國母和宏が示した世界への道しるべ

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.45
Kazuhiro Kokubo © STONP
By 野上大介

さる9月5日。東京・渋谷に位置する、ブラックミュージックの聖地として名を馳せるクラブ・HARLEMが揺れた。國母和宏率いるSTONPの最新作であり最終章となる『STONP OR DIE』の試写会が開催され、出演ライダーが全員集結。ティーザー(予告編)の段階から前評判が高かったこともあり、会場は溢れんばかりのオーディエンスで埋め尽くされ、バーカウンターに設置されたモニターでようやく観ることができるような“満員御礼”状態だった。

職業柄、あらゆるビデオプロダクションの試写会に顔を出すのだが、ほとんどのそれは関係者や出演者の知人たちが観衆の大半を占めているケースが多い。しかし、このSTONPの試写会では一般スノーボーダーだけでなく、ストリートからクラブシーンに至るまで、あらゆる人種のるつぼと化していた。閉幕後、InstagramなどのSNSでハッシュタグ「#stonp」「#stonpordie」を探ってみたところ、スノーボードムービーの試写会としては異例なほど多くの投稿が寄せられていた。國母の知名度もさることながら、ライフスタイルを含めたブランディングを徹底しているSTONPクルーだからこそなのだろう。

このように人気絶頂のSTONPなのだが、映像作品の制作は今作で幕を下ろすことになる。その理由は明らかにされていないが、國母が日本人スノーボーダーたちの世界への道しるべとなり、その道のりを明確に提示できたからではないかと推測する。

設立当初は自身の名を伏せていたものの、國母がSTONPを創設した理由は、日本スノーボード界を世界レベルへと押し上げるためだった。高校生の頃から単身で渡米し、老舗であり名門フィルムプロダクション・STANDARD FILMSとのシューティングに多くの時間を費やし、数えきれないほどの貴重な経験を積んできた。その傍らでオリンピック出場を果たし、時空を止めるかのようなマックツイストの映像が世界中に配信されると、多くのスノーボーダーはもちろん、ボードを履かない人間までをも虜にした。さらに、当時所属していた大手ブランドのチームムービーでオープニングパートを飾ると、その名は一躍世界中に知れ渡ることに。

そう、自ら最高のビデオパートや映像を引っさげてグローバルに殴り込みをかけ、そして認めさせたわけだ。國母は知っている。最高の“画”を残すことで、日本のスノーボードを世界中のヤツらに認めさせることができることを。だからSTONPを5年間に渡り運営してきたのだ。

ひとつの実証として、今秋リリースされる米TRANSWORLD SNOWboarding誌がプロデュースする映像作品『ORIGINS』に國母を筆頭に、工藤洸平やテディ・クーの出演も決まり、さらには世界5大エリアのひとつとして日本パートが制作された。日本が注目された理由として、インバウンド効果や降雪などの要因も少なからずあるだろうが、國母の存在があってこそ、彼がSTONPを牽引してきたからこそ、このような成果に結びついたと断言できる。

肝心の作品だが、主力ライダーたちは前作への出演を控え、2シーズン分の映像を今作まで持ち越していた。國母イズムを継承した若手ライダーたちは1シーズンと限られた時間の中で、ストリートやバックカントリーで身を削りながら、多くのフッテージを残した。今作に遊びはない。すべてのフッテージが日本を代表するにふさわしい映像ばかりで、ついに日本のスノーボードがこのレベルまで到達したかと、会場にいた業界関係者の多くが口にしていた。

コンテストを主軸に活動しているライダーたちはクワッドコーク1800にまで進化が及び、多くのキッズスノーボーダーたちはオリンピックの舞台を目指して、その超高回転3Dスピンを目標に切磋琢磨している。しかし、最終章となるSTONP OR DIEのラストフッテージは、國母による540。バックカントリーで大きく宙を舞い、余った回転力を自らのスタイルとともに封じ込めているかのように───。

豪華絢爛なライディング映像が多数並ぶ今作の結びとして選ばれたこのフッテージにこそ、強烈なメッセージを感じた。國母から放たれたこのライディングこそ、日本スノーボード界の未来だけでなく、グローバルのスノーボードシーンに向けたアンチテーゼなのかもしれない。

 

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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