“Everything is beautiful”アメリカン・ポップ・アート展

先週から、六本木の国立新美術館で世界最大級の個人ポップ・アート・コレクション、ジョン&キミコ・パワーズ・コレクションを中心とした展覧会がはじまりました。
Andy WARHOL Kimiko Powers series 1972 - 1973
Andy WARHOL Kimiko Powers series 1972 - 1973
By 宮越 裕生

大量生産、大量消費の隆盛とともに、1960年代のアメリカの人々を魅了した“アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ”を反影したポップ・アートは、今観てもビビッド。

また、それまでの生活空間が人工的な「第二の自然」にとってかわり、TVの影響が浸透してきた当時のアートは、デジタルメディアの影響を受けた現代のアートと重なるところがあります。
 

今日はこのポップ・アート展の中から、いくつかの作品をピックアップしてご紹介します。

最初の部屋には、ポップ・アートの先駆者として知られるロバート・ラウシェンバーグ(1925-2008)の作品が展示されています。50年代に注目を集めた、彫刻性と絵画性を結合した「コンバイン・アート」は、つづく60年代のポップ・アートの手法を予感させるものでした。

彼は、メディア・アーティストとしても興味深いアーティスト。1966年にベル研究所のビリー・クルーヴァーらとE.A.T.というグループを発足し、アーティストとエンジニアがコラボレーションするというアート&テクノロジー運動に大きな影響を与えました。
 

Robert Rauschenberg「Revolver」1967
Robert Rauschenberg「Revolver」1967

上の写真はE.A.T.でのコラボレーション作品『リボルバー』(1967)。アクリル円盤を回転させる仕組みを実装しており、スイッチ操作によって重なり方が無限に変化し、その都度違った表情を見せるそうです。 E.A.T.には、チャンス・オペレーション(偶然性)に注目した音楽家のジョン・ケージも参加していたそうですが、もしかしたらこの作品にもケージの思想が繁栄されていたかもしれません。なお、残念ながら現在はこの作品を動かすことはできないそうです。

Robert Rauschenberg「Cardbird II」(左)1971,「Cardbird」1970年代初頭(右)
Robert Rauschenberg「Cardbird II」(左)1971,「Cardbird」

こちらは段ボールの断片を組み合わせたコラージュ作品『Cardbird』(右)と、同作品を元にラベルやテープ、汚れまで再現した作品『Cardbird Ⅱ』(左)。ラウシェンバーグのコピーに対する興味がうかがえます。

Claes OLDENBURG 「Soft baseball bat」1967
Claes OLDENBURG 「Soft baseball bat」1967

こちらは日用品を巨大化したパブリックアートやインスタレーションで知られるクレス・オルデンバーグ(1929-)の作品『Soft baseball bat』(1967)。オルデンバーグはしばしば自然発生的な演劇的出来事「ハプニング」を行ったパフォーマンス・アーティストとしても知られていますが、この作品はまさにそんなパフォーマンスから生まれたもの。ジョン・パワーズの招きでアスペンに滞在した際、この巨大なバットを振り回して町中を歩き、野球をするというパフォーマンスを実施。そのパフォーマンスのための道具に、サインを残したことで作品となったそうです。

Claes OLDENBURG 「Soft drum set」1972
Claes OLDENBURG 「Soft drum set」1972

日用品を布やビニールで象ったソフト・スカルプチャーシリーズのひとつ『ソフト・ドラム・セット』(1972)。日常の風景にユーモラスなパンチをくらわす、なんともキュートな作品です。

Andy WARHOL Campbell’s Soup Cans series 1962 - 1969
Andy WARHOL Campbell’s Soup Cans series 1962 - 196

いわずと知れたアンディ・ウォーホル(1928-1987)のキャンベル・スープシリーズ。日常的なイメージの過剰な反復、広告イメージの流用をアートのスタイルとして確立させたウォホールの代表作です。ウォホールの作品は、このほかに『マリリン』や『キミコ・パワーズ』 のポートレイトや『花』(手彩色)、 刑務所の処刑室で撮影した死と惨禍シリーズのひとつ『電気椅子』などがありました。

Roy Lichtenstein「Varoom!」(左)1963,「Wall Explosion II」(右)1965
Roy Lichtenstein「Varoom!」(左)1963,「Wall Explosion I

アメリカン・コミックを引用した絵画で知られるロイ・リキテンスタイン(1923-1997)の『ウォール・エクスプロージョンⅠ』(1965)。エナメルと鋼版を使用した立体作品です。リキテンシュタインといえばリトグラフがおなじみですが、立体作品も一見の価値ありです。

Roy Lichtenstein  Rouen Cathedral series 1969
Roy Lichtenstein Rouen Cathedral series 1969

リキテンシュタインの作品はほとんどが白と黒の無彩色と赤・青・黄の原色だけで描かれており、中間色や影はベンディ・ドットと呼ばれる印刷の網点を描画することによって表されています。こちらは印象派のモネの作品をモチーフとした大聖堂シリーズ(1969)。パレットで色を混色せず、キャンバスの上にそのまま色を置くことによって眼の中で混色され、ひとつの色に見えるという光学現象を網点の手法で描いています。リキテンシュタインの混じり気のない色に対するこだわりを感じさられる作品です。

