ギアに跨って滑った先に何を求めるのか?

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.94
Roope Tonteri © Christian Pondella/Red Bull Content Pool
By DAISUKE NOGAMI

24年前、大学1年の晩秋。アルバイトで貯めたお金を握りしめてプロショップの門を叩いた。サーフィンをやっている友達が多かったので、彼らがお世話になっているショップに足を運ぶことに。大量のステッカーが貼られた扉を開けると、狭い店内には所狭しとスノーボードやサーフボードが並んでいる。ワックスとお香が混じったようなサーフショップ独特のニオイ、絶え間なく流れているパンクのサウンド、乱雑に置かれたスノーボードやサーフィン関連の雑誌……すべてが初めて味わう空気感だった。


ボードは好きなブランドを選ばせてくれたが、バインディング・ブーツの足回りは強制的に決められた。18歳だったのであまり大きな買い物をした経験はなかったのだが、トータルで6万円くらいする商品を選べなかった衝撃と新鮮さ。結果的に間違いはなかった。あのとき、自分のことのように熱意をもって接してくれた店員を信用して購入に踏み切ったことを、そのシーズンを過ごす過程において喜ばしく感じた。

こうして大学時代の4年間は、このプロショップでギアを購入し続けることに。しかし、サーフテイストが強いショップだったこともあり、コモるメンツは大学の仲間たちが中心だった。僕は卒業後も滑る道を選んだため、周りがみな就職していったことで滑る仲間を失ってしまった。ギアを購入していたプロショップとも疎遠になり、その後は、カナダや北海道で出会った仲間と行動をともにするようになったのだが、JSBA(日本スノーボード協会)の地区大会に出場するためには協会に加盟しているプロショップに所属することが義務づけられていた。始めの2年ほどはショップの名前だけを借りて出場していたのだが、初めて全日本選手権に進出できたことを契機に、同じ関東地区ではあったが他県のプロショップから声をかけていただいた。ライダーとして招いてくれたのだ。

地元でもなければ住んだこともない地域のプロショップにも関わらず、スタッフや所属ライダー、お客さんまでが温かく迎え入れてくれた。大学時代に通っていたショップでは、ギアの購入や情報収集が主な目的だったため、プロショップの一員として深いつながりを得たのはこのときが初めて。所属しているスノーボーダーやお客さんたちとお店ではもちろん、山でも顔を合わせるようになると、これまで体験したことのない何かを感じるようになった。近郊のゲレンデでパークをプロデュースしていたこともあり、このショップを軸とした、街や雪山という垣根を越えた繋がり───これが、いわゆるローカリズムってやつか。

他県からやってきたライダーだったことや、いろいろなエリアで滑ってきたキャリアに興味を持たれていたようで、アドバイスをさせてもらう機会が多かった。初めてプロショップでギアを購入したときとは反対の立場から、熱意をもって親身に接しようとしていたのかもしれない。それらを吸収し、成長していくスノーボーダーを目の当たりにすることができた。ショップの仲間同士で競い合いながら上達していくスノーボーダーもたくさん見た。ギアを購入し、サービスワックスを塗ってもらい、故障したら修理に出す……これだけがショップの役割ではない。そんなリアルな場所から生まれる何かが、きっとスノーボード人生の糧になるはずだから。

以降、ライダーを引退してからはスノーボード誌の編集者としての歩みを始め、インターネットの台頭により商売が立ちゆかなくなるプロショップを多く見てきた。価格だけで比べてしまったら量販には勝てないだろう。店舗を構えている以上、ネットに勝つことも難しい。

滑るための道具さえ手に入れられれば、それ以上のことは求めないという人であれば、プロショップに出向く必要はない。家電で考えてみると、自宅で普通に使用できれば問題ないし、多少の性能の差なんて気にしないのであれば、メーカー保証もあるわけだから同製品で安いほうがいいに決まっている。でも、スノーボードは家電じゃない。そのギアに跨って滑った先に何か付加価値を求めたいのであれば、それは金額には換算できない。上達すること、かけがえのない仲間たち、自然の奥ゆかしさを学ぶこと、スノーボードを通じて育まれる人間力……求めるものは千差万別だろうが、商品を売るだけではなくサポートするところから、こうした何かが生まれていくのだろう。

地域に密着した電気屋は、アフターケアなどを含めてローカルに根づいている。テレビの配線がおかしければ駆けつけてくれ、もしアンテナに問題があれば屋根に登ってまで調整してくれるかもしれない。ただし、ネットで買った商品に対するサポートはここまで手厚いわけがない。

スノーボーディングに何を求めるか。今一度、自分自身に問いかけてみてほしい。


野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード・ジャーナリスト。1974年生まれ。千葉県松戸市出身。スノーボード歴24年。専修大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社でスノーボード・エディターとしての道を歩み出し、2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に従事。編集長として10年3ヶ月に渡り職務を遂行し、2016年3月に退社。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員を務める。また、X GAMESのほか各種スノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。2016年8月18日、スノーボードメディア「BACKSIDE」をローンチ。フリースタイルスノーボーディングを再構築することで、シーンのさらなる活性化を目指す。

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