠けた、最も完成度が低いアルバムなのかも知れないが、Kanye Westは、時にダーティで時に美しい、そういう男なのだ。(AH)

14:Kaytranada『99.9%』(XL)

Kaytranadaのデビューアルバムに参加したアーティストのラインアップには、若手とベテランのトップアーティストが揃っている。2016年を盛り上げたAnderson .PaakやAlunaGeorge、ベテランのCraig Davidが参加しているこのアルバムは、モントリオールのビートメイカーLittle Dragonの見事な筆さばきで仕上げてられた作品だ。しかし、『99.9%』の特徴は豪華ゲストだけではない。Kaytranadaのドラムプログラミングの比類なき才能がこのアルバムを、2016年を代表するファンキーな1枚に仕上げている。(TK)

 

13:Solange『A Seat at the Table』(Columbia)

Solangeは内省的なアーティストだ。彼女は自分のペースで活動を続けながら、言いたいことがある時だけ口を開く。『A Seat at the Table』での彼女は、自分の声を届かせようとしているばかりか、光が当てられることがない米国黒人女性の声なき声も代弁している。近年のアルバムリリースのペースは2~3年に1枚だが、彼女の前作がリリースされたのは2008年であり、このアルバムがリリースされるまでに実に8年の歳月を要したことになるが、このような思慮に満ちたパーソナルで誇りに満ちている音楽のためなら、我々は喜んでまた8年という長い時間を待ちたい。(BP)

 

12:Blood Orange『Freetown Sound』(Domino)

Dev Hynesほどコラボレーションしたアーティストの才能を引き出せる人間はいない。彼の最新プロジェクトBlood Orangeの『Freetown Sound』は、彼のソングライティングとグルーヴの見事な手腕が発揮されている作品だが、このアルバムのマジックは、Hynesの声はもちろんだが、参加したゲスト女性ヴォーカリストたちの素晴らしい声が担っている部分も大きい。過小評価されている声なきものたちにフォーカスしたこの感動的なアルバムで、Nelly Furtado、Carly Rae Jepsen、Empress Of、Debbie Harryなどが見事なパフォーマンスを披露している。(AH)

11:Skepta『Konnichiwa』(Boy Better Know)

Skeptaが2016年を席巻する兆候は常にあった。グライムのパイオニアである彼が率いるレーベルBoy Better Knowは、DrakeとKanyeと契約を交わし、「Shutdown」はパフォーマンスされるたびに論争を巻き起こした。そして、『Konnnichiwa』が春にリリースされると、今度はビザの問題からアルバムツアーに出られなくなり、CoachellaとLollapaloozaの出演キャンセルで話題を振りまいた。そして、地元英国での人気も1年を通じて登り続け、このアルバムはRadioheadとDavid Bowieを上回ってマーキュリー賞を獲得した。米国での政治状況を踏まえると、SkeptaがLil’ Yachtyの後釜に納まるのは時間の問題だろう。(TK)

 

10:Nick Cave & The Bad Seeds『Skeleton Tree』(Bad Seed)

筆者が『Skeleton Tree』を初めて聴いたのは、このアルバムが公式にリリースされる前夜に満席の映画館でこのアルバムがサウンドトラックとなっているドキュメンタリーフィルム『One More Time With Feeling』を観た時だった。このドキュメンタリーフィルムは、10代の息子を亡くしたCaveのショックとそのショックがアルバムにいかに大きな影響を与えたかを、圧倒的な筆致で描いている作品だ。『Skeleton tree』は、我々がNick CaveとThe Bad Seedsを愛するようになった理由と同期している作品だが、収録されている楽曲群はこれまでよりもどこか厳粛で終末的だ。陰鬱だが刺激的なサウンドは悲しみによって引き出されたものだが、新しい癒やしと人間同士の繋がりを見出そうとしている。(ES)

9:Radiohead『A Moon Shaped Pool』(LLLP LLP)

Radioheadが嫌いな人たちはRadioheadの9枚目のアルバム『A Moon Shaped Pool』をColdplayと比較したがる。しかし、Coldplayが「Daydreaming」のようなパワフルで陰鬱な楽曲を書けるだろうか? 絶対に無理だ。そして、「Yellow」がそうじゃないかという意見はお門違いも甚だしい。この楽曲で聴ける悲しみや絶望はThom Yorkeだけが捉えることができるものであり、アルバムを通じて引用されているエイリアンやその他のSF的要素についても彼ならではのものだ。また、Johnny Greenwoodによるオーケストレーションは、近年のこのバンドの特徴だった、やや冷ややかなエレクトロニックからの美しく柔らかな離脱になっている。2016年内にこのアルバムほど説得力がある魅力的な9枚目のアルバムをリリースできるバンドが他にいるとは考えにくい。なぜなら、Radioheadはまさにスタンドアロンな存在だからだ。彼らは唯一無二の孤独な存在なのだ。そして、それ故にThom Yorkeは悲しみの中にいるのだ。(ES)

