折れたボードで世界3位を勝ち取った角野友基の真価

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.65
Yuki Kadono © Christian Pondella/Red Bull Content Pool
By 野上 大介

 

さる1月30日、角野友基が奇跡を起こした。

米コロラド州アスペンで行われていたX GAMESのビッグエア種目において、折れたボードに跨がりフロントサイド・トリプルコーク1440をメイク。世界中から招聘された同種目のトップランカー8名のなかで銅メダルを獲得したのだ。速報記事は弊誌ウェブサイトに掲載しているので、大会の内容を把握していない読者諸兄姉はご一読いただきたいが、ここでは、その真価について触れていきたい。

昨シーズン、ビッグエアの伝統の一戦として周知されているAIR+STYLEロサンゼルス大会で優勝した実力を持つ角野だけに、3位という順位には納得がいくはずもない。だが、今回はとてつもない苦難を乗り越えての結果だけに、感慨もひとしおだろう。

改めて今大会の概要を説明すると、25分間のジャムセッションで行われた。ジャンプを終えたライダーはスノーモービルでスタート地点まで引き上げられるため、自らパスしないかぎりは基本的に出走順に変動はない。制限時間を超えてしまっても最終出走のライダーまで一巡させるため、滑走本数の平等性も確保されている。そうしたなかで、角野は6番目の出走だった。

1本目。王者の風格を漂わせながら、バックサイド・トリプルコーク1620を完璧にメイク。角野であれば成功して当然のように聞こえるかもしれないが、今回招待された8名のなかでも回転方向や回転軸を問わず、1620以上のスピントリックを成功させたのは優勝したマックス・パロットと準優勝のマーク・マクモリス、そして4位に入ったセバスチャン・トータントの4名だけ。それほどまでに難しい技であり、さらに言えば、このトリックからスイッチ・バックサイド・トリプルコーク1620を連続(バック・トゥ・バック)して世界で初めて決めたのが、昨シーズン優勝したUS OPENのスロープスタイルだった。この角野の功績に、世界中が震撼したわけだ。

当然、2本目には伝家の宝刀とも言えるスイッチ・バックサイド・トリプルコーク1620を狙いにいったわけだが、回転がほんのわずかだけ足りずにトゥエッジから着地してしまい転倒。その衝撃でノーズが折れてしまったのだ。あれだけの滞空時間に加えて、縦に3回転と横に4回転半を融合させたスピンの遠心力、さらに現地時間の20時15分からスタートしている大会だけに、ランディングバーンは硬かったはず。

ボードを交換するために3巡目をパスしてバインディングを取り付け、迎えた4巡目。角野にとって3本目のジャンプだったのだが、またもや同トリックの回転が足りずに同じような格好でクラッシュ。スペアボードまで折れてしまったのだ。後で知った話だが、予備のボードは1本しかなかったそう。ノーズが折れた状態で、残りのジャムセッションを戦わざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。

スイッチ・バックサイド・トリプルコーク1620の着地を上手く合わせきれず、さらにノーズが折れた状態で、角野はこう判断した。昨夏のニュージーランドで行われたビッグエア大会で初めて成功させたフロントサイド・トリプルコーク1440(当コラムVol.44『角野友基が新技「フロントサイド・トリプルコーク1440」を成功させた意義』参照)なら、ボードが折れていても立てる、と。

 

続く4本目に放ったフロントサイド・トリプルコーク1440は正確にソール面でランディングを捕らえたように見えたが、ヒールサイドに崩れてしまい転倒。下の画像を見てもらえればわかるのだが、バインディングが装着されているボードにこの時点では乗っているので、ノーズというよりもバインディングに近い位置で折れていることがわかる。フロントサイド方向への縦3回転、横4回転の複合スピンになるので、その回転力は想像を絶するわけだが、着地後にヒール方向へボードが流れやすいということは理解できるはず。折れていた分、その回転力を抑え込むことができずにヒールサイド方向へ転倒したのではないかと分析する。

 

SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.65

 

4番出走であるセバスチャンの6巡目で25分が経過したため、次のジャンプがラストとなる。暫定7位で迎えた角野にとって5本目となるジャンプ。前足からほど近い箇所が折れているため、高速域では雪面からの振動をかなり受けながらのアプローチだったに違いない。折れているためグラグラな状態のチップ~前足付近にかけてを上手くリップから抜いた直後に、テールでしっかりと踏み切ってテイクオフ。フロントサイド方向へ3D回転しながら大きな放物線を描き、ワン、ツー、スリー、とトリプルコークを回しきると、微動だにせず完璧すぎる着地を決めたのだ。まさしく、“パーフェクトストンプ”という表現がふさわしいほど美しすぎる着地。着地時の衝撃をノーズ方向へは逃がせないだけに、極端に短いボードに乗っているかのような状態での着地だったわけである。

 

 

この記事は、X GAMESの主催であるESPN(ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のスポーツ専門チャンネル)が提供する「ESPN PLAYER」によるライブストリームをリアルタイムで観ながら感じたことはもちろん、オンデマンド配信されている映像や上の動画などを何度もチェックしたうえで執筆している。4本目で失敗した後、ゴールエリアまで滑走する角野は、折れた箇所がこれ以上悪化しないように気遣っていたのだろう。優しいターンで滑り下りてくる姿が印象的だった。5本目を完璧に着地した直後はガッツポーズのまま直滑降し、トゥサイドのエッジングで思いきりブレーキ。このエッジングには、計り知れない達成感と充実感が込められていたはずだ。

技術力が世界トップであることは、昨シーズンのリザルトが証明している。そのうえで、今大会ではさらなる進化を目の当たりにしたような気がしてならない。凡人である筆者には、このとき角野が受けていたプレッシャーの大きさを計り知ることはできない。折れたボードに跨がり、7位で迎えたラストジャンプ。そのうえで、過去大会で一度しか成功させたことがないトリックで挑んだ精神力。

これが、角野友基の真価だ。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)

スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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