“完全優勝”という表現がふさわしい平野歩夢の勝利

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.64
Ayumu Hirano © Jason Horton
By 野上 大介

さる1月22日。弊誌ウェブサイトではすでに速報としてお伝えしているが、スイス・ラークスで行われたLAAX OPEN男子ハーフパイプ種目において、平野歩夢が優勝を飾った。これまで同リゾートで行われていたBURTON EUROPEAN OPENの後身としての大会なので、WORLD SNOWBOARD TOURにおけるエリートクラス(最高位)に位置づけられた世界最高峰の大会に変わりはない。加えるならば、昨年大会は賞金総額が160,000USドルだったのに対し、今大会では500,000USドルが用意される力の入れよう。米カリフォルニア州マンモスマウンテンではUS GRAND PRIXが開催されていたものの、WINTER X GAMESスーパーパイプで2連覇中のダニー・デイビスはLAAX OPENに出場。今大会への参戦を表明していたショーン・ホワイトが急遽欠場、ベン&ゲイブのファーガソン兄弟はUS GRAND PRIXを選択したものの、他国の強豪ライダーたちのほとんどが出場している中での優勝だった。

その結果をさらに誇張するべく、当コラムのタイトルに“完全優勝”という表現を用いたのには、もちろん理由がある。

今大会のセミファイナルは降雪に見舞われた悪条件のなか行われたのだが、ここで番狂わせが起こった。前出のダニー、ソチ五輪金メダリストのイウーリ・ポドラチコフ(スイス)、昨シーズンのUS OPENチャンピオン・平岡卓らが敗れたのだ。昨年12月のDEW TOURで歩夢が準優勝したときに綴ったコラム「“世界2位”の順位以上に価値があった平野歩夢の滑り」でも説明しているのだが、パイプのボトム内に降り積もった雪により失速や足下がすくわれやすく、本来のパフォーマンスが発揮しづらい状況だったことが、強豪ライダーたちの敗退に起因すると分析する。事実、ダニーは失速してしまったからか、ラストヒットのFSダブルコーク1080で回転が足りず着地に嫌われ、イウーリにとってはイージーな部類に属するだろうFS900を2ヒット目で繰り出すと、リップに乗り上げてしまうミスで転倒。このような状況下でも、歩夢は38名(1名はDNS)を2ヒートに分けて行われたセミファイナルで、ヒートではもちろんトータルでも堂々の1位通過を果たしたのだ。そのルーティンはDEW TOURと同様に、クリップラー・ジャパン→BS900→FSダブルコーク1080→CABダブルコーク1080→FS1080→スイッチ・アーリーウープ・ロデオ。90.5ポイントを叩き出していた。

そして、迎えたファイナル。雲ひとつない晴天に恵まれ、パイプのコンディションもよさそう。出場ライダーたちはセミファイナルよりも高さのあるエアを放ち、回転数を上げてきているように映った。首位でファイナルに駒を進めていた歩夢は最終出走。1本目からセミファイナルと同じルーティンを、彼らしくスムースなリップ・トゥ・リップで高さを出しながら決めたのだが、ポイントは85.99ポイント。採点競技なので仕方のないことだが、前述したように周囲のライダーたちの演技がセミファイナルよりもよかったため、その差をつけるための得点だったのだろう。先に紹介したコラムでも述べているように、ボトムのコンディションが悪くても卓越したボードコントロール術でスピードを生み出し、幼少期からスケートボードで培ってきた繊細なテイクオフで高さと回転数を叩き出す歩夢。過去にも同じような光景を見たことがあるのだが、“クリーンすぎるライディング”が仇となるような展開に感じていた。

しかし、現在の歩夢はこのままでは終わらない。同ルーティンでは勝てないと踏むと、2本目のラストヒットにスイッチ・アーリーウープ・ダブルロデオを繰り出したのだ。このトリックを大会で見るのは初。ソールから着地するも後傾になっていた体勢をリカバリーすることができず転倒してしまったのだが、続く3本目は、弊誌ウェブサイトの記事を読んでいただければわかるとおり、暫定4位という順位からプレッシャーをものともせず、パーフェクトに着地を決めて91.37ポイントをマーク。逆転優勝を飾ったわけだ。

人工的に造成されたパイプとは言え、自然が相手となるスノーボードだけに、そのコンディションは刻一刻と変化している。今大会のように積雪により滑りづらい状況もあれば、気温が高すぎて湿雪となりスピードが出しづらい状況もある。2014年のソチ五輪を思い出してほしい。パイプの形状は雪不足と気温の高さによりベストとは言えず、大会中も10℃近くと暖かかったため湿雪に苦戦を強いられるライダーが多かった。王者として君臨していたショーンでさえもミスを連発する状況だったにも関わらず、歩夢はエアの高さに加えて高難度なスピントリックを確実に決めた結果、銀メダルを獲得した。今大会でも悪条件だったセミファイナルを1位通過し、好条件だったファイナルで優勝。このような視点から、“完全優勝”と表現させていただいた。

パイプ内での無駄がないスムースな滑り、エアの高さを生み出す正確なテイクオフ、これらが歩夢の専売特許でありスタイルだ。昨シーズンはさらなる高みを求め、YOLOフリップ(CABダブルコーク1440)を新技として大会で披露するも、あまりに複雑すぎる技なのでメイクすることに執着しすぎた結果だろうか、全体的に高さを落としているように感じていた。昨秋、ニュージーランドに長期滞在してマスターした新技がクリップラー・ジャパンであり、今大会の勝因となったスイッチ・アーリーウープ・ダブルロデオなわけだが、自身の武器を活かしたうえでトリックの引き出しを増やすことに成功したのだ。

いよいよ今週末、米コロラド州アスペンにて、オリンピック以上にレベルが高いとされるWINTER X GAMESが開幕(現地時間の28日~)する。日本時間の31日(日)10時15分から(現地時間30日18時15分~)はスーパーパイプ決勝が行われ、もちろん歩夢も招待(X GAMESは完全招待制)されている。これまで、2010年に國母和宏が銅メダル、2013年に歩夢が銀メダル、2015年に平岡が銀メダル、他種目では角野友基が2014年にビッグエアで銀メダル、2015年に同種目で銅メダル、さらに競技を移しても、フリースタイルスキー女子スーパーパイプの小野塚彩那が2015年に銀メダルと、男子スーパーパイプ種目ではもちろん、日本人としてWINTER X GAMESの頂点に輝いた実績がない。

ソチ五輪ハーフパイプの銀メダリストは名実ともに、世界の頂点を狙える位置にまで進化を遂げたのだ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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