8:Frank Ocean『Blonde』(Boys Don’t Cry)

『Blonde』をリリースするまでのFrank Oceanの双肩にはハイプマシーンとしての責務が重くのしかかっていた。よって、偽のリリース日を報じ、フェスティバルの出演をキャンセルし、ヴィジュアルアルバム(『Endless』:このリストに単体でリストアップされる可能性があった)をリリースし、ワンオフの雑誌をリリースしたあと、ようやくこのアルバムがリリースされた。しかし、ここまで長い時間をかけたアルバムでFrank Oceanがリスナーに与えたものは非常に “少なかった”。『Blonde』は非常にミニマルなアルバムで、絞り込まれた音数と控え目なプロダクションによって生み出されたその大半からは、ドラムサウンド自体が取り払われている。

このような特徴を持つ『Blonde』で輝きを放っているのが、Frank Oceanのソングライティングの才能だ。空間がゆったりと取られた刹那的なプロダクションは、常にヴォーカルにフォーカスしている。前作『Channel Orange』のクライマックスは、10分間に及ぶヒップホップドラムサウンドと派手なシンセがOceanの語るストーリーに彩りを加えていた「Pyramids」だったが、『Blond』では、地味な「Soho」や「White Ferrari」が感情的なハイライトを生み出している。コード展開以上のものはほとんど存在しないサウンドの中、Frank Oceanはその素晴らしい歌声を披露しながら、自らが得意とするパーソナルなナラティブに重みを加えることに成功している。人前に出ることを嫌い、常に必要最低限だけをリスナーに提供するシャイなアーティストらしい成長が感じられる作品だ。(AH)

Frank Ocean(New Orleans Jazz & Heritage Festival) © Tyler Kaufman / Contributor

7:ANOHNI『Hopelessness』(Secretly Canadian)

『Hopelessness』は自分たちの目の前で起きていない問題を無視したがる世界に向けた警鐘だ。歌詞は遠慮することなくそのような問題を鋭く指摘し、リスナーが無視できない形で環境問題、政治問題、社会問題を目の前に突きつけ、声なきもの(アフガニスタンの戦争孤児や地球そのものなど)を代弁する。Hudson MohawkeとOneohtrix Point Neverのプロダクションは、スリル溢れる派手目のハイライトと、ANOHNIの特徴的なテナーヴォイスを中心に持ってくる繊細さの間で見事にバランスを取っている。この3人の力が組み合わさった『Hopelessness』は、ポップエレクトロニック・ミュージックの可能性を押し広げている非常に力強い作品だ。

このアルバムのハイライトは、最後を飾る「Marrow」だろう。煌めくようなシンセと力強い心拍音のようなキックドラムがANOHNIの言葉が紡ぐ恐怖をさらに強調する夢のような情景を作り出している。ANOHNIは、女性の体を借りて地球を表現しており、破壊を推進する資本主義が地球にもたらした結果について嘆いている。このアルバムは人類が耐えられるダメージ量がどの程度なのかをストレートに思い出させてくれる作品だ。(AH)

6:Beyoncé『Lemonade』(Parkwood/Columbia)

Beyoncéの『Lemonade』が2016年のベストアルバムの1枚だという発言は、誤解を招く。『Lemonade』はただのアルバムではない。これは素晴らしいヴィジュアルアートであり、個人と世界の “悲しみと希望” のコラージュであり、2016年最大・最高のカルチャーモーメントのひとつだったからだ。Beyoncéの最新アルバムであるこの作品は、音楽自体も素晴らしいが、これは以前から存在する、権力、愛、フェミニズム、人種、そしてBeyoncé本人に対する社会の偏見に疑問を呈しているという意味で非常に大きな意味を持っている。

収録されている12曲を通じて、Beyoncéは裏切り、不貞、失望、癒やしなどについて個人的な意見を語っており、Warsan Shireのポエトリーを引用するそのソフトな声は彼女の最強の武器のひとつとも言える素晴らしい仕上がりだが、そのヴィジュアルは、女性、具体的には黒人女性の虐待の歴史という、より大きなテーマに取り組んでいる。『Lemonade』は煌びやかでもセクシーでもない。このアルバムが「Jay-Zとの結婚」向けられたものでも、既成概念に縛られた黒人への差別に向けられたものでも、現状に対する練りに練られた戦略的攻撃であることに変わりはない。(BP)

