現実を超える脳内スノーボーディング

元ライダーの元雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.87
  © David Blazek/Red Bull Illume
By DAISUKE NOGAMI

「後ろ足がリップを抜けるあたりで抜重するようにオーリーを仕掛け、それと同時に前肩を背中方向へリードしながら、その前肩越しに回転方向へ目線を送り、そして……」

編集者として駆け出しだった頃、何度もこのようなフレーズをハウツー記事で綴ったものだ。

トリックを仕掛ける際、あらゆる動きが求められるわけだが、いろいろなことを一気にやろうと思えば思うほど、はっきり言って何もできない。それは、身体の動きを脳が言語として覚えてしまうため、連続的な動きになればなるほど限界があるからだ。各専門誌で紹介されているハウツー記事を読めばやり方は理解できるものの、このような理由からひと筋縄ではいかないのだろう。

それはなぜか。人間(の生理機能)は、頭のなかで描かれた動作に必要な筋肉が反応を示すようにできている。脳から発せられた指示により身体は動くので、一連の動作をイメージとして右脳にインプットしておけば,その際に必要な筋肉や神経などが上手く連動するのだ。イメージが鮮明であればあるほど、その反応はよりリアルに表れる。

ただし、ネガティブなイメージを抱いた場合にも、身体は素直に動いてしまう。それほどまで、頭のなかで描かれたイメージとアクションには密接な関係があるのだ。

そこで、来シーズンに向けた準備として、脳内スノーボーディングをおすすめしたい。いわゆるイメージトレーニングだ。

まず、イメージの方法としては、主観的イメージと客観的イメージのふたつに分けられる。主観的イメージとは、迫ってくるキッカーや流れる景色など、自分自身の目線を想像する世界。客観的イメージとは、第三者の目線から自分自身の動きを想像する世界である。前者はウエアラブルカメラをヘルメットやゴーグルなどにセットして撮影した映像、後者は友人などに撮影してもらった映像を想像してもらえればわかりやすいだろう。

それぞれのイメトレでは強化ポイントが異なり、主観的イメージはタイミング学習、客観的イメージはフォーム学習に適している。キッカーでのスピンを例に説明すると、アプローチでは主観的イメージでタイミングを計りながらリップを抜けてスピンの動作を先行させ、ピーク付近に達したら客観的イメージに切り替えて自身のスタイルを想像する、といった具合にイメトレすると効果的だ。

また、冒頭で述べたように、イメージが鮮明であればあるほど身体は正確に動く。では、どうしたら鮮明にイメージできるのか? 自分がお手本にしたいトリックの映像とシークエンス(連続)写真があれば、よりイメージを鮮明化できる。スノーボードの場合は映像や写真など素材は豊富だが、レベルが幅広すぎるので教材選びは慎重に行いたい。それは、いきなり巨大クリフでのスピンをイメージしようとしても、そのロケーションすら想像できない状態では難しいからだ。

前・横・後ろ方向といろいろなアングルからの画像があると、さらに効果的。ライダーの動きを立体的にイメージしやすいからである。想像力がアップしてくると、横方向から撮影したスピンの映像を観るだけで、前や後ろ方向からの動きをイメージできるようになるはずだ。

さらに、シークエンス写真を使った効果的なイメトレを。コマとコマの間の写っていない動きまでイメージしてみよう。ライディングの連続写真を頭のなかで映像化するトレーニングを積むことで、イメージ力はさらに高まるのだ。

ここまではアクションについて触れてきたが、そのトリックを繰り出す本番を想定したイメトレをしておくことで、その効果はグンと上がる。これまで経験したことのないビッグキッカーや急斜面などに直面したとき、多少なりとも動揺してしまうだろう。このようなパニックを未然に防ぎ、スキルアップするためにも、あらゆる状況をイメージしておくことが重要だ。

キッカーのリップが荒れてきたり、パイプのバーチカルがエグれたりなどコンディションの急変や、斜面がいきなり落ち込んでいて、そこに障害物が出現するなどの緊急時にも、事前のイメージがあればその場に応じた対処法を考える余裕が生まれる。ライディング中はとっさの判断が要求される場面が多いので、かなり効果的なイメトレなのだ。

スノーボード誌の編集者として働くようになり、それまでのライダー時代に比べると滑走日数は激減した。しかし、雪のない時期でもシークエンス写真とにらめっこしながらハウツー記事を書く際、自然とここまで述べてきたような想像を働かせ、時にはデスクの前で身体を動かしながら執筆作業に追われていたこともあり、ガムシャラに滑り続けていたコモり時代よりも効率的なライディングができるようになった。滑走日数の減少を補って余る成果は、イメトレの賜物だったのだろう。

イメトレと聞くと、トリックでの動きの話に紐づけたくなるかもしれない。だが、後半で述べたように、本番を想定したイメトレに関しては、むしろフリーライディング時に役立つはず。

脳内スノーボーディングで涼をとりながら、来シーズンに思いを馳せてみるのも悪くない。日本でもっとも早いゲレンデのオープンまで、残り3ヶ月あまりだ。

 

野上大介(Daisuke Nogami)
大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、トランスワールドジャパン株式会社が発刊するスノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に12年間従事。編集長として10年間に渡り職務を遂行し退社、現在に至る。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。また、X GAMESやオリンピックなどのスノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。

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