角野友基の強さの秘密を暴く

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.68
Kyle Mack, Yuki Kadono and Sven Thorgren © AIR + STYLE
By 野上 大介

米カリフォルニア州に位置するロサンゼルス・メモリアル・コロシアムで行われたビッグエアの世界頂上決戦・AIR + STYLEロサンゼルス大会において、角野友基が2連覇を果たしたことは周知の事実だろう。弊誌ウェブサイトでは速報としてお届けしたので、もし内容を把握していないという読者諸兄姉がいるならば、こちらからご一読いただきたい。それを踏まえたうえで当コラムでは、角野が圧勝した、その“強さ”について考察していきたい。

まずは、外的要因から分析していこう。今大会はとても暖かい……いや、汗ばむほどの暑さのもとで開催されていた。ロサンゼルスの平均気温を調べると、温暖な地域であるため2月の平均最高気温は19℃ともともと暖かいのだが、ラウンド2が開催された21日(現地時間)は、現地情報によると26℃を記録。日本で言うところの夏日である。このような状況で、公式発表によるジャンプの平均飛距離が30mもあるうえに高難度スピンを繰り返せば、当然、キックやリップ、ランディングバーンは荒れてくる。もちろん、頻繁に整備をしていたのだが、ベストな状態をキープすることは難しい状況だったに違いない。

さらに、42°を誇るアプローチ斜面には、気温が高すぎたためか全面に雪を敷き詰めることができていなかった。両サイドは基礎がむき出しになっている状態。スピンを仕掛ける際、ターン弧による遠心力を活かす必要があることは一般スノーボーダーでもわかるだろう。ましてや1080以上の高回転スピンが必要となる舞台だけに、キックはもちろん、アプローチ斜面の幅があるにこしたことはない。

snowbording is my life vol.68 © junglemasa

このような条件のもと行われていただけに、いかなる状況でも決められる完成度の高いトリックが勝敗のカギを握った。ビッグエア種目の表彰台常連ライダーといえば、X GAMESアスペン大会で金メダルを獲得したマックス・パロット(カナダ)、同大会2位のマーク・マクモリス(カナダ)、AIR + STYLE北京大会で5位、同インスブルック大会では4位だったステール・サンドベック(ノルウェー)、同北京大会で3位のスヴェン・ソーグレン(スウェーデン)、同インスブルック大会で優勝したセバスチャン・トータント(カナダ)あたりだろうか。近年のレベルでは、BSトリプルコーク1440が前述したあらゆる状況下で繰り出せる鉄板技になりつつあるほどハイレベルな戦いを強いられているわけだが、マックスとマークは今大会でも確実に決めており、ステールやセバスチャンは本来であれば高い確率で決められるトリックなのにミスが目立った。スヴェンはフラットスピンで勝負していたためここでは除外するが、このような中、角野はこのトリックに背面方向へ180加えるためブラインド着地となる高難度トリック・BSトリプルコーク1620を5本放ち、すべてメイク(スーパーファイナル1本目は着地が若干乱れたが転倒していない)していた。確実にポイントをゲットするためのトリックが一歩抜きん出ていたため、ラウンド1、2ともに最高得点で勝ち上がっていたわけだ。

さらに特筆すべきは、内的要因にあった。それは、“勝ち方”を知っているということ。角野がこれまでの大会で披露している大技として、残るは昨年の同大会において世界で初めて成功させたスイッチBSトリプルコーク1620と、今季のX GAMESアスペン大会ではボードが折れた状態にも関わらず成功させたFSトリプルコーク1440、この2トリックが挙げられる。推論にはなってしまうが、先述したような悪条件だったため、どちらで勝負に出るかを吟味していたのではないだろうか。ラウンド2では1本目にBSトリプルコーク1620でポイントを稼ぐと、残り2本はスイッチBSダブルコーク1260に挑んでいた。ラウンド3でも同様に1本目を決めると、残り2本はFSダブルコーク1080を繰り出していた。どちらも1本は失敗していたのだが、スーパーファイナルで繰り出すべき“勝負トリック”を確かめていたのだろう。

そして、スーパーファイナル2本目で選択したトリックは、FSトリプルコーク1440だった。今大会では初めて仕掛けたのだがパーフェクトストンプし、出場ライダーの全トリックを通じて最高得点となる94ポイントをマーク。スーパーファイナル1本目で放ったBSトリプルコーク1620は着地で手をついてしまっていたため、3本目は同トリックに再トライして完璧に決めたわけだが、今大会で角野が繰り出した5本の中でも最高得点となる93.3ポイントを記録───圧倒的勝利を収めることで、ビッグエア王者たる所以を改めて証明したわけだ。

snowbording is my life vol.68 © photo: AIR + STYLE

AIR + STYLEはヘッド・トゥ・ヘッド(トーナメント)方式により開催されているため、前ラウンドの順位によって明暗が分かれるケースもある。事実、ラウンド2のグループBには強豪ライダーがひしめき、スヴェン VS マックス、セバスチャン VS ステール、カイル・マック(アメリカ) VS マーク、という好カードが集中。スヴェンとカイルはスーパーファイナルで相対したわけだが、事実上のトップランカーといえるマックスとマークはここで敗れた。常に角野としのぎを削っている彼らではあるが、今大会でのマックスはBSトリプルコーク1620を、マークはFSトリプルコーク1440を、それぞれ成功させることができずに敗退している。マークはこの転倒により大腿骨骨折という重傷を負い担架で運ばれ3本目を棄権したのだが、これらの事実を踏まえても、角野がビッグエア種目における真の世界王者であることは十二分に証明できるはずだ。

今シーズン、角野は苦しんでいた。昨シーズンの成績と比較してしまうと、今季はAIR + STYLE北京大会で4位、X GAMESアスペン大会ビッグエアでは3位に入っていたものの、AIR + STYLEインスブルック大会では23位、種目を変えてスロープスタイルでは、DEW TOURで10位、LAAX OPENで11位、X GAMESアスペン大会では12位と精彩を欠いていた。

ショーン・ホワイトがオーナーになったことを受けて昨年より開催されている、AIR + STYLEロサンゼルス大会。前回大会では、角野の師にあたる岡本圭司の事故直後だったことで「RIDE FOR KEIJI」と記されたステッカーを掲げて挑み、頂点に上り詰めた(過去記事はこちら)。師に捧げる世界初の大技を決めて優勝したという美談は瞬く間に世界中に広がったわけだが、今大会の勝利、そして2連覇を成し遂げた自信は、自身への最高の贈り物になったに違いない。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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