5:Angel Olsen『MY WOMAN』(Jagjaguwar)

失恋、成長、自己発見について書かれた曲は幾千幾万と存在する。言ってしまえば、今年1年だけでも数千曲が書かれたはずだ。しかし、Angel Olsenのような形で人間のこの本質的な部分をテーマにした楽曲を書ける人はいない。Angel Olsenの4枚目のアルバムとなる『MY WOMAN』は簡単に聴けるアルバムではないが、元々、人生は簡単なものではないのだ。

Olsenは収録されている10曲を通じて、日々の考えの中に存在する複雑な苛立ちを、時に辛辣かつ雄弁に、時に遠慮なく感情的にと、見事な形で捉えている。「Intern」はドリーミーで震えるようなシンセチューンで、リスナーを彼女の内面世界と自己疑念(Doesn’t matter who you are or what you’ve done / Still got to wake up and be someone:自分が誰だろうと、何をした人間だろうと関係ない / 起きて誰かを演じなきゃならないの)へと導いていく。サウンドは艶めかしくシンプルだが、そのサウンドとか細い声の下には、情熱的な女性(「Shut Up Kiss Me」)、内省的な女性(「Heart Shaped Face」)、そして自分を把握している大胆な女性(「Woman」)が隠されている。

このような特徴がこのアルバムを勝利に導いている。『MY WOMAN』の中のOlsenの叫びと歌詞の残響にリスナーは胸を痛めるだろう。また、このアルバムタイトルがすべて大文字で書かれているのも納得だ。なぜなら、リスナーは言葉をひと文字ずつしっかりと読むことになるからだ。このアルバムは、女性という複雑な現実を見ろ、聴け、知れ、とリスナーに強く訴えかけてくる。(BP)

 

4:Mitski『Puberty 2』(Dead Oceans)

インディーロックアルバムが重要だった頃からは少し時間がたったような気がするが、Mitskiの4枚目のアルバム『Puberty 2』は非常に重要な作品だ。インディーロックというアートフォームをなんとか維持しようと四苦八苦している他のアーティストとMitskiとの違いは、彼女が優れたソングライターであるという点にある。このアルバムに収録されている楽曲群は、アルバムタイトルである「Puberty(思春期)」はもちろん、一般的な変化への不安、リアルや楽しみが一切見いだせず、自分の居場所が感じられず、常に変化を続けるエンドレスなメランコリアという殻に閉じこもるしかない世界を受け入れることへの恐怖などをテーマに、リスナーの心に揺さぶりをかけてくる。このような不安に満ちたある特定の時期をここまで見事に書くには優れた才能と視点が必要だ。また、彼女の音楽は単純に楽しいという特徴もある。このアルバム内には、MitskiがWeezerを敬愛していることが感じられる部分がいくつかあるが、他のオルタナティブロック・ノスタルジアバンドとは異なり、彼女はサウンドをフレッシュに保っている。彼女が今後どこへ向かうのが楽しみだ。(ES)

3:Kendrick Lamar『untitled unmastered』(Interscope/Aftermath)

アルバムを再生してから1分半間続く、耐えられないほど不必要なセクシーな男性の声を除けば、『untitled unmastered』はソリッドなアルバムだ。このアルバムは、アルバムというフォーマットを辛うじて保っているだけだが、同時に2016年を代表する1枚にふさわしいクオリティを誇っている。昨年リリースされた名盤『To Pimp a Butterfly』のセッション中に制作されたデモやパーツが盛り込まれているこのアルバムはいつも通りKendrickが全力でラップしており、現時点で彼が最もクリエイティブで巧妙で賢いラッパーのひとりだということを証明している。ラッパーという存在は基本的にはデモをリリースしない(デモはジャズやクラシックロックのリイシューで使用される手法だ)ことを踏まえれば、音楽制作のプロセスを見せながらひとつの作品として成立させるアルバムをリリースするというのは、若きKendrick Lamarによる興味深いアクションと言える。また、本人が一度使用しないと判断した楽曲を集めたアルバムであるという事実も実に興味深い。このクオリティにさえ到達していない作品をアルバムとしてリリースしている他のポップラッパーたちは背筋が凍る思いをしただろう。(ES)

 

Kendrick Lamar(ACL Festival) © Charles Reagan Hackleman

2:David Bowie「★」(ISO/Columbia)

