トラヴィス・ライスが語る、The Fourth Phase制作秘話(パート2)

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.97
© Scott Serfas/Red Bull Content Pool
By DAISUKE NOGAMI/Translated by KENJI KATO(Scratch Paper Works)

前回の当コラムVol.96「トラヴィス・ライスが語る、The Fourth Phase誕生秘話(パート1)」でお届けしたように、プロスノーボーダーとして必要不可欠な自然の恵みである“雪”について深く考察し、それを生み出す地球の水循環システムに自らが乗ることをコンセプトに掲げたトラヴィス

海水が蒸発して雲となり雪を降らせ、山に降り積もった雪が解けて水となり、川を辿って海へ還る。この原理に基づき、アメリカ西海岸から解け出した水を、北太平洋旋回の流れに乗って追いかけるという壮大なストーリーを描いた『The Fourth Phase』。物語は、トラヴィスのホームマウンテンである米ワイオミング州ジャクソンホールから始まり、その地で解けた水が北太平洋旋回の流れに乗って辿り着くスノーエリアを訪れる。それが我が日本。その中でトラヴィスが選んだ場所は、長野・白馬だった。

「白馬を訪れたのは今回の撮影が初めてだった。それに、この作品における最初のシューティングが白馬だったんだよ」

世界中の幾多のプロスノーボーダーたちは映像作品を制作するうえで、JAPOW(JAPAN POWDERの略称)を求めて北海道を訪れる。しかし、トラヴィスは白馬を選んだ。

「スノーボーディングはコミュニケーションのひとつであり、それに対して興味深いフィーチャーや地形があれば、スノーボーダーたちはより自由に自分たちを表現するんだ。白馬を選んだ理由、それは最高の山があるからにほかならない。ピローラインや気持ちのいいゲレンデ、アラスカスタイルの山まで、とにかく何でも揃っているのが白馬さ。アルパインでの撮影はそう簡単にはいかないだろうと思っていたけど、白馬こそ自分たちのスノーボーディングを表現できる場だと直感していたんだ」

映像を観ればわかる。これほどまでのロケーションが白馬に……いや、日本にあったのかと。数年に渡って白馬で極秘撮影をしていたという噂は耳にしていたが、スティープな斜面に超絶なラインを描きながら、美しく舞い、そして雪崩とともに駆けるライディングには言葉を失ってしまうだろう。トラヴィスはバックカントリーフリースタイルの可能性を追究し続けているわけだが、こうした彼の目線から、日本が有するアルパインの可能性が世界中に大きく発信されることになる。

4シーズンに渡って撮影が続けられた本作では、数え切れないほどのリアルなドラマがあったに違いない。その中のいくつかが本ストーリーに描写されているわけだが、日本を発ったトラヴィスは潮の流れに従って千島列島を経由し、最終目的地であるアラスカを目指す。それまでの過程においても、自然の猛威に行く手を阻まれて長期間に渡る待機を強いられ、それに伴った仲間の離脱、さらにはケガにより手術を余儀なくされるなど、幾多の困難が待ち受けていた。アラスカでもコンディションに恵まれず、ライディングを断念したシーズンもあったほど。

「探求とは現状に満足することではない。探求とはその先を夢見ることだ。そして“その先”に辿り着くために、オレは自分の人生を捧げる」

本作のキャッチコピーに掲げられているトラヴィスの言葉である。夢のその先を目指して人生を捧げた結果として、最終目的地であるアラスカにて、さらなる試練が彼を待ち受けていた。

「地形を選ぶときやバックカントリーに足を踏み入れる際、結果的に重要なことは、どれだけ持続可能な環境を選択することができるかだ。それは撮影の有無に関わらずね。オレたちのビデオを観た多くの人たちは、ただ単にワイルドに山を滑っている……言うなれば、カウボーイとでも思っているのかもしれない。でも実際、撮影の裏ではかなりの労力と時間を安全のために費やしているんだ。どのように山へ入り、バックカントリーではどう行動するかなどを考慮したうえで、ガイドの協力もかなり重要になってくる。オレたちは山が好きだからこそ足を踏み入れるし、これを愛してやまない。だから、33歳を迎えた今でもスノーボードフィルムを作り、自分の持つすべての時間と労力を注ぎ込んでいるのさ。どんなに辛くても、これが生きる道だから」

人類史上最強と称されるスノーボーダーでさえも、大自然に逆らうことはできない。卓越したスキル、入念すぎる準備、積み重ねてきた経験、正確無比な判断力……。これらを持ってしても、また、大自然に逆らうつもりがなくとも、トラヴィスが追い続けてきた自然の恵みは群れをなして、容赦なく襲いかかってくるのだ。

「あの日は何度か判断を誤っていた。表層の積雪量を完全に甘く見ていたし、雪崩を引き起こしてもおかしくないラインを選んでしまった。しかも、表層は不安定だったしね。それに加えて、降雪があってから24時間以内に山へ入ってしまった。これは本当に危険なこと。バックカントリーとリスクは切っても切り離せない。でも、自分がスマートであれば、そして正しく向き合っていれば、人生最高のラインを描くことだってできる。責任感を持って山に入ることが大切なんだ」

生きていることが不思議にさえ感じる衝撃映像だった。こうして奈落の底まで突き落とされてもなお、山と真摯に向き合おうとするトラヴィス。それは、夢の“その先”へは、まだ辿り着いていないということだろうか。

本作『The Fourth Phase』は、アクションスポーツ映画という言葉だけで括ることはできない。それは、母なる地球がもたらす自然エネルギーにより生み出される“雪”を題材に、夢を追い求める過程において失いかけた“命”の尊さまでを表現しているから。

「若い頃は学ぶことが人生の大半を占めていたよ。この世の中では何が重要で、どう実践していけばