ギアの進化がもたらす滑りやすさと物足りなさ

元ライダーの元雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.86
  © Cyril Mueller/Red Bull Content Pool
By DAISUKE NOGAMI

早いもので、2016年の半分が過ぎた。あと3ヶ月足らずで北海道からは初冠雪の便りが届き、その数週間後には人工降雪機をフル稼働させてゲレンデがオープンする。前回のコラムで綴ったように、梅雨明けはしていないもののラニーニャ現象の影響で暑い日が多いわけだが、この業界ではギア商戦の時期に突入。続々とニューモデルが並びはじめるので、涼を求めてスノーボードショップを巡るのも悪くないかもしれない。こんな暑い時期からスノーボードのギアかよ!とツッコミを入れたくなるような人は当コラムを読んでいないと信じているので、今回はギアにまつわるお話を。


ケガで滑走が許されないシーズンはあったものの、この仕事柄、毎年ニューギアに触れてきた。1992年に初めて購入したのだが、その時代にツインチップのボードはほぼ存在していなかった。プロショップですすめられたトップブランドのブーツですらカカトが浮いて滑りづらかったので、それを防止するためのストラップを巻きつけてみたり、バインディングをきつく締めてフィット感を得ようとするも、足の甲が痛くて痛くて……。


あれから24年の時を経て、驚くほどの進化を遂げたギアたち。ボードに関しては、キャンバー以外にもロッカー、ダブルロッカー、ダブルキャンバー、フラット、ミニキャンバー……などベンド構造(ボードをサイドウォール側から見たときに屈曲している形状)が複雑化し、すべてのハードギアが劇的に軽量化、そしてフィット感も申し分ない。適正なサイズやフレックスのギアを見極めることができれば、痛みを伴うなんてことはまずないし、滑りやすくて仕方ないはずだ。


けど、なんだろう。乗りやすくなった反面、なにか物足りなさも感じてしまう。


初めてロッカーとキャンバーが融合された、いわゆるハイブリッド系のボードに跨ったとき、パウダーでの浮力に驚いた。これまでなら、ノーズから深雪に喰われてしまい転倒するはずの体勢になっても、転ぶことなく気持ちよくパウダーにラインを刻むことができた。キャンバーボードならある程度のスピードが必要なところ、中途半端な状態で壁に突っ込んでも、スムースに板をズラしながらレイバックすることができた。


語弊はあるかもしれないが、車に例えるなら、マニュアル車からオートマ車に乗り替えたような感覚だろうか。半クラッチが苦手でもアクセルを踏むだけで車は動き、サイドブレーキを引かなくても坂道で上手に発進できる。一般的に車は移動手段であり、運転の面白さよりも“しやすさ”が求められて当然だ。車の運転が好きな人であれば、オートマ限定で免許を取っていないかぎり、マニュアルに乗りたいと思う人、もしくはマニュアル車に乗っている人もいるだろう。


例えが下手で申し訳ないが、それと似た感覚と言えば伝わるだろうか? スノーボードは自らボードをコントロールすることが面白いわけで、意図したように板を扱えたときに喜びを感じる。そういった観点から“物足りない”と感じていたのかもしれない。


こんなことを言ってしまったら、ギアの開発に余念がない各ブランドから怒られそうなものだが、話を最後まで聞いてほしい。昨シーズン、数年ぶりにキャンバーボードに乗り続けて感じたこと。それは、前述したようなオートマチック感がなくなったからか、いつも以上に滑りたいという欲求に掻き立てられた。パウダーでは己の実力が試され、地形の攻略も自らのボードコントロール次第。カービングを刻んでいるときも、自分から積極的にボードを操ることでダイレクトな反応が返ってくる、あの感覚がたまらなかった。


ボード構造が多様化したことで、あらゆるライディングスタイルやスキルにフィットさせられる時代。自分の力を最大限かつ効果的にボードへと伝達してくれる足回りも取り揃えられている。僕がスノーボードを始めた当時と比べたら、初心者や初・中級スノーボーダーにとって、上達をプッシュしてくれる環境が間違いなく用意されているのだ。自分自身の滑走レベルや目標とするスタイルを見極めたうえで、プロショップのスタッフと相談するなどして、その短所を補い長所に変えてくれる万能ギアと出会っていただきたい。


手前味噌になってしまうが、僕のようにある程度滑れるという読者で同じような感覚に陥っている人がいるとしたら、キャンバーボードに原点回帰することをオススメしたい。古い考えかもしれないが、いろいろ回り道をした結果、板一本であらゆるフィールドを滑りたいという欲求が再燃してきた。そして、スノーボードが再び面白くなってきたから。


スマートフォンなどの家電にせよインターネットにせよ、年々……いや、日々進化し続けている。スノーボードもシーズンごとに多様な進化を遂げてきた。そのため、ギアを選ぶ側もあおる側も、そこばかりに目がいきすぎてしまっているのではないだろうか。スノーボードはただの移動手段ではないため、目的以上に“しやすさ”ばかりを求めることで、本来の楽しみ方を見失ってしまうのかもしれない。


話を24年前に戻そう。当時はボードの特性をつかむことやブーツが馴染むまでに、ある程度の時間を要したものだ。あの頃は時間も体力も伸びしろもあったわけだが、今は年齢が年齢だけに、限界を感じたらすぐさま、パウダーボードを購入するかもしれないという言い訳だけは付け加えさせていただく(笑)

 

野上大介(Daisuke Nogami)
大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、トランスワールドジャパン株式会社が発刊するスノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に12年間従事。編集長として10年間に渡り職務を遂行し退社、現在に至る。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、X GAMESやオリンピックなどのスノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。 

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