日本スノーボード界の明るい未来

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.26
Blair Habenicht © Andrew Miller
By 野上大介

【写真】世界のトップライダーたちも日本に魅了されているのだ

今シーズンもいよいよ大詰め。春のコーンスノーならではの楽しみ方を見いだし、まだまだトップシーズンさながらに滑っているスノーボーダーもいれば、すでにスイッチを切り換えて、サーフィンやスケートボード、アウトドアなどを楽しんでいる人もいることだろう。

簡単にはなるが今シーズンを振り返ってみると、日本は降雪に恵まれ、世界中から多くのスノーボーダーたちが訪れた。為替の影響によるインバウンド効果はもちろん、北米や欧州エリアが雪不足だったこともあり、フッテージを求める多くのトッププロが“ジャパウ(JAPOW: JAPAN POWDERの略)”を堪能した。世界的に見ても我が国は当たり年だったのだ。SNSを通じて届けられる情報を見ているかぎり、多くの日本人スノーボーダーたちが満足できるシーズンを過ごしたに違いない。

さらに、日本人選手の活躍が目を見張るシーズンでもあった。当コラムVol.20「世界の頂に君臨する日本のヤングガンたち」でも述べているのだが、今、もっとも日本人が強い競技はスノーボードである。そう断言できるほどの成績を残してくれた。言わずもがなの内容なのでここでは割愛するが、詳しく知りたいという人がいればバックナンバーを一読いただきたい。

こうした自然の恵みやライダーたちの活躍もさることながら、日本スノーボード界の土壌がようやく整ってきたように感じている。ここで改めて、シーンが置かれている現状について考えてみたい。

さかのぼること20年以上前。スノーボードが爆発的に流行した90年代前半のニュースクール時代───筆者もその時代にスノーボードを始めたひとりなのだが、彼らが家庭を持ち、子供を授かり、ようやくリアルスノーボーダー2代目が誕生し始めている。これはスノーボード界の未来を考えた際に、とても大きく重要なことだ。

また、その世代が戻ってくる、もしくは継続するためのキッカケとして、ターンを活かして遊べるフィールドやバックカントリーシーンの盛り上がりが訪れている点にも注目している。

これまでのゲレンデは、キッカーやジブアイテムが直線上に配置された、スロープスタイルを意識した“いわゆるパーク”に依存する傾向が強かった。ゲレンデ側はアイテムの大きさや難度でしか差別化できなかったため、滑り手にはテクニックが求められてきた。一般スノーボーダーの大半を占める社会人たちは滑走日数の少なさにより技術を追求しきれず、ケガに対するリスクを冒せないこともあり、シーンから取り残されていくことになってしまった。

そのことを問題視していた弊誌では、2010-11シーズンからパークプロデュースを手掛けているのだが、これまでの常識を根底から覆すことに重きを置いてきた。サイズは大きくなくとも、上級者はアイテムの側面からテイクオフしてトランスファーできたり、着地面を活かしてレイバックするなど、ラインどりによってクリエイティブに楽しむことができるようなコースレイアウトを意識したパークをプロデュース。メリットとしては、アイテムが小さいため、初級者でもストレートに飛んだり流したりできるように設計しているので、あらゆるレベルのスノーボーダーが共存可能な空間を演出できること。近年、ボウルやバンクを活かしたコースも多く登場してきているので、同様に多様なレベルのスノーボーダーたちが楽しめる環境が整備されてきている。このことからも、あらゆるスノーボーダーたちの受け皿が広がり始めていると言い換えられるのではないだろうか。

本来であれば、自然の地形を見極めて遊べるスノーボーダーが増えることが望ましいが、海外と比較するとそのようなゲレンデも少なく、また、これまでスロープスタイルを前提としたパークに依存し続けてきた反動により、いわゆるボードに“乗れている”スノーボーダーが少ない状況。ほぼ直滑りながらトリックに執着してきた結果だと分析している。

前述した90年代には、シーンの潮流がニュースクールからハーフパイプへと移行したことや、当時はプロを目指す(目指せていた?)スノーボーダーが少なくなかったこともあるが、今よりも基礎としてのライディングスキルは高かったのではないだろうか。フィールドやプロダクトの進化が著しいため同じモノサシで計ることはできないが、ベースとしてのスキルで考えると遊べる環境が乏しかった分、自らのボードさばきを磨く以外に術はなかったため、そう考えている。スノーボード本来の魅力や世界観に精通するためには、やはりスポーツである以上、滑走技術が必要不可欠になるため重要な問題なのだ。

反面、競技として取り組んでいる層に対する受け皿としては、オフシーズンでもジャンプの練習ができる施設が全国的に増加傾向にある。雪に近い感覚で滑ることができるブラシをアプローチに用い、着地にはマットが敷かれていて安全面も考慮されているため、将来オリンピックを目指すキッズやジュニアたちがしのぎを削っているわけだ。これらは日本独自の文化として、さらなる発展を遂げることだろう。課題としては、ハーフパイプを練習するためのインドア施設が減少していること。競技人口を考えると、雪を必要とする前提であるため、維持・管理に莫大なコストがかかってしまい経営が難しいのだろう。メダリストを2名も輩出した競技であるだけに、海外遠征なども含め、連盟や協会によるサポートがカギを握っているのかもしれない。

一般層に話を戻すと、大手企業がスノーシーンに参入してきていることも活性化を後押ししていると考える。リクルート社が取り組んでいる提携ゲレンデのリフト1日券が19歳であれば無料になる「雪マジ! 19」。これから述べることは語弊があるかもしれないが、若年層のインドア志向や節約傾向が事実だとすれば、スノーボードは彼らにとっては余暇の対象外だろう。その悪条件を打破するキッカケとしては、大きな効果を上げているのではないだろうか。提携ゲレンデも100を超えているので、全国的に波及している事例と言える。

さらに、2012年から復活を果たした、JR東日本が展開するタレントを起用した広告キャンペーン「JR SKI SKI」も、スノーシーンに対して大きく貢献しているのではないだろうか。首都圏のJR各駅では雪山へと誘うポスターが溢れ、ここ数年は首都圏にも降雪の便りや積雪があるため、街にいながら冬の匂いを感じられることも要因のひとつなのかもしれない。

これまでのスノーボードは、オリンピック種目としてマスコミに取り沙汰されることがほとんどだった。しかし、今季はソチ五輪後の最初シーズンであり、言い換えればオリンピックに向けてとなるともっとも情報としての価値がないシーズンだったにも関わらず、スノーボードがお茶の間を賑わせていた。前出したライダーたちの活躍はもちろんだが、バックカントリーでの事故なども大きく報道されるなど、ポジティブにもネガティブにも、スノーボードは世間から大きな注目を集めているのだ。

加えて、冒頭でも述べたようにジャパウが世界中から認知され、“山国ニッポン”としての価値が非常に高まっていることも忘れてはならない。

アクションスポーツに対する理解力が乏しい日本ではあるが、スポーツとしてもカルチャーとしても定着させるための条件が整ってきた今だからこそ、スノーボード界全体が一丸となって準備していきたい。これまで以上に、みんながスノーボーダーであることを誇らしく感じられるよう、さらなる発展を目指して。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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