クワッドコーク誕生までの3Dスピン史を振り返る

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.25
Billy Morgan © Red Bull Media House
By 野上大介

先日4月15日、イタリア・リヴィーニョの地で、ソチ五輪スロープスタイル種目に出場していたイギリスのビリー・モーガンが、世界初となるバックサイド・クワッドコーク1800(背中側へ横5回転・縦4回転)をメイクした映像が世界中に拡散された。さらに驚くことにその翌週末には、カナダ・ウィスラーにて地元のカナディアンであるマックス・パロットが、スイッチ・クワッドコーク・アンダーフリップ1620(通常のスタンスとは反対からお腹側へ横4回転半・縦4回転)をクリーンにメイクした動画が4月21日に配信されたのだ。記憶に新しいだろうが、アメリカ時間の2月21日に開催されたAIR+STYLEのロサンゼルス大会で、角野友基がスイッチバックサイド・トリプルコーク1620を世界で初めてメイクしてから2ヶ月足らずでの衝撃的なニュース。世界初となるクワッドコークを決めたビリーのそれは、着地でバランスを崩し、後傾になってしまい手を着くシーンもあるなど決してクリーンとは言えないが、それ以上に「クワッドコーク」「1800スピン」という驚嘆が勝った格好だろう。後発となったがマックスにおいては、テイクオフこそボードをドライブさせながらではあるのだが、ランディングはパーフェクト。余裕すら感じられた。

BACKSIDE QUADRUPLE CORK 1800 by Billy Morgan, 2015

 

SWITCH QUADRUPLE UNDERFLIP 1620 by Max Parrot

Vol.19のコラム「師に捧げる世界初の大技で栄冠を勝ち取った角野友基」で3Dトリックの歴史を駆け足で振り返ったが、ここで改めて、3Dスピンの起源から進化の過程を振り返っておきたい。

93-94シーズン、ピーター・ライン(アメリカ)による世界初となる3Dスピン・ミスティフリップ(バックサイド・コークスクリュー540)が映像を通して世界中に発信されると、これを皮切りに翌95-96シーズン、ダニエル・フランク(ノルウェー)が続くようにしてロデオフリップ(フロントサイド・ロデオフリップ540)を開発。MACK DAWG PRODUCTIONS作『THE MELT DOWN PROJECT』に収録されると、世界中が3Dスピンに躍起となった。その後、前出のピーターによるバックサイド・ロデオ540が96-97シーズンにビデオに収録され、ロデオフリップよりも回転軸を浅くしたアンダーフリップや、テイクオフ後にバックサイド・ロデオに近しい回転を遅らせて始動させる90ロール、マイク・マイケルチャック(カナダ)がハーフパイプでバックサイド・ロデオを応用したチャックフリップを生み出すなど、3Dトリックが続出した。

そのムーブメントがひと段落したかのように思えた02-03シーズン。JPウォーカー(アメリカ)が史上初となるダブルコーク(フロントサイド・ダブルコーク900)を成功させると、スノーボード界に激震が走った。翌03-04シーズンにはトラビス・ライス(アメリカ)が完成度を高めたフロントサイド・ダブルコーク1080を、05-06シーズンにはエーロ・エッタラ(フィンランド)によりバックサイド・ダブルコーク1080が披露されるなど、ダブルコークがスノーボード界を席巻した。

ハーフパイプではショーン・ホワイト(アメリカ)が牽引者のように思うだろうが、04-05シーズン、デビッド・ベネデック(ドイツ)がトランジションでは恐らく初となるフロントサイド・ダブルコーク1080を成功させた。その後、2010年のバンクーバー五輪に向け、キャブ・ダブルコーク1080やダブルマックツイスト1260などの高難度トリックが誕生。これらはショーンにより開拓されていった。

そして、時を同じくしてバンクーバー五輪が開催された09-10シーズン、トースタイン・ホーグモ(ノルウェー)がフロントサイド・トリプルコーク1440を放つと、スロープスタイルが2014年のソチ五輪からの正式種目に決定されたことも後押しし、トリプル時代の幕が切って落とされる。同シーズンの前半にはウルリク・バダーシャー(ノルウェー)がフロントサイド1620の映像を配信し、フラットスピンの限界値を引き上げた。しかし、映像を観てもらえればわかるが、前足とノーズの中間をグラブするという、いわゆるタブーとされるスタイルでのそれだった。スイングウエイトを軽減するためにボードを縦にしてグラブした結果は、当時の技術レベルやアイテムのスペックを考えると1620の回転力を生むためには致し方なかったのかもしれないが、スノーボード本来のカッコよさをおざなりにしてまでも高難度スピンを追求する姿勢には、世界中で賛否が渦巻いた。

 

FRONTSIDE 1620 by Ulrik Badertcher, 2009

 

FRONTSIDE TRIPLE CORK 1440 by Torstein Horgmo, 2010

10-11シーズンには、マーク・マクモリス(カナダ)がバックサイド・トリプルコーク1440を、パット・バーグナー(スイス)がスイッチバックサイド・トリプルコーク1440をメイク。マークは翌シーズン、コンテスト史上初となるトリプルコークをX GAMESで決めたことで、同トリックとともに彼の名も世界中に轟かせた。11-12シーズンには、今回クワッドコークを決めて一躍時の人と化したビリーがトリプル・バックサイドロデオ1260を、ヨーン・シメン・アーボー(ノルウェー)がフロントサイド・トリプルロデオ1440(トゥサイドのテイクオフでは初となるトリプル1440)を、そして、トリプルアンダーフリップ1260をステール・サンドベック(ノルウェー)が開発。

