オリンピック競技として加速するスノーボードの未来

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.32
SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.32
By 野上大介

さる6月8日、IOC(国際オリンピック委員会)はスイス・ローザンヌで理事会を開き、2018年に開催される韓国・平昌五輪からスノーボードのビッグエアを正式種目として採用することを発表した。1998年の長野五輪からハーフパイプ種目を含めてオリンピックに採用されたスノーボードだが、2014年のソチ五輪からスロープスタイルが正式種目に名を連ねているので、2大会連続でフリースタイル競技が新種目として加わったことになる。

この背景には、2011年にスロープスタイルの正式種目化が決定したときと同様に、IOCがスノーボードをとても魅力的なコンテンツとして考えていることが容易に推測できる。当コラムVol.13「スキー連盟に属するスノーボードとは」で説明したように、バンクーバー五輪でのハーフパイプ種目の視聴率が世界的によかったことを受けて、この時点までFIS(国際スキー連盟)では運営していなかったスロープスタイルをオリンピック種目化したのだ。

弊誌ウェブサイト内の記事でも紹介しているデータだが、ソチ五輪から採用されたスキー競技の新種目が世界中で放送された総計時間の内訳は、スノーボード・スロープスタイルが35%、スキー・スロープスタイルが24%、スノーボード・パラレルスラロームが18%、スキー・ハーフパイプが17%、スキー・女子ジャンプが6%だった。また、分単位の平均視聴者数の内訳は、スノーボード・スロープスタイルが29%、スキー・ハーフパイプが20%、スキー・女子ジャンプが18%、スノーボード・パラレルスラロームが17%、スキー・スロープスタイルが16%という結果。このデータが示すとおり、スノーボードのフリースタイル種目が圧倒的なコンテンツ力を誇るということは2大会連続で証明されているわけだ。

今回のビッグエア採用に関しては4年前よりも確固たる段階を踏んでいて、FISはすでにワールドカップのいち種目として開催している。だが、今年2月にカナダ・ストーンハムで行われたワールドカップでのジャンプ台は、現時点のビッグエア最高峰大会として周知されているAIR+STYLEやX GAMESでのそれとは比較にならないほど小さいそうだ。同じジャンプ台で女子の大会も開催していることや、2018年に向けてのテストであるはずなので、今後は発展していくに違いないのだが……一抹の不安がぬぐえないことも事実である。それは、これまで長きに渡り実績を培ってきているスノーボード業界からの援助を、IOCとFISが望んでいないから。スノーボードの国際大会を運営しているTTR PRO SNOWBOARDINGが手を差しのべているにも関わらずの話だ。その理由について興味を持たれた方は、前記した弊誌ウェブサイト内の記事を一読いただきたい。

とは言え、我が国にとってはかなりの追い風と言えるだろう。角野友基が証明してくれたように、ビッグエアは日本のお家芸になりつつある。当コラムVol.28「日本人ライダーを世界レベルへと押し上げた環境」を読んでくれた読者諸兄姉は理解いただけるだろうが、日本にはオフシーズンでも利用できるジャンプ練習施設が全国に点在しているからだ。通年に渡り安全に練習できるため、ひと昔前の角野がそうだったように、キッズやユース世代の若手スノーボーダーたちが挙って練習に明け暮れている。虎視眈々とスロープスタイル日本代表の座を狙っていたところに、ビッグエアがオリンピック種目になった。可能性が一気に広がったことだろう。

その理由として、海外と比較したときに、ジビングを練習できる環境が日本には乏しい。2012年のAIR+STYLE北京大会で優勝した頃からビッグエア種目の世界トップに君臨していた角野だが、スロープスタイルではなかなか勝てないシーズンが続いていた。その理由のひとつがジビングだった。スケートボードを高次元で操るスノーボーダーが多い中、ライバル国よりもスケートボードが文化として根づいていないことや、ゲレンデに高難度なアイテムが設置されていないことなどが、その理由として挙げられるだろう。そういった意味も含め、日本にとっては追い風なのだ。

しかし、技術だけを培ったとしても、現在のビッグエアのレベルを考えれば、テイクオフ時に想像を絶するGがかかり、大きな放物線を描いた巨大ジャンプの着地には強靭な足腰が必要になる。2012年に角野がAIR+STYLEで優勝した直後にインタビューをしたのだが、このように語ってくれた。

「ゲレンデやパークのスケールも含め、体格だったり筋肉量の違いなど世界との差を感じていましたが、トレーニングをするようになってから“追いつける”と思えるようになりました」

重力に逆らって飛び出し、リップ・トゥ・リップに着地して加速させる動きを繰り返すハーフパイプでは、小柄で軽量な日本人が持つしなやかさや器用さといった武器を活かせるので、2010年のバンクーバー五輪前から強豪国として知らしめてきた。ビッグエアやスロープスタイルは後進国であったが、ジャンプ施設での反復練習と肉体改造により、世界との壁を取り払うことができた。みなが角野のように成功するわけではないが、ここにヒントは十分に含まれていると言える。

また、同インタビューではこうも語ってくれていた。

「(世界と比較したときに)スノーボードをどれだけ楽しんでいるかっていう部分が足りないと思いましたね」

現在のスノーボードは冬季五輪種目ではメダル候補の筆頭競技であり、さらに夏季も含めた他競技にまで話を広げても、世界トップレベルに多数の選手がいるスポーツはほかにない。体育文化が根強い日本ではあるが、角野も含め、ソチ五輪でメダルを獲得した平野歩夢や平岡卓らは、スノーボードを通して自己表現を楽しみながら技術向上に努めている。武士道や根性論など、これまでの日本文化を顧みると受け入れがたいものなのかもしれない。けれど、“だからこそ強い”とも言い換えられるのではないか。

ビッグエアのオリンピック種目化を受けて、その舞台を目指す若手スノーボーダーたちはさらに増えるだろう。メダル獲得は価値のあることだが、そればかりに執着して大切なものを忘れないでほしい。シーズン後半にはクワッドコークが誕生するなど、トリックの高難度化が加速し続けているからこそ。

スノーボードはスポーツであると同時に楽しむことが本質にある、のだから。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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