「勝ち」にこだわるコンペティターと、己の滑りを貫く表現者としての「価値」

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.38
SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.38 © Markus Fischer/Red Bull Content Pool
By 野上大介

【写真】Marcus Kleveland and Eero Ettala

まずはこちらの動画をご覧いただきたい。弊誌ウェブサイトでも取り上げたのだが、当時15歳だった若きコンペティターがバックカントリーに挑むドキュメンタリー映像(英語)だ。およそ8分に渡る映像には日本語字幕が付いていないのだが、スノーボーダーであれば言葉の壁を越えておおむね理解できるだろう。

この映像作品の主役はノルウェー出身の現16歳、マーカス・クリーブランド。ノルウェーと言えば、スロープスタイルやビッグエア種目の常勝ライダーを多く輩出していることで有名だ。その理由としては、首都であるオスロにはゲレンデがあるため、地下鉄でボードやスキー板を抱えている人を多く見かけるほど国民的スポーツとして根づいているから。世界中を見渡しても、首都である都市にゲレンデがある国は存在しない。冬の日照時間が限られている北欧ではあるものの、このような好環境はマークにもその恩恵をもたらしたようだ。13歳でBURTON EUROPEAN OPENのスロープスタイル種目ジュニア部門で優勝を飾ると、同年にはトリプルコークを成功させるなど、2018年に開催される平昌五輪のノルウェー代表候補として名を馳せている期待の新星である。

このようにゲレンデやパークを滑らせれば超一流なわけだが、バックカントリーでのライディングはどうなのだろうか。グルーミングバーンでカービングターンできる人すべてが、ディープパウダーでも自在にボードを操ることができるかと問われれば、答えがノーであることは容易にわかるはず。バックカントリーに出れば木々や岩などの障害物が多くなり、雪崩の危険性も含まれるため、難易度だけでなくリスクも高まる。

また、ノールと呼ばれるポイント(斜度が急激に落ち込んでいる凸部分の地形)を想像してほしい。パークのキッカーのように圧雪されているわけではなく、ましてや飛びやすいリップが設定されているわけでもないナチュラルヒットでテイクオフすることは、想像すら難しいのではないか。もちろん、パウダーバーンでの着地もパークのように一筋縄ではいかないだろう。

さらに言えば、ノールでは谷側の斜面が見えない状態でのテイクオフになるのだ。ライダーたちはランディングエリアや両サイドからロケーションを入念に確認し、それを山側のアプローチポイントから見える視界とすり合わせるようにイメージを膨らませ、進入スピードやテイクオフする方向などを決定しなければならない。技術はもちろん重要なのだが、それ以上に経験値が必要になるわけだ。飛んだ先に木があるかもしれないし、岩がむき出しになっている状況だって多々あるのだから。

正しくパークに設置されたキッカーの場合、アプローチに適したスタート地点が明確になっているはずだ。もちろん、キッカーの大きさによってアプローチに要するスピードは異なるのだが、造成する際にそのスピードはしっかりと管理されている。そしてテーブル部分を飛び越えることができれば、そこには衝撃を緩和するだけの斜度が設けられたランディングがあるのだ。それは、X GAMESのビッグエア種目で使用される巨大キッカーであっても同じこと。

言い換えると、トリプルコークを自在に操れて、常に表彰台に上ることができるトップコンペティターだったとしても、バックカントリーにおける経験がなければ、与えられた地形に対してどこからアプローチすべきかを自分自身で判断することは困難である。また、パークのようにジャンプの放物線に対して適切な斜度に着地するわけではなく、かつ、パウダーの深さや雪質など状況も常に変化しているため、ランディングひとつとっても格段に難しいわけだ。

この説明を裏づけてくれる映像がある。2012年にトラビス・ライス監修のもと開催されたバックカントリー・スロープスタイル大会「Red Bull Supernatural」を覚えているだろうか。この時点でスロープスタイル種目における常勝ライダーとして君臨し、同大会にインビテーションされたマーク・マクモリスなのだが、その1本目のランに注目したい。前述した内容を理解していなければ「マークほどスキルの高いトッププロが、なぜこんなにコケるんだ?」という印象を受けるに違いない。ご託を並べるよりも、この動画を観てもらえればすべてがわかる。

マーカスの指導役として登場するエーロ・エッタラやヘイキ・ソーサも、若かりし頃はコンテストで勝つことを目標に掲げ、トリックの習得に明け暮れてきた。現在は、これまでに培ってきたテクニックを大自然が育むバックカントリーという大舞台に同調させ、己を表現することに命を懸けている。これは彼らに限った話ではなく、トラビス・ライス然り、國母和宏然り、ニコラス・ミューラーも然りである。トップライダーと呼ばれるプロスノーボーダーたちは、このような道のりを歩みながら進化し続けているのだ。そこには、トリックの難易度を追求する以上に魅力的な、スノーボードの本質である“自由”があるからなのではないか。

現在の世界レベルを踏まえると、コンペティションとシューティングの両立は難しいとされている。事実、バンクーバー五輪ハーフパイプ種目で決勝まで勝ち上がった國母和宏が、当時世界最高峰の映像プロダクションだったSTANDARD FILMSにバックカントリーを中心としたフッテージでパートを獲得していたのを最後に、双方で世界トップクラスの活躍ができているライダーは皆無と言える。

現在のシーンは、オリンピックやX GAMESに代表される大会を中心に活動する若手コンペティターと、バックカントリーやストリートでの作品制作を生業としているプロスノーボーダーとが共存している。一般的に考えれば、前述したような専門知識を必要とする本質を理解することは難しく、かたや競技は、クールなスポーツであることから注目度も高く、細かいジャッジングを除けばスノーボーダーでなくても理解できるだろう。スノーボードが周知されればされるほど、そのボーダーラインが広がり続けているように感じてならない。

だが今回の映像のように、先人から若手に受け継がれていく大切な価値観がある。日本のスノーボード界に置き換えても、國母和宏から平野歩夢ら若手コンペティターたちにそれは受け継がれているのだ。

双方の境界線は広がり続け、ビッグエアでのスピントリックがクワッドコークにまで発展したことも後押しし、より自由度が狭まってしまい、スノーボード本来の魅力が損なわれることに対して危惧する声も業界内では聞こえている。しかし、一部だとしても伝統がしっかりと受け継がれている以上、技術が優先される競技においても、その本質が絶えることはないはずだ。

16歳のマーカスはこれから本格的な競技生活をスタートさせるわけだが、彼の目にはすでに未来が見えている。動画の結びとして語られている言葉から、スノーボーディングが秘める多くの魅力や、世代を超えて楽しむことができる大きな可能性を改めて感じることができた。

「今回のシューティングでの経験を踏まえて、僕はこう思った。年齢を重ねて競技生活を終えたとき、バックカントリーでのライディングに多くの時間を注ぎたい」

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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