岡本圭司と走った夜

元ライダーの元雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.78
前列右から4番目が岡本圭司 © Hiroyuki Orihara for Wings for Life World Run
By 野上 大介

 

2015年11月。同年2月にバックカントリーでの撮影中の事故により脊髄損傷を引き起こし、下半身の一部が麻痺してしまった岡本圭司と再会した。彼のブログや周囲からの情報で状況は把握していたものの、目の当たりにした岡本は、自らの脚で立ち、杖を使ってはいたものの自力で歩行していたのだ。その姿に正直、驚きと感動を隠しきれなかった。本人にとっては長く苦しい地獄のような9ヶ月間だっただろうが、その間を埋めるようにいろいろな言葉を交わしていると、この奇跡的な回復にも納得できた。プロスノーボーダーとしての再起は難しい状況にも関わらず、自らの生業であるスノーボードと真剣に向き合い、今後のビジョンについて目を輝かせながら語ってくれていたからだ。

今年3月には、岡本自身がナビゲーターを務めていたスノーボードのテレビ番組ですでに放送されたように、彼の雪上復帰が話題を集めた。右足首の自由が奪われた状態にも関わらず、颯爽とターンを刻む姿に、多くのスノーボーダーが心打たれたことだろう。

そして、GW最終日の5月8日。琵琶湖からほど近い滋賀県高島市で、再び岡本に会った。「Wings for Life World Run」というランニングイベントのアンバサダーに彼が就任し、僕も昨年に引き続き参加したからだ。走ることがままならない彼がなぜアンバサダーなのかと言えば、このイベントは脊髄損傷の治療法発見に取り組む研究に対して資金援助を行う「Wings for Life財団」をサポートするために行っており、参加費の全額に相当する金額を同財団に研究助成費として寄付することが目的とされているから。岡本以外にも、フリースタイルスキーの事故で脊髄を損傷して四肢麻痺となってしまったが、現在はエクストリームペインターとして活躍しているTAKAなどが名を連ねる。TAKAは車椅子を押してくれる仲間とともに参加していた。

「走れない人のために走ろう」。同イベントのキャッチコピーであり、主催者側の呼びかけだ。ひさしぶりに再会した岡本は杖を使わずに歩行できていたのだが、足首の自由がきかない右脚はまだ引きずっており、左脚に比べると極端に細い。しかし、「RUN FOR KEIJI(ケイジのために走る)」ではなく、「RUN WITH KEIJI(ケイジと一緒に走る)」という名称でチームを結成し、同イベントで走ることになっていた。自らも含め、いまだ決定的な治療法が見つからない脊髄損傷と向き合っている人々のために───。

僕にもひとつの想いがあった。彼らと並べて綴らせていただくことは大変僭越ながら、2012年1月にライディング中の事故で左膝を粉砕骨折してしまい、いまだ可動域が制限され、筋力が低下した状態が続いている。ケガの苦しみは桁違いだろうが、少しでも彼らの力になりたく、日本では初開催となった昨年の同イベントに参加。車いすや松葉杖で参戦しているランナーから多くの刺激を受け、高島市民が沿道から熱い声援を送ってくれたこともあり、小走りしかできなかった状態ながら、キャッチャーカーに抜かれることなく10.67kmを走ることができた。ちなみにこのイベント、通常のマラソン大会などとは異なり、ランナーが出走した30分後から、キャッチャーカーと呼ばれる車が時速15kmでスタートする。少しずつ加速していくキャッチャーカーに抜かれた時点が各ランナーのゴールなのだ。絶対に無理だと思っていた10kmの壁を超えることができたわけだが、来年はその記録を塗り替えたい。スノーボーディング以外にも、リハビリの糧となる目標を与えてくれたイベントでもあったのだ。

だが、今シーズンは復帰後として最長の滑走日数を数えたこともあってか、左膝に負担がかかっていたのかもしれない。走って蹴りあげるとき、左膝の外側がバリバリという音を立てて痛みを伴うケースが多々あった。病院で入念なマッサージを受けたことはもちろん、なるべく左足で蹴り上げないように気を遣いながら走った結果───昨年の記録を3.45km上回る、14.12kmを走り抜くことができた。昨年同様、周囲のランナーから多くの刺激を受け、沿道からやむことのない「頑張れ~!」という声援を浴びながら、自らの限界値をプッシュしてくれた結果としての産物だ。

 

Wings for Life World Run 2015 結果 (野上大介)

Wings for Life World Run 2016 結果 (野上大介)

 

充実感あふれるまま会場に戻ると、岡本と彼の妻が一緒にいた。走る前は「キャッチャーカーのスピードを考えると現実的には2kmだけど、目標として3km」と語っていたのだが、なんと、妻と一緒に6.23km走り切ったというのだ! 前述したように、会場で岡本と再会したときの足どりからは不可能としか思えない数字を聞かされ、自らの走りから得ていた充実感をはるかに凌ぐ歓喜に見舞われた。その後、ビールを飲み過ぎてしまったことは言うまでもないのかもしれない(笑)。岡本も同イベントについての感想を自身のブログで公開しているので、こちらもご一読いただきたい。

RUN WITH KEIJIチーム以外にも多くの感動があっただろう、Wings for Life World Runは幕を下ろした。来年の開催は2017年5月7日(日)に決定しており、まだエントリーはできないものの事前登録は可能だ。僕は来年も走る。岡本もきっと走る。脊髄損傷の受傷率が高いとされているスノーボードだけに、楽しみながら走って、己と闘いながら限界を超える快感を味わうことで、この活動の一助になっていければと思う。

そして来シーズンは「RIDE FOR KEIJI」ではなく、間違いなく「RIDE WITH KEIJI」だ。岡本のさらなる復活劇も楽しみで仕方ない。

 

野上大介(Daisuke Nogami)

大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、トランスワールドジャパン株式会社が発刊するスノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に12年間従事。編集長として10年間に渡り職務を遂行し退社、現在に至る。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、X GAMESやオリンピックなどのスノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。

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