身体と向き合うことで遊びの幅が広がる

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.41
Tim-Kevin Ravnjak © Samo Vidic/Red Bull Content Pool
By 野上大介

気が早いかもしれないが、初滑りをイメージしてほしい。多くのスノーボーダーたちが筋肉痛に悩まされ、年配の方であればどこかしらに痛みを伴うこともあるだろう。そう、スノーボードはハードなスポーツだ。だが、体育文化とは一線を画する遊びでもあるため、それを生業とするプロたちもトレーニングについては口を閉ざす傾向がある。だからなのか、他スポーツのようにフィジカルを強化することが一般的に浸透していない。反面、ケガをしやすいという悪評だけは周知されている。かく言う筆者も、若かりし頃は身体を鍛えること自体が“横乗りっぽくない”と決めつけていたひとりではあるが、2012年1月に大ケガを負ったことで考え方が大きく変わった。35歳以上の社会人スノーボーダーが増加していることも踏まえ、今回のコラムではフィジカル強化の重要性について触れていきたい。

私事で恐縮ではあるが、まずは自身のケガの経緯ついて簡単に説明させていただく。前述したように3年前の1月、今から3年7ヶ月ほど前に、弊誌がプロデュースしていた自然地形を活かしたフリーライドパーク「NATURIDING LAND」に設置していたスパインでランディング面を飛び越えてしまいフラットバーンに着地。フィジカルが弱かったことも重なってか、Gに負けて左膝が砕けた。大腿骨外顆という左膝上部の外側の骨が関節面を含めて粉砕してしまったため、可動域に制限が出てしまい、今なお毎週リハビリに通う生活を強いられている。恐らく完治は難しい。雪上に復帰できたものの、膝の柔軟性が重要であるスノーボードにおいて、昔のように滑ることはできない。いわゆる“だましだまし”のライディングだ。

ただ、本格的なリハビリが始まってから3年あまり経つのだが、身体に対する意識が変わったことでケガを補って余るケースも少なからずある。左膝を負傷しているわけだが、左右均等のトレーニングを推奨されていることもあり、アラフォー世代ではあるものの右脚は鍛え上げられている。スノーボードは斜度を利用して滑走するため、重心をセンターに置いた状態でも後ろ足への加重割合のほうが多い。スタンスはレギュラーなので、“だましだまし”のライディングではあるが後ろ足を上手く使うことで、グルーミングバーンで痛みを伴っていない状態であれば、ケガする以前よりもカービングの切れを感じることもできる。また、日常生活においてリハビリでトレーニングする時間が多いため、他の部位も鍛えるようになったことで、歳のわりには動ける身体ができているように感じる。

次元の違う話にはなるが、角野友基はフィジカルを鍛え上げたことで世界の頂に上り詰めたといっても過言ではない。彼は国際大会を転戦し始めて他国のライダーたちと触れ合ったことで、日本人スノーボーダーがフィジカルトレーニングを怠っていることに気づかされ、自らの肉体改造に取り組んだ。これにより、高回転スピンでのテイクオフやランディングの精度が向上し、メイク率が格段に上がったのだ。その結果、2012年12月にAIR+STYLE北京大会で優勝。世界最高峰のビッグエア種目で日本人として初優勝を飾り、その後の快進撃はご存知のとおりである。

雪上に復帰できた当初は滑れるだけで喜びを噛みしめていたが、人間という生き物はやはり欲が出るもの。以前のように滑れない歯がゆさが、トレーニングに対するモチベーションを高めている。理想の滑りに少しでも近づけるべく、これからもトレーニングを怠ることは決してないだろう。ごく普通のサラリーマンではあるが、今ではトレーニングすることがライフスタイルの一部に組み込まれているから。

本格シーズンが訪れるまで、およそ4ヶ月が残されている。上達を目論んでいる人はもちろんだが、いつも以上に楽しむためにも、今のうちから自身の身体と向き合ってみてはいかがだろうか。筆者は大ケガを負ったことで気づかされたわけだが、フィジカルを強化すれば当然、ケガのリスクを抑えることもできる。堅苦しい話に聞こえるかもしれない。しかし、遊ぶために必要な身体ができていなければ楽しめるはずがない。スノーボードをいつまでも楽しんでもらいたいからこそ、少しでも考えていただければ幸いである。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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