2016年1月8日、David Bowieが自身の69回目の誕生日に『★』をリリースした時、彼がその2日後にこの世を去るとは誰も予想していなかった。このアルバム(『ブラックスター』と読む)は、レジェンドが以前の姿に戻ってきた作品として高い評価を受けた。このアルバムは7曲しか収録されていないが、David Bowieを50年間に渡り常に音楽業界の最先端に置いてきた影響力と実験性に溢れている。

「Girls Loves Me」にはKendrick Lamarのリズムとアンソニー・バージェスの小説『時計仕掛けのオレンジ』の影響が感じられ、「Dollar Days」は『Hunky Dory』時代から直接引用したギターや、『Young Americans』時代から直接引用したサックスソロが盛り込まれている。このアルバムは基本的にはダークだが、デリケートにサウンドが重ねられている各トラックにはDavid Bowieらしい遊び心も随所に感じられるため、リスナーはじっくりと考えながらも、喜びを感じ取ることができる。ひとことで言えば(決してこのアルバムはシンプルではないが)、「このアルバムは最高」だ。

そして、David Bowieが肝臓ガンでこの世を去ったあと、『★』は真の輝きを放ち始めた。このアルバムは、(年老いたロックスターたちの多くがやるような)歳を重ねることと変わり続ける世界についての考えを述べた楽曲を集めたアルバムではなく、Bowieの最後の “予感” となった。天界のような美しさでありながらどこかに恐怖を感じさせるタイトルトラック「Blackstar」の中盤部分(Something happened on the day he died / Spirit rose a meter and stepped aside:彼が死んだ日に何かが起きた。魂が天に昇り、その場を去ったんだ)から死へ向けられた安らかな頌歌「Lazaruz」(Oh, I’ll be free / Ain’t that just like me / ああ、俺は自由になれる。実に俺らしいじゃないか)まで、David Bowieはこのアルバムを通じて、死に対する考え方を語っている。尚、ラスト2曲の「Dollar Days」と「I Can’t Give Everything Away」になると、Bowieは自分の痛みと死についてより直接的な表現をしているが、なぜかアルバム前半ほどダークには響かない。これは希望に満ちた美しい作品であり、彼にとっては、世間とのコミュニケーションの理想的な終わらせ方だったのだ。(BP)

1:Anderson .Paak『Malibu』(Steel Wool)

Anderson .Paakは2016年のニューフェイスのひとりのように思えるが、新人アーティストではない。彼の成功は一夜にして成し遂げられたものではない。彼は歩みを決して止めなかったのだ。2011年にはホームレスの父親として彷徨っていた時期もある彼は、Breezy Lovejoyという比較的無名なアーティストとしてリリースをした後、Dr. Dreの20年ぶりのアルバムに参加して、ようやくひとりのアーティストとして開花した。そして、自分を成功に導いた彼のその不断のアティテュードが全編を通して感じられるのがこの『Malibu』だ。

このアルバムの中にはダークな部分も存在するが、温かさと希望が失われることはない。これがこのアルバムをスペシャルなものにしている理由だ。アルバムの最後を飾っている喜びに満ちた楽曲「The Dreamer」がその点をシンプルに表現している。「This one’s for all the little dreamers / and the ones who never give a fuck… And who cares your daddy couldn’t be there / Mama always kept the cable on:これは夢見る全員に捧げる曲だ。何にも動じない奴らへの曲だ。親父がいなかったことを気にする必要はないぜ。お袋が常にテレビを見せてくれたんだから」

『Malibu』は苦しみの中に喜びを見出すことを讃えており、その特徴が、「Come Down」や「Am I Wrong」など、瞬間的な幸せを歌うハードグルーヴな楽曲が詰まっているこのアルバムをひときわ輝かせている。このアルバムは2016年初頭にリリースされた1枚だが、リリースから1年近くたった今もこのアルバムとAnderson .Paak本人の魅力は一切失われていない。しかも、この男は、ラップ、プロデュース、ドラム、歌とすべてをこなせるのだ! そしてこの万能ぶりが『Malibu』にユニークな魅力とキャラクターを与えている。ソウルとヒップホップを結びつけるというのは目新しい手法ではないが、Anderson .Paakはフレッシュかつ楽しい形でそれを表現することに成功している。

日以上生活ではボディブローを受け続けた2016年だったが、良い時代が待っているということを思い出させてくれる彼の音楽にはパワーがある。そして、それよりも重要なのは、彼の音楽を聴けば単純に気分が良くなるということだ。(AH)

 

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