James ROSENQUIST 「Lanai」1964
James ROSENQUIST 「Lanai」1964

断片的なイメージを配置したジェイムズ・ローゼンクイスト(1933-)による『ラナイ』(1964)。メディア・文明批評家のマクルーハンは50年代に発行された「Explorations」誌の中で「ラジオとテレビは電光のように強力な反集中的、分散的な力である。」「われわれの子どもたちはエレクトロニクス的に結合された世界に — 育っているのである。それは『あらゆるものが同時に存在する世界(All at once world)』なのである」と書いていましたが、そんな時代の背景を感じさせられる作品でした。

このほか、同展ではジャスパー・ジョーンズやジム・ダイン、トム・ウェッセルマンなど、約200点の作品が紹介されていました。

今回の展覧会で印象的だったのは、コレクターの存在感。当時のポップ・アートは、ヨーロッパの伝統芸術からの解放をかけてアート・ディーラーやコレクター、聴衆によって盛り上げられたものでもありました。そんな活況に湧くアート界で、おそらくもっともポップだったのが、「Everything is beautiful」と言ったウォーホル。
デュシャンやラウシェンバーグなど、ウォーホル以前にも日用品をアートに導入した例はありましたが、心底商業イメージが好きで、それらをアートとして確立させたのは、ウォーホルだからこそ成しえたことだったのではないでしょうか。

1975年に出版されたウォホールの自伝的エッセイ「ぼくの哲学」を読むと、ウォホールが本当にコマーシャルなものを愛していたことがわかります。

東京で1番美しいものはマクドナルド。
ストックホルムで1番美しいものはマクドナルド。
フィレンツェで1番美しいものはマクドナルド。
北京とモスクワにはまだ美しいものはない。
唄にある『アメリカ・ザ・ビューティフル』は本当だ。
みんながお金があって暮らしていたらもっときれいだろうな。

ビューティフルな人たちにビューティフルな刑務所。

—「ぼくの哲学」P.99より

このエッセイですが、今読んでもウォーホルの哲学や美意識が新鮮です。
驚いたのは、TVが大好きで電話魔で、テープレコーダーを自分のワイフと呼んだウォホールの言葉が、ネット世代の今の人の言葉のように聞こえたこと。

60年代はみんながみんなに興味を持った時代だった。麻薬が少しは関係あると思う。みんなが突然平等になるんだ。社交界の娘と運転手、ウェイトレスと知事という具合に。(略)

—「ぼくの哲学」P.42より

ぼくは10年に一度しか休暇が取れなくてもどこにも行きたくない。たぶん自分の部屋にいるんじゃないかな。枕を叩いてフカフカにしてそれによっかかり、TVを2台ともつけて、リッツ・クラッカーを開けて、ラッセル・ストヴァーのチョコレート箱のシールを破り、角の新聞スタンドで買ってきた雑誌の最新号を持ち込んで、知っているだれかに電話をかけて「『TVガイド』を見てくんない、今何やってる、さっき何やってた、今から何やるの」と聞いて過ごすのがぼくの休暇なの。
それに新聞を読み直すのも好き。とくにパリでは。パリにいたら『ヘラルド・トリビューン』を何度読み直しても足りないぐらい。人は人でしたいことをして時間を過ごし、ぼくはぼくで時間を潰すのが好き、ただしちゃんと報告してくれれば。部屋にいる時の時間はゆっくりしか過ぎない。速いスピードで起こっているのは外だけ。

—「ぼくの哲学」P.156より

この辺りを読むと、メディアは人の生活やメンタリティを変えてきたんだなと思います。

ここまでポップに振り切れるウォーホルはやっぱり特別だと思いますが、メディアと人、メディアとアートの関係について考えさせられる、興味深いきっかけになりました。

ちなみに同書には、スロバキア出身の両親の元に育ち、病気がちだった幼い頃のことや、駆け出しの頃にポートフォリオをもって歩き回った苦労話などについても、素朴に語られています。
自身をドキュメントし、あっけらかんと読者にさらけ出しているところもまた、ウォーホルらしいです。

以上、ポップ・アート展レポートでした。夏休みは若干混雑が予想されますが、会期は10月まで。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

アメリカン・ポップ・アート展
会場: 東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館 企画展示室2E
東京メトロ千代田線 乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
東京メトロ日比谷線 六本木駅 4a出口から徒歩5分
都営地下鉄大江戸線 六本木駅 7出口から徒歩4分
会期:2013年8月7日(水)-10月21日(月) 毎週火曜日休館
開館時間:10:00-18:00(金曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
観覧料金:一般 1,500円 / 大学生 1,200円 / 高校生 800円
電話:03-5777-8600

参考文献
「アメリカン・ポップ・アート展」カタログ, 2013
「ラウシェンバーグ」講談社, 1993
「E.A.T. 芸術と技術の実験」展ウェブサイト(http://www.ntticc.or.jp/Archive/2003/EAT/preface_j.html), NTTインターコミュニケーション・センター, 2003
「マクルーハン理論―電子メディアの可能性」著:マーシャル マクルーハン, 訳: 大前正臣・後藤和彦, 平凡社ライブラリー, 2003
「ぼくの哲学」著:アンディ・ウォーホル, 訳:落石八月月, 新潮社, 1998

 

 

 

 

 

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宮越 裕生(Yu Miyakoshi)

ライター。執筆範囲はメディアアート、ファインアート、写真、旅、猫。大学時代に絵画を勉強し、近ごろ境界領域の表現可能性、メディアアートと写真に出会いまた新たにアートに目覚める。CBCNET、HITSPAPER、greenzなどのHPを中心に執筆しています。今ここを伝える文体を研究中。

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