“世界2位”の順位以上に価値があった平野歩夢の滑り

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.59
Ayumu Hirano © DEW TOUR 2015
By 野上 大介

さる12月13日の早朝(現地時間12日)、自宅でウェブキャストを観ながら、ひとり拳を握りしめた。

アメリカ・コロラド州ブリッケンリッジで行われたDEW TOUR 2015の男子スーパーパイプで、平野歩夢が2位を獲得したからだ。優勝は、昨シーズンのX GAMESアスペン大会で4位になって以降、コンテストシーンから姿を消していたショーン・ホワイト。見事、およそ1年ぶりとなる復帰戦を飾った。速報レポートは弊誌ウェブサイトでお伝えしているので、ここでは改めて、歩夢の快挙を掘り下げていきたい。

大きなトピックはふたつある。

ひとつ目は、最悪のコンディションにも関わらず、ほかを圧倒するクリーンなライディングを披露したこと。ハーフパイプは半円状のコースを左右にヒットしながら滑るため、スピードが出せなければ飛ぶことはできない。しかし、大会当日はあいにくの天候で、ウェブキャストを通してもわかるくらいボトムには雪が積もり、失速はおろか、トリックの着地時に積雪で足下をすくわれてバランスを崩すライダーが続出していた。パイプ経験者は想像できると思うが、この状況で滑走することは非常に難しい。

ショーンのルーティンからその難しさが理解できるので解説しよう。彼の優勝ルーティンは、BSメソッド→FSダブルコーク1080→CABダブルコーク1080→FSインディ→ダブルマックツイスト1260→FS540だった。ブランクがあるとはいえ、これらのトリックは彼にすれば確実に“決められる”部類に属するのだが、いつものように演じることができなかった。本来のショーンであれば、4ヒット目にFS540ステイルフィッシュを繰り出すことはパイプ通の読者であればご存知だろうが、それができない状況だったのだ。それは、代わりにストレートエアを挟むことでスピードを維持し、大技・ダブルマックツイスト1260に繋いでいたことが証明している。もちろん、スピントリックから大技に繋いだほうが得点は高いわけだが、このコンディションでは厳しかったということ。言い換えれば、さすがは常勝ライダー。“勝ち方”を知っているということだ。

ひとつ目のトピックで特筆すべきは、歩夢がコンディションのよかったセミファイナルと同ルーティンを繰り出したことだ。その中身を探っていくと、バックtoバックのダブルコーク1080を成功させたのはショーンと歩夢のみだったこと、さらに失速や足下がすくわれるような状況だったにも関わらず、すべてスピントリックでルーティンを決めたことにある。ほかのライダーはショーンのようにストレートエアを挟む者もいれば、720程度に回転数を抑えてルーティンを組み直すライダーもいた。セミファイナルでの歩夢が抑えていたという考え方もできるだろうが、彼のルーティンは新技のクリップラージャパン→BS900→FSダブルコーク1080→CABダブルコーク1080→FS1080→SWアーリーウープBS360だったことを考えると、まだ出していないニュートリックはあるかもしれないが、中盤に難易度の高いトリックを集中させていることからも“攻め”の滑りだったと言える。

このルーティンを変えずに決めることができた理由として、ボトム内での卓越したボードコントロール力と、スケートボードで培った正確性の高いテイクオフ、これらが挙げられる。幼少期からパイプ内のラインどりを徹底的にトレーニングし、4歳から始めたスケートボードでバーチカルにおけるシビアなオーリーのスキルを培ってきたからこそ、世界のトップライダーらでも苦戦を強いられる状況で表彰台に上ることができたのだ。

もうひとつのトピックは、1ヒット目に繰り出したクリップラージャパン。クリップラー自体の難易度は高くなく、女子の大会でもよく見ることができるトリックなのだが、この技をジャパングラブで味付けしたオリジナリティと、そのスタイルを高く評価したい。フロントサイドウォールでFS540とバックフリップを同時に行うようなアクションになるのだが、回転の流れに逆らった体勢になるジャパングラブを入れているので、スピン動作が一瞬“ピタっ”と止まる。この“意外性”と“表現力”がカッコいいのだ。

さらにこのアクション、エアターンでは不可能に近い。なぜなら、前肩をボトム側へ先行させる必要があるフロントサイドエアなので、タックニーで前足付近のトゥサイドを掴みながら反る動作は厳しい。できたとしても、スムースかつカッコよくはいかないだろう。だから、フロントサイドでジャパングラブを魅せるのであればトゥフェイキーが定石だった。スノーボード史上、フロントサイドエアのピークでこのようなスタイルを見たことがない。だからこそ、世界中の多くのスノーボーダーが大きく反応したわけだ。

ここ数年のコンテストシーンを振り返ってみると、トリックの高難度化ばかりに話題が集中していた。ビッグエアであればダブルからトリプル、そしてクワッドコークにまで進化。パイプでいえば、ダブルコークはもちろん、ダブルマックツイスト、YOLOフリップ、トリプルコークが世界中から注目されてきた。そこに、あえてクリップラーというアマチュアでもできるトリックに、歩夢にしかできないスタイルを加えることで高評価を得たことに大きな意味がある。

トリックの高難度化ばかりがスノーボードの進化ではない。この大切なメッセージを、17歳の若きライダーが世界中に発信したのだ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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