平野歩夢と角野友基が“世界一”を勝ち取った技術力

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.69
Yuki Kadono © Mats Grimsaeth/Red Bull Content Pool
By 野上 大介

現地時間2月26日。日本スノーボード界の歴史が動いた。

ノルウェー・オスロで行われたX GAMESにおいて、平野歩夢がスーパーパイプ種目で金メダルを獲得。日本人スノーボーダーとして初となる快挙を成し遂げた。種目を問わず日本人としては、2001年のウルトラクロス種目を制したスキーヤーの滝澤宏臣氏以来、2人目の金メダリスト誕生となった。

さらに翌日。ビッグエア種目に参戦していた角野友基が、前週のAIR + STYLEロサンゼルス大会での金メダルに続き、今大会でも頂点に上り詰めた。これは、真のビッグエア王者と呼べるだけの価値ある連勝と言える。また、今季の平野はLAAX OPENでの優勝やDEW TOURでの2位なども含め、こちらもハーフパイプ界のトップと称して語弊はないだろう。

これらの快挙には日本のテレビ各局も対応を迫られ、お茶の間を大いに賑わせたわけだ。弊誌ウェブサイトにて速報記事を執筆しているのでそちらも併せてご一読いただきたい(スーパーパイプ/ビッグエア)が、ここでは、かのX GAMESというオリンピックを凌ぐハイレベルな世界最高峰のコンテストにおいて、若き日本人ライダーが金メダルを勝ち取った技術力について深掘りしていきたい。

まずはスーパーパイプの平野から。今大会も含め宿敵と言えば、予選を1位通過していたイウーリ・ポドラチコフ(スイス)だ。言わずと知れたソチ五輪ハーフパイプ種目の金メダリストであり、CABダブルコーク1440(YOLOフリップ)やBSダブルコーク1260(ダブルマックツイスト)などの超高難度技を操るトリックマスターである。そんな彼の秘密兵器・CABダブルコーク1440を、平野は決勝の3ランとも1ヒット目に繰り出し、すべて成功させたのだ。

ルーティンを考える際、1ヒット目に繰り出すトリックはメイクできる自信がある技でないと成立しないわけだが、今季の平野はこのトリックを大会で繰り出していなかった。筆者の記憶が確かであれば、昨年1月のX GAMESアスペン大会で披露して以来。そのとき、この高難度トリックを完璧に成功させたにも関わらずポイントが伸びなかった。世界で2人しか確実にメイクできない大技にも関わらず、だ。このジャッジングは後に物議を醸したわけだが、以降、平野のルーティンに組み込まれることはなくなっていた。

しかし、今大会では本気で頂点を狙いにいったのだろう。前日の予選後、休むことなく練習に打ち込んでいたそうだ。そこで調整を図ったうえで、CABダブルコーク1440→クリップラー・ジャパン→BS900→FSダブルコーク1080→スイッチアーリーウープ・ダブルBSロデオを完璧に成功。前夜、凍てつく氷のようなパイプに身体を叩きつけながら練習した成果である。

対するポドラチコフは、FS900→BSダブルコーク1260→FSダブルコーク1080→CABダブルコーク1080→BSアーリーウープ540というルーティンで2位だったのだが、ここでは、同じグーフィーフッターである両者が放った同トリック、FSダブルコーク1080に的を絞って分析していきたい。

まずは下の画像、ポドラチコフのトリックから見ていこう。動画共有サイトに公開されている映像からスクリーンショットしたものになるが、FSダブルコーク1080のワンローテーション後にあたるピーク部分だ。3ヒット目に繰り出したトリックであり、グラブはトラックドライバーになる。

そして、さらに下の画像が平野の同トリック。ボードの角度は異なるものの、ポドラチコフとほぼ同じポジションにいることがわかるだろう。グラブは同じくトラックドライバーであり、彼は4ヒット目に繰り出していた。

SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.69
SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.69

