現在のライディング事情を考える

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.46
Jamie Lynn © E-Stone
By 野上大介

誤解を恐れずに言わせてもらう。もし彼がいなかったら、現在のスノーボードにおける価値観は異なっていた。これから述べることは断言できる。もし彼がいなかったら、現在の自分は存在していない。それほどまでシーンに多大なる影響を与えた男───その名はジェイミー・リン。若い世代のスノーボーダーはピンとこないかもしれないが、スノーボードにスタイルという価値観を見いだし、ファッションやアート、音楽といったカルチャーとしての側面を植えつけた、いわゆるレジェンドスノーボーダーである。

ジェイミーに本気で憧れた学生時代。彼のシグネチャーモデルがリリースされると聞けば即予約し、彼が映像内で着用していたアパレルを血眼になって探し、ロン毛(死語)を切り落として髪型もマネしたほど。ビデオテープが擦り切れるほど再生しながら彼のライディングスタイルを脳裏に焼きつけ、少しでも近づきたいという想いを胸に滑りまくる日々。まずはカタチから入るという王道を貫いてバイト代をつぎ込み、スノーボード業界のバブルに寄与していた。

学生だったこともあり、自分も含め、毎年ギアをフルセットで買い替えるスノーボード仲間が多かった。現在と比較すると耐久性が劣っていたことも事実だが、それ以上にファッション感覚が強かったのだ。冬に備えて貯めたお金をすべて投資し、バイトもせずに雪山で毎日を過ごした。卒業後も滑り続ける道を選択して現在に至るわけだが、人生を変えるほど熱中した理由として、当時の時代背景を振り返ってみると、ふたつの要因が挙げられるのではないかと考える。

ひとつ目は、スノーボードが目新しくファッション性の高い“自由な遊び”だったこと。スキーヤーとは一線を画し、ストリートファッションを身にまとって雪上を駆け抜ける優越感に加え、ゲレンデ内を縦横無尽に滑りながら、あらゆる起伏を活かしてスケートボードのようにトリックを仕掛けるライディングスタイルが、若者たちを虜にした。

ふたつ目として、当時は発展途上のフリースタイルシーンだったこともあり、その遊び方に“感情移入”できたこと。スノーボードバブルを生んだ一因とされている映像作品『ROADKILL(1993年)』や『R.P.M.(1994年)』に収められたシーンは、バックカントリーでのライディングも一部含むが、その多くはゲレンデだった。キャデラックやダッジ・チャージャーを乗り回す若者たちがトリップを楽しみながら、等身大のフィールドでスケートライクなトリックを繰り出す映像叙事詩。それらのフッテージを演出するパンクのサウンドが絶妙にマッチし、観る者は心を躍らせながら、彼らの動きに惚れ込んだ。同じようにはできないにせよ、ライディングからファッションまでコピーしようと誰もが躍起となり、これらの作品はスノーボーダーたちのバイブルと化したのだった。

あれから20年余りの月日が流れた。ギアやフィールドの進化に比例するよう……いや、それ以上に、ライディングは急激な成長を遂げた。オリンピックの影響を大きく受ける日本でのスノーボード観としては、他国と比較したときに競技性がより際立っているのだろう。体育文化が根づいている国民性も手伝ってか、自由な風潮よりも技の習得に重きが置かれてきたのかもしれない。スピンの回転数やトリックの難易度を追求し続けた結果、多くても週2日ほどしか滑ることのできない社会人スノーボーダーにとっては、感情移入することが難しい“スポーツ”と化してしまったのではないだろうか。

高回転スピンなんてできないから、高難度なレールなんて抜けないから、パイプでオーバーヘッドなんて飛べないから……。オリンピックを目指すキッズたちが宙を高く舞い、回転数を上げているのを尻目に、大人たちは向かうべき方向性を見失いかけているのかもしれない。

Vol.43「現在のパーク事情を考える」で綴らせていただいた内容は大きな反響を得たわけだが、スノーボーダーの平均年齢は上がり続け、山側から谷側のフォールラインに対してアイテムを正対させている既存のパークに対するニーズは下がり続けている。それを証明するかのようにバックカントリーやパウダーを求める傾向が強くなっているわけだが、フリースタイルなライディングスタイルに対するニーズは今も昔も変わらない。ただし、高回転スピンでもなければ、複雑なジブトリックでもない。

だからこそ提案したい。目新しさを取り戻すことはできないが、リバイバルさせることはできるかもしれない。ゲレンデ内を縦横無尽に駆け巡り、あらゆるヒットポイントを探しながら、小さいジャンプでも、少ない回転数でも、シンプルな当て込みでも構わない。各々の遊び方を、各々のスタイルで楽しむことを。

このように意識を変えるだけで、前述したような悩みを抱えているスノーボーダーたちも貪欲にライディングと向き合えるのではないだろうか。僕らの世代がジェイミーに憧れて滑っていた、あの頃のように。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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