スノーボードが持つ二面性を両立する厳しさと奥ゆかしさ

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.47
Mark McMorris © Scott Serfas/Red Bull Content Pool
By 野上大介

ソチ五輪スロープスタイル銅メダリスト。その直前に行われたX GAMESで肋骨を負傷し、ひびが入った状態でオリンピックに出場していたため不本意な結果だっただろう。それは、ここ数年における数々の偉業が証明している。2012年のX GAMESではスロープスタイル、ビッグエアで2冠に輝き、2013年の同大会でスロープスタイル種目2連覇を達成。2013、14年に渡りUS OPENスロープスタイルで連覇を果たすと、今年1月に行われたX GAMESではスロープスタイルとビッグエアともに金メダルに輝いた。今年3月のUS OPENでは角野友基の神業(バックサイド・トリプルコーク1620 to スイッチバックサイド・トリプルコーク1620を含むルーティン)に屈して2位に甘んじたわけだが、事実上のスロープスタイル、ビッグエア種目における王者と言っても過言ではない。カナダが誇るプロスノーボーダー、マーク・マクモリス、21歳。

当然ながら彼は、2018年平昌五輪のスロープスタイル、さらに同大会から新種目として採用されることが決まっているビッグエアの両種目で金メダルを狙っている。それを阻止しようと目論むトップコンペティターたちは今春、クワッドコークを成功(イギリスのビリー・モーガンがバックサイド・クワッドコーク1800、カナダのマックス・パロットがキャブ・クワッドコーク1620)させて世界中で話題をさらったわけだが、昨シーズンのマークは自身のトリックを進化させるのではなく、バックカントリーでのジャンプやビッグラインを究める道を選択した。自らの殻を破るべく、日本、オーストリア、スイス、カナダなど、世界中のバックカントリーで、大先輩にあたるテリエ・ハーカンセンやニコラス・ミューラーらと切磋琢磨したのだ。

トリックを洗練させることに集中していたのは、ビリーやマックスだけではない。そのひとりである角野は、今年2月に行われたAIR+STYLEロサンゼルス大会にてスイッチバックサイド・トリプルコーク1620を成功させると、先述したように3月のUS OPENでマークの3連覇を阻んだ。たった数ヶ月間で差が縮められ、抜き去られてしまう厳しいコンテストシーンではあるが、マークはそれ以上に価値のある技術や経験を手にしたとも言えるのではないだろうか。

21歳という若さ、そして次のオリンピックまで準備期間がもっとも長いシーズンだったからこその試みだったのだろうが、マークの背中を押した要因として、2012年にトラビス・ライスが発案した未来型コンテスト・SUPERNATURALの存在があったに違いない。この大会を知らない人のために簡潔に説明すると、バックカントリー・スロープスタイル大会と表現することができるだろう。雪のない時期から、降り積もることを想定したうえで巨大ヒットの基盤を造成し、それをナチュラル地形と融合させた唯一無二のスロープ。カナダBC州のボールドフェイスには、過去に類を見ないバックカントリー・スロープスタイルの超絶コースが完成した。そのSUPERNATURALに、同年のX GAMESスロープスタイル金メダリストのマークと、同大会銀メダリストのセイジ・コッツェンバーグが招待された。こちらの映像をご覧になっていただければ一目瞭然だが、世界一のスロープスタイル選手はバックカントリーでは見るも無惨だったのだ。

結果、18名が招待された中でマークは15位、セイジは16位に終わった。ちなみに國母和宏は6位。國母は2010年のバンクーバー五輪ハーフパイプ種目に出場しながらも、コンテストと並行してバックカントリーで多くのキャリアを積んでいたからこその結果だった。同じスノーボードなのだが、大自然が織り成すバックカントリーと、重機により圧雪・造成されたいわゆるパークでは、これほどまでに違うのか。

この大会を終えて、セイジは弊誌のインタビューで次のように答えていたことを思い出した。

「マークもオレも、たくさんのレジェンドライダーたちと同じ時間を共有できただけで、十分に楽しかった。それにしても、スロープスタイルのコースとパウダーだらけの山とでは、ここまで違うんだね。驚いたよ。フィーリングも全然違うし、同じ感覚で滑ったら全然ダメ。スロープスタイルのコースで1440を回してハードパックされた雪面に着地することは簡単だけど、このSUPERNATURALのコースではクリフでストレートエアを繰り出すだけでもマジでヤバかった。テイクオフもランディングもソフトだから、そこで大技を出すなんてクレイジーなことだよ。でも、こういったコースのほうがクリエイティブなライディングができそうだね(TRANSWORLD SNOWBOARDING JAPAN 2012年5月号より抜粋)」

バックカントリーを滑走する一般スノーボーダーは少ないかもしれないが、パークに入った経験がある人は多いだろうし、パウダーを滑ったことがあるスノーボーダーも少なくないだろう。セイジの言葉を自分自身に置き換えて想像してほしい。キッカーのように整備されていないキックでテイクオフするだけでも難しいわけだが、ランディングはパークのように計算されて設計されているわけでもなく、重機で圧雪されているわけでもない。不安定な雪面から飛び出したうえで空中姿勢を安定させ、エアの放物線に合っている保証のないパウダーが降り積もった着地面にランディングしなければならないのだ。その中でトリックを仕掛けるわけだから、その難しさは想像に難くないのではないか。

先ほどの映像を観てもらえればわかると思うが、このときのマークは間違いなく悔しかった。セイジのように流暢に言葉を発してくれはしなかったが、この経験があるからこそ今がある。

そんなマークにとって初となる主演ムービー『IN MOTION』が、日本時間の10月15日AM2時より24時間限定でRed Bull TVにて無料で公開されることが決定した。そして、その予告編が現在公開中だ。ここまで綴ってきた内容を理解したうえでこのムービーを観てほしい。人里離れたバックカントリーで魅せる表現者と、大観衆の前でしのぎを削り合う競技者たち。双方ともにプロスノーボーダーとしての活動だが、その生き様はまったく異なる。しかし、マークはそれぞれの道を究めようと動き出している。このストーリーから、スノーボードの本質や奥ゆかしさがきっと理解できるはずだ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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