マニュアル車からオートマ車に進化したハードギア

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.42
Travis Rice © Tim Zimmerman/Red Bull Content Pool
By 野上大介

 猛暑真っ只中の8月上旬、東京・神田へ足を運んだ。木曜日の昼下がり、気温は35℃を超えていた。数店まわってみたところ、決して多いとは言えないが、来季ギアを物色するスノーボーダーたちを目にすることができた。とろけそうな暑さの中、すでにギア商戦は始まっているのだ。そこで、本コラムVol.35「ギアの選択はスノーボーダーにとっての最重要ミッション」に引き続き、今回はハードギアについて考察していきたい。

唐突ではあるが語弊を恐れずに言わせていただく。近年のギアを比喩するならば、“マニュアル車”から“オートマ車”に進化した。

筆者よりも古くからライディングし続けているスノーボーダーから言わせれば、この表現は適切ではないのかもしれない。しかし、今から20年余り前の92-93シーズンに初めて雪上で板を履いたため、それ以降の価値観で綴らせていただく。当時を振り返ってみると……今では考えられないほどローテクだったわけだが、あの“じゃじゃ馬”感がまた面白かった。

94-95シーズン、スノーボード歴3年目。当時憧れを抱いていたプロスノーボーダーのシグネチャーボードを購入した。ウエスト幅はナローとワイドの選択肢があったのだが、どうしてもほしかったグラフィック(3パターンから選べた)のボードは真夏の展示受注会にも関わらずナローモデルが完売。乗りやすさよりも見た目を優先させ、ウエスト幅26cm超のワイドモデルに跨がった。正直なところ滑りづらかったが、このボードを乗りこなせるようになったことで、カービングスキルが高まったように感じている。ウエスト幅の問題だけでなく、あらゆる面で試行錯誤が繰り返されていたボード構造だっただけに、あの時代はそれを乗りこなす楽しみがあったのだ。

その後、スケートボードの延長線上にあったスノーボードは、MACK DAWG PRODUCTIONS作STOMPING GROUNDS(96年)のオープニングに収録されている、インゲマーバックマンが放ったスウェーデンスグランセンでの伝説のバックサイドエアを皮切りに、ジャンプが巨大化していくことに。伴って、ビッグエアを生み出すための反発性や、それを受けての耐久性、さらに軽量化や滑走性の向上など、ハードギアを進化させるべくテクノロジーの追究が急がれた。その頃からスキーメーカーが本格参入し始め、自らも仕事として携わっていた某スキーブランド発のボードは、これまでの感覚でカービングすると、驚くことに谷側に切れ上がるほど。スキーからノウハウを得たカービングテクノロジーは、スノーボードシーンに衝撃を与えた。ソール材に当時としては最高級のP-TEX4000を採用、ストラクチャーが深く刻まれていたこともあり、あの時代のどのボードよりも滑走性が優れていたように記憶している。簡単にスピードが出て、勝手に曲がる。誇大表現に思われるかもしれないが、自ら体感し、そのように感じたのだ。

……話が長くなってしまうため、以降については割愛させていただくが、以来、毎年ニューギアに触れてきた。ボードは劇的な軽量化を遂げ、反発性などすべての面で向上。構造も複雑化の一途をたどり、ロッカーやダブルキャンバーなどベンド(ボードをサイドウォールに対して真横から見たときの形状)が多様化したことで、あらゆるライディングニーズに応えられるようになった。同様に、バインディングやブーツも軽量化はもちろん、快適性や耐久性などが格段にアップ。休眠層から抜け出したスノーボーダーが近年のハードギアを使用したとしたら、その進化幅に驚きを隠せないはず。選択さえ間違わなければ、自分に合ったギアが確実に見つかる時代なのだ。言うまでもないが、ブーツを履き、バインディングに固定された状態で滑るため、ギアへの依存度はかなり高い。快適かつスピーディに上達できるプロダクトが市場にあふれているのだから、現在のスノーボーダーは恵まれていると断言できる。

だが、筆者が体感した時代背景も知っておいてほしい。車の運転もそうだろう。エンジンブレーキや坂道発進など、マニュアル車が運転できてこそオートマ車の特性を活かせるわけだ。乗らされるのではなく、自ら制御しながら操るライディングを目指していただきたい。そのためにも、今の時期からあらゆるギアに触れることをおすすめする。試乗することはできないが、見て、触れて、聞いて、そしてイメージできれば、適正なギアを判断できるだろう。もちろん、そのためのショップ選びも重要になるわけだ。

この冬をともに過ごす最高のパートナーと出会うために、ショップ、ギアともに妥協せず選んでいただきたい。それをクリアできれば、来たる冬が素晴らしき季節になるはずだから。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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