世界の頂に君臨する日本のヤングガンたち

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.20
SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.20 © Burton / Red Bull Content Pool
By 野上大介

3月7、8日の週末。スノーボーダーたちがゲレンデに到着した頃、もしくは、すでに滑り始めている人もいたのかもしれない。両日とも日本時間の8時頃、日本のヤングガンたちが歴史に残る偉業を成し遂げた。

1982年から始まり34回を数えた伝統の一戦「BURTON US OPEN」にて、1988年からスタートしたハーフパイプ種目では2010、11年に連覇した國母和宏以来2人目、そして2002年にデビューしたスロープスタイル種目では初となる優勝を、それぞれ平岡卓と角野友基が果たしたのだ。もちろん、両種目ともに日本人ライダーが頂点に立つのは初となる快挙。さらに、ハーフパイプの3位には平野歩夢が入ったので、男子の両種目を通じて表彰台の半数を日本人ライダーが占めたことになる。

当コラムでも再三のように綴ってきているが、WINTER X GAMESと肩を並べて、事実上の世界頂上決戦と言えるUS OPEN。そこでの頂点はオリンピックでの金メダル、いや、それ以上の価値を有する。

結果については周知のことと思うので、当コラムでは彼らの滑りの“本質”について触れることにする。これ以上ない成績を残してくれたわけだが、それ以上の価値を今大会で示してくれたように感じたからだ。

まずはスロープスタイルを制した角野友基。後半のジャンプでバックサイド・トリプルコーク1620からのスイッチバックサイド・トリプルコーク1620という世界初のコンボを成功させたわけだが、後者のトリックに関しては、先日のAIR+STYLEロサンゼルス大会(ビッグエア競技)にて世界で初めて成功させた超高難度トリックだけに、その直前のトリックの着地を極めて高い精度で決めないとまず不可能だ。ラインどりやスピード調整を単発のジャンプに集中できるビッグエアでのメイクと、バックサイド・トリプルコーク1620という難易度の高いトリックから繋げて成功させた意味は、まったく異なる。

これまでの角野は、ビッグエアでは表彰台に上がるの実力を持っていたが、スロープスタイルではそのレベルに至っていなかった。上位に食い込んだライダーの中でもっとも若いということもあり、これまでは経験不足が目立っていたように感じる。当然の話だが、スロープスタイルでは連なっているアイテムごとの“繋ぎ”が重要。転倒やボードのドライブ(回転力の惰性で着地後にボードが余計に回ってしまうこと)は論外として、着地が乱れてしまったときのリカバリーや、飛びすぎてオーバースピードになった後のスピードコントロール、エアの軌道が狂ってしまった際に次なるヒットへ向けてのライン修正など、あらゆる状況に応じてエッジワークやボディコントロールを駆使するフリーライディングで培うべき要素がスロープスタイルでは必要になるからだ。そういった部分を踏まえると、世界レベルからは一歩劣っているように映っていた。

しかし、筆者の高飛車な物言いを覆すだけの練習や経験を積んできたのだろう。あれだけの飛距離を出しながら、縦3回転・横4回転半という強い遠心力がかかっている状態で完璧な着地を決められるだけの強靭な肉体をトレーニングで手に入れた。ラストヒットで放った、世界で角野しかできないであろう大技はもちろんすごいのだが、その手前の2ヒット目のジャンプで完璧なバックサイド・トリプルコーク1620を繰り出せるスキルを身につけたことが、角野の急成長を証明してくれたのだ。

この映像を観てもらえればわかるが、バック・トゥ・バックのトリプルコーク1620を決めた直後に、世界トップランカーである出場ライダーたちはランを終えた角野を囲むように近づき、バインディングを外す間も与えずに、世界初となる大技コンボを決めた彼を胴上げで祝福した。このことからもわかるとおり、ジャンプに関しては現在のレベルにおいても群を抜いていた。だがジブセクションでは、2位のマーク・マクモリスと比較しても1ポイント以上の差をつけられていた点に注目したい。これは言い換えれば、まだ伸びしろがあるうえで世界一の座を掴んだということ。

ジャンプのルーティンは、ライバルが追いつくまでに数年は要するだろうほど差をつけただけに、その間にジャンプの完成度を高めるだけでなくジブのレベルをも引き上げることができれば……今後が楽しみで仕方ない。

話をハーフパイプに移そう。トランジションを巧みに使い、重力に逆らって宙を舞う種目だけに、身軽で器用な日本人ライダーが強いということは、これまでの戦績からも実証されていた。同大会で連覇を成し遂げた前出の國母然り、工藤洸平や青野令といったライダーたちも世界のトップと互角に渡り合ってきた。

そのハーフパイプで優勝を決めた平岡のルーティンは、X GAMESでシルバーメダルを獲得したときと同じく、フロントサイド540→バックサイド900→フロントサイド・ダブルコーク1080→キャブ・ダブルコーク1080→フロントサイド1260だった。

ライブストリームで観戦しながら現地にいるBURTONのチームマネージャーとやり取りをしていたのだが、2本目を終えた時点で「まだ内緒ですけど、タクは秘密兵器を出しますよ」というメッセージが舞い込んできた。3本目は2本目までのベストスコアの低い順に出走となるため、平岡はラスト、平野は最後から2番目の出走となる。平岡は誰にも抜かれることなく1位を守り続け、平野の3本目が失敗に終わったため、ラストランでそのトリックを繰り出すことはなかった。その秘密兵器を温存させたうえで世界一に輝いたわけだから、圧倒的な勝利と言って過言ではないはずだ。

惜しくも3位だった平野。X GAMESで6位、BURTON EUROPEAN OPENでは2位と好成績を収めたシーズンではあるものの、彼の実力を鑑みれば物足りない。兄弟誌であるUSトランスワールドの映像を観てもらえれば、その悔しさが伝わってくるだろう。

このインタビューでも語っているように、“抑えた”ランでの3位だった。X GAMESでは辛口だったのか微妙だったのか(?)ジャッジングに嫌われたが、パイプでのトリックとしては世界最高峰と言われているキャブ・ダブルコーク1440(YOLOフリップ)を成功させた実績がある。だからこそ、それを繰り出せずに終わってしまった今回の結果は、痛恨の極みだったに違いない。

長々と綴ってきたが、今回のコラムで声を大にして言いたかったこと。それは、彼ら日本人ライダーたちが残した成績という順位以上に、世界のトップレベルから一歩抜きん出た存在なのだ。そこに、さらなる価値を見いだしたい。加えて、常に上位に名を連ねる世界のトップライダーたちと比べても、彼らは若い。現時点で、平岡は19歳、角野は18歳、平野は16歳。3年後に行われる韓国・平昌五輪を、それぞれ22歳、21歳、19歳で迎えるわけだから、コンペティターとして脂が乗った時期にあたる。

サッカー、野球、テニス、フィギュアスケート、スキージャンプなど、世界で活躍する日本人選手が多く取り沙汰されている昨今。テレビなどマスメディアでの露出はもっとも少ない。スポーツとしての歴史はもっとも浅い。しかし、今もっとも日本人が強い競技はスノーボードなのだ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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