スノーボーダーだからこそ走る価値がある「Wings for Life World Run」

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.27
By 野上大介

GWまっただ中の5月3日。滋賀・高島市で行われたWings for Life World Runというランニングイベントに参加した。「スノーボードとランニング、関係なくね?」という声が聞こえてきそうなものだが、普通のマラソンとは一線を画するイベントであり、スノーボーダーだからこそ走る価値がある。いったい、どんなイベントなのか。その中身を紹介していこう。

今大会で2回目を数える同イベントは、日本では初開催。脊髄損傷の治療法発見に取り組む研究に対して資金援助を行う非営利団体「Wings for Life財団」をサポートするために行っており、参加費の全額に相当する金額を同財団に研究助成費として寄付することが目的とされている。現代の医学をもってしても、脊髄損傷を治すための決定的な治療法がいまだ存在しないからだ。

このチャリティイベント、内容が実に面白い。世界6大陸33カ国35ヶ所の会場で同時刻にスタートし、その30分後にキャッチャーカーが時速15kmで追いかけてくる。距離が延びるごとにキャッチャーカーは少しずつ加速していき、ランナーたちは抜かれた時点でフィニッシュ。要するにゴールが追いかけてくるというわけ。

この中身に賛同した全世界で73,360名、日本では1,983名のランナーたちが参加。参加費のトータルは世界全体で420万ユーロ(約5億6500万円)となり、前述したとおりWings for Life財団の支援に充てられることになる。

脊髄損傷について詳しく知らないと話が展開できないので、まずはNPO法人日本せきずい基金のホームページを調べてみた。データは古い(1990~1992年)ものだが、脊髄損傷者は10万人を超えており、毎年5千人の受傷者が増えているそう。受傷原因は交通事故が43.7%、高所転落が28.9%、転倒が12.9%、打撲・下敷きが5.5%、スポーツが5.4%、その他が3.6%という内訳になっており、スポーツ別に見てみるとスキーが13.4%で2番目に多い。これらを踏まえると、データを収集した時代にはスノーボードが普及していなかったため、近年は新たな受傷原因としてスノーボードが増えているということが容易に推測できるのではないだろうか。

当コラムVol.18「スノーボードを通して夢を与え続ける男・岡本圭司」で綴ったように、今年2月にプロスノーボーダーである岡本がバックカントリーでのライディング中、誤って道路に転落してしまい、第3腰椎の骨折により脊髄損傷を引き起こし、下半身の一部が麻痺した状態。現在も歩行はできず、リハビリ生活を強いられている。一般スノーボーダーが滑るフィールドとは異なるため、よりケガのリスクは高かったということを念のために付け加えさせていただく。また、先日NHKの番組で特集されていた寝たきりのデザイナー・平明広さんもスノーボードの事故により、首から下の自由を失ってしまったそうだ。障害者向けの機具などを組み合わせた特別仕様のPCを使用し、首から上だけで絵を描いている。ほかにも多くのスノーボーダーたちが同じ苦しみを味わっているかもしれないが、前述したように、彼らは明確な治療法がないまま、己と戦い続けているのだ。

イベント当日、岡本を師と仰ぐ角野友基も走った。そのことについて言葉を交わしてはいないが、ヒザを痛めているにも関わらず参加していたのだから、このイベントに対する想いを行動から感じることができた。角野と同じくRed Bullアスリートの鬼塚雅も熊本から駆けつけた。さらに、地元・滋賀が開催地ということもあってか田中幸が一般参加。彼女は2008年、国際大会の練習中に転倒してしまい脊髄を損傷した経験を持つ。事故直後、彼女の下半身も動かなかった。しかし、そこから最先端の治療に専念し、血のにじむような努力の末、奇跡的な復活を遂げたのだ。岡本が入院している病院を訪れ、自身が経験したすべてを伝えるなど、彼にエールを送り続けている。そういった想いを胸に走っていたに違いない。

Wings for Life World Run 2015 Japan - Takashima © Jason Halayko for Wings for Life World Run

僭越ながら綴らせていただくが、僕自身もケガと闘っているひとりだ。3年以上前に左大腿骨外顆(膝の外側の骨)を粉砕骨折し、いまだ完治していない。筋力は低下し、可動域にも制限が出ている。小走りしかできない状態ではあったが、本イベントの話を知り出場することを決意。部位も違えば、ケガの苦しみも桁違いだろう。でも、少しでも彼らの力になりたかった。

車いすでもエントリーできるイベントなのだが、なかには松葉杖で参加している人も。いろいろな想いを抱えたランナーたちが参加しているイベントなのだろう。そんな彼らを見ていて背中を押されたのか、キャッチャーカーに抜かれることなく10.67kmを走ることができた。絶対に無理だと思っていた壁を越えることができたのだ。挑戦することの大切さを改めて痛感させられるとともに、さらにリハビリに励み、来年は今回の記録を超えたいという目標までできた。車いすで生活している人たちの力になりたいと思っていたのに、反対に彼らから勇気を与えてもらう結果に。

来年度の開催は2016年5月8日(日)に決定しており、仮予約もすでにスタートしているそうだ。スノーボーダーのみなさん、来年は一緒に走りませんか?

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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