 

BACKSIDE TRIPLE CORK 1440 by Mark McMorris, 2011

 

SWITCH BACKSIDE TRIPLE CORK 1440 by Pat Burgener, 2011

 

TRIPLE BACKSIDE RODEO 1260 by Billy Morgan, 2011

 

TRIPLE FRONTSIDE RODEO 1440 by Jorn Simen Aaboe, 2012

 

TRIPLE UNDERFLIP 1260 by Stale Sandbech, 2012

この加速度的な進化は、とどまることを知らなかった。12-13シーズンになると、トルゲイル・バーグレム(ノルウェー)がバックサイド・トリプルコーク1620を、エミル・ユーレッテン(ノルウェー)がこれまで登場していなかったキャブからのトリプルコーク1260をスイッチバックサイド・トリプルコーク1440と同日にメイクした映像が世界中で話題をさらった。

 

BACKSIDE TRIPLE CORK 1620 by Torgeir Bergrem

 

SWITCH BACKSIDE TRIPLE CORK 1440 and CAB TRIPLE CORK 1260 by Emil Ulsletten, 2013

 

斜度や全長はこれまで以上に必要になるが、雪の量があれば物理的にサイズアップが可能なビッグエアだからこそ、このようなスピードで進化を遂げ、今なおとどまることを知らないのだ。また、ニュートリックはライダーの活動が落ち着いた時期であり雪が緩む春先に開発されることが多い。ひと昔前であれば、翌シーズン序盤に発売される映像作品まで公開を温存し、それに収録されるケースが常だったが、現在は言わずもがなインターネットが主流の時代。即座に編集され世界中に映像が公開されるからこそ、同じ志を持つトップライダーたちを触発し、その進化スピードがさらに加速するのだろう。

話をハーフパイプに転じよう。ここ数年、大きくサイズアップしていないからか、ソチ五輪開催前の12-13シーズンにイウーリ・ポドラチコフ(スイス)がYOLO(You Only Live Once: 「人生は一度きり」の意)フリップ(キャブ・ダブルコーク1440)をX GAMESのティーニュ大会で成功させて以来、トリックの難易度における進化はあまり見られていない。

 

YOLO FLIP by Iouri Podladchikov, 2013

 

ビッグエアにおけるトリックの進化はこのような過程を経て、冒頭で述べた角野のスイッチバックサイド・トリプルコーク1620にたどり着いたのだ。

 

SWITCH BACKSIDE TRIPLE CORK 1620 by Yuki Kadono, 2015

 

ライダーにより得手不得手はあるのだが、テイクバックを大きくとれるバックサイドスピンのほうが高回転コークスクリューには向いているということは、勘のいい読者諸兄姉はすでにお気づきだろう。さらに補足すると、フロントサイドもしくはキャブのトリプルコーク1440の場合、最後の着地への合わせがブラインド方向になるためメイクが至難の業であることも、バックサイド方向の高回転コークスクリューが先行している理由のひとつだ。だが、今年のX GAMESでは、マークがフロントサイド・トリプルコーク1440を、冒頭に登場したマックスはキャブ・トリプルコーク1440を決めるなど、スピン全方向のトリプルコーク1440、さらにはバックサイド/スイッチバックサイドからのトリプルコーク1620が出そろった。

 

X Games BIG AIR, 2015

そして、来たる15-16シーズンからは、クワッドコーク時代へと突入することになる。世界初のクワッドコークにはスノーボード界の風潮を踏まえれば当然のごとく、賛否がつきまとった。これを受けて、イギリスのスノーボード専門誌のインタビュー内でビリーが語った言葉は、スノーボードは自由なのだからこそ、それを強制するべきではないという内容だった。

以前ショーンは、トリックがカッコいいものでなければ進化させる意味はないと言っていた。そのショーンのトリックをどう思うか自体にも、様々な意見があるだろう。複雑なトリックをメイクできる身体能力や技術をカッコいいと考える人間がいれば、強引に高回転スピンを回すよりも表現力豊かな低回転スピンを好む人だっている。さらには、その表現に対する好みだって千差万別だ。スノーボーダー同士の議論であればビリーが言うように、自由だからこそ賛否があっていいのだろう。

だが、ここまで進化したトリックに対してスタイルがどうこう論じること自体、もはや愚問のように感じてならない。ビリーは前述したインタビュー内で、こうも語っている。
「スノーボードには決まりなんてないんだから、やりたいようにやればいい。オレはたまたま、グルグル回すことが好きになったのさ」

スロープスタイルがオリンピックの正式種目になったことで、ほとんどの若手フリースタイラーたちが4年に一度のスポーツの祭典を目指すようになった。筆者も含め、古くからスノーボードに携わってきた人間たちは違和感を覚えるが、現コンペティターたちが物心ついた頃、もしくは生まれたそのときからスノーボードはオリンピック種目であったため、その舞台を目指すことは自然な流れに違いない。

だからこそ、このような若手ライダーたちの思考を念頭に置くことが、これからの競技スノーボードと向き合っていくために必要な価値観になるのかもしれない。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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