角野友基が新技「フロントサイド・トリプルコーク1440」を成功させた意義

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.44
Yuki Kadono © Gabe L’Heureux
By 野上大介

日本が猛暑に見舞われていた頃、当然ではあるが南半球では雪が降り積もっていた。暑さもひと段落した8月下旬になると、ニュージーランドやオーストラリアのゲレンデは寒さのピークが過ぎた頃だろう。そう、本格的なパークシーズンの到来とともに、2015-16シーズンのコンテストシーンが開幕したのだ。

8月22日にスロープスタイル決勝、30日にハーフパイプ決勝が行われたFIS(国際スキー連盟)ワールドカップの初戦はニュージーランド・カードローナで開催。スロープスタイル種目の日程と重なるようにして、WORLD SNOWBOARD TOURの一戦であるTHE MILE HIGHがオーストラリア・ペリシャーで開催されていたため、同種目に出場するライダーたちはワールドカップかTHE MILE HIGHかの選択を迫られた。日本チームはワールドカップに出場したのだが、アメリカやノルウェー、カナダといった強豪国のトップライダーたちは挙ってTHE MILE HIGHへの参戦を表明。これまでの実績を踏まえれば、角野友基のワールドカップ優勝は確実視されていた。予選を1位通過して順当かと思われたが、結果は2位。

今季のワールドカップよりWORLD SNOWBOARD TOURのジャッジシステムでお馴染みのライブスコアリングシステム(セクションごとのスコアを瞬時に表示)がFISの大会でも導入されるようになったのだが、それが上手く機能していなかったのではないか……という情報が現地から入った。詳しくは弊誌ウェブサイトで解説しているので映像も含めこちらからご覧いただきたいが、確かに否めない部分はあるように感じた。ほかの日本人ライダーはと言えば、ファイナルにコマを進めた脇田朋碁が7位、稲村奎汰が9位、女子では広野あさみが6位。鬼塚雅と佐藤夏生は予選敗退に終わった。

そして、ワールドカップよりもレベルが高い大会、隣国で行われていたTHE MILE HIGH。公式練習は天候に恵まれ、クリエイティブに設置されたコースで想像力あふれるパフォーマンスを繰り出すライダーたちの映像がオンライン上に公開されていただけに、それを観るかぎり期待度はかなり高かった。しかし、天候が激変したことで日程調整を行ったものの、結果的に回復する兆しはなく悪天候のまま大会を開催。トップランカーたちはキャンセルし、しかも決勝が行えなかったため予選時のポイントで順位を決することに。スロープスタイルに転向して間もない藤森由香が3位に輝いた。男子は宮澤悠太朗が参戦したのだが、上位から大きく離される結果となった。

ハーフパイプは競合する大会はなかったのだが、国によって方針は異なるものの、この時期のFISポイントを代表選考として考えていないなど様々な理由があり、いわゆるX GAMESやUS OPENに名を連ねるライダーたちが顔を揃えていたわけではない。しかし、男子ではソチ五輪金メダリストのイウーリ・ポドラチコフ(スイス)、グレッグ・ブレッツ(アメリカ)、クリスチャン・ハーラー(スイス)、女子では女王ケリー・クラーク(アメリカ)が参戦するなど、日本人若手ライダーたちが経験を積むには十分な舞台と化した。こちらも下馬評では平岡卓とイウーリの一騎打ちと予想されていたが、新星・片山來夢が優勝候補らを抑えて見事表彰台の中央に。女子は、大江光が女王を撃破して2位を獲得した。出場したすべての日本人ライダーが予選を通過し、ケガからの復帰を遂げた青野令は6位、今井郁海は7位。ナショナルチーム入りしていない平野歩夢は不在なわけだが、パイプ大国・日本の力を見せつけたのだ。大会の詳細について知りたい方はこちらの記事をご一読いただければと思う。

そして、ワールドカップのハーフパイプ初戦を終えた直後には、同大会「WINTER GAMES NZ」の一種目としてビッグエア競技が行われた。こちらはWORLD SNOWBOARD TOURのNATIONALクラスの大会として指定されており、スロープスタイルとハーフパイプはFISのワールドカップだったのに……とちょっとややこしい話ではあるが、スロープスタイルに参戦した日本人ライダー6名は全員出場。2018年の平昌五輪から正式種目となるビッグエアだけに、選手たちに経験を積ませたいというSAJ(全日本スキー連盟)の配慮があったのかもしれない。

だが……フタを開けてみると出場していたのは、男女ともに日本人しかいないという珍事が起こった。エントリーの時点でも男子6名、女子4名しかおらず、理由はわからないが他国の選手は全員欠場。ライブストリーミングで観戦していたのだが、日本人ライダー6名が繰り返し飛んでいる姿は、まるで練習を観ているかのような錯覚に陥るほど。全員の表彰台が確定している大会を何気なく観ていたのだが、その前の2本ともミスをしていた角野の3本目、彼自身初となるフロントサイド・トリプルコーク1440を完璧にメイクしたのだ。このジャンプはほぼ満点に近いポイントを叩き出したのだが、点数の高い2本の合計点で争われていたので、結果、角野は2位だった。男子は稲村、女子は鬼塚がそれぞれ優勝。

今大会、角野は2戦とも2位に終わり不完全燃焼だったわけだが、大会結果よりも大きな価値ある武器を手に入れた。これまでの彼は、2012年のAIR+STYLE北京大会でバックサイド・トリプルコーク1440を世界で3人目として成功させ、同大会で優勝したことで世界中にその名を轟かせた。そして2014年、ソチ五輪直前のX GAMESでバックサイド・トリプルコーク1620を成功させて世界中から注目を集め、今年の2月には世界初となるスイッチバックサイド・トリプルコーク1620をAIR+STYLEロサンゼルス大会で決めて優勝。翌月のUS OPENでは、スロープスタイル競技において史上初となる、バックサイド・トリプルコーク1620からスイッチバックサイド・トリプルコーク1620を繋ぐという離れ業を成し遂げ、長き歴史を持つ伝統の一戦で日本人として初となるスロープスタイル種目での優勝を飾ったのである。

このように世界初も含めて高回転3Dトリックの進化を牽引してきた角野なのだが、すべてバックサイド回転でのそれだった。フロントサイドもしくはキャブ(腹側へ回転させるスピン)のトリプルコーク1440の場合、スピンの先行動作に必要となるテイクバックがバックサイドに比べてとりづらいこと、また、着地への合わせがブランインド方向になるためメイクが至難の業であることが、バックサイド方向の高回転3Dスピンが先行している理由だろう。しかし、今年のX GAMESでは、マーク・マクモリス(カナダ)がフロントサイド・トリプルコーク1440を、同じくカナダのマックス・パロットはキャブ・トリプルコーク1440を決めている。両名はバックサイド・トリプルコークも操るため角野よりトリックの引き出しが多いわけだが、それ以上にバックサイドでの高回転3Dスピンが長けていたからこそ、角野はフロントサイド回転の大技がなくても彼らに勝ってきた。その角野がフロントサイド・トリプルコーク1440を手に入れたということは、まさに“鬼に金棒”と言える。

今夏の大会では、ワールドカップ初優勝となった片山や大江らハーフパイプのルーキーたちは、大きな自信に繋がったことだろう。スロープスタイルとビッグエア競技において“世界一”と言っても過言ではない角野にとっては、失礼な言い方をすればレベルは決して高くなかった2大会での2位は手放しで喜べる結果ではなかったはずだ。しかし、そこで得られた成果は大きかった。結果より中身が大事とはよく言われるが、一般的なメディアから報じられているリザルト以上に好スタートを切ったようだ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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