この2枚の画像を見比べてほしい。色補正はしているものの、レタッチしていないことを前置きとさせていただくが、巻き上がっている雪煙の量がまったく違うことに気づくのではないだろうか。これが意味することとは、テイクオフ時のエッジングの強さを表している。当然、雪煙を巻き上げているポドラチコフのほうが、強いエッジングをしながらテイクオフしているということ。対して平野は、ほぼエッジを使わずにソールの面で踏みきっているからこそ、雪煙が巻き上がっていないのだ。

何が言いたいのかといえば、エッジングを極力抑えたほうが雪面に対しての抵抗を減らせるため、スピードをエアの高さに変換させやすいということだ。さらに、平野の実家が運営している日本海スケートパークの巨大ランプにおいて、幼少期からスケートボードのテイクオフを数えきれないほど繰り返してきた。その技術力がスノーボードに活かされているからこそ、リップを踏み切るベストなタイミングでテイクオフすることで高さが生み出される。加えて、そのタイミングで踏み切っているからこそリップ・トゥ・リップの美しい滑りが可能になり、失速することなく次のヒットへ繋ぐことができるわけだ。

その証拠に、先述したがポドラチコフのFSダブルコーク1080は3ヒット目であり、平野は4ヒット目だった。ポドラチコフはその手前でBSダブルコーク1260という高難度トリックを繰り出しているわけだが、それを差し引いたとしても高さの違いは歴然。無駄のないスムースすぎる滑りから放たれる、爆発的なエアや高難度トリック。これが平野の真骨頂である。

続いてビッグエアの角野だが、前回コラム「角野友基の強さの秘密を暴く」で多くを語っているので、ここでは着地に焦点を合わせて綴らせていただく。マーク・マクモリス(カナダ)が戦線離脱した今、最大のライバルはマックス・パロット(カナダ)で間違いない。今大会では一騎打ちとなったわけだが、頂点の座を賭けて争われたトリックはBSトリプルコーク1620だった。前回コラムを読んでいただければわかるのだが、このトリックに関しては角野のほうが一枚上手である。その理由が着地にあった。

下の画像を見てほしい。角野は1260近くまでロンググラブをしているからこそ回転軸が安定し、この体勢で着地を迎えることができている。さらにその下画像に角野の高いテクニックが垣間見えるのだが、1620よりも少し足りない回転数であえて着地しているのだ。見方によっては逆エッジの瞬間にも見えるだろう。この状態から瞬間的にトゥエッジに乗せ替えて1620を回しきることで、縦3回転と横4回転半を同時に回す強力な遠心力を逃がしている。だからこそ、スイッチスタンスのブラインド着地という高難度すぎるトリックにも関わらず、スムースで完璧な着地を実現しているのだ。

SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.69
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空中でのアクションや回転数ばかりに注目が集まるが、彼らの強さはベーススキルの高さにあった。角野に関して補足しておくと、雪を必要としない人工ブラシのアプローチを持つジャンプ施設で若かりし頃から飛び続けているため、テイクオフの正確性も非常に高い。それは、雪とは違いエッジングが効きづらいため、ボードをズラすような誤魔化しができないからだ。

これは、平野がスケートボードで培ってきたテイクオフと共通点があるように感じてならない。それは、スノーボードのソールはフラットなので自らのタイミングで踏み切ることができるため、言い換えれば誤魔化しがきくというわけ。対してスケートボードで踏み切るためには、わずか15cmほどしかないテールを使ってオーリーしなければならないからだ。

17歳の平野と19歳の角野。X GAMESに招待されるトップランカーの中でも若い2人だけに、さらなる進化が期待できる。そして、この黄金時代はしばらく続くことになる。

 

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野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWBOARDING+」編集長。1974年、千葉県生まれ。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。現在に至る。アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、ソチ五輪スノーボード競技におけるテレビでの解説やコメンテーターとしても活動するなど、その幅を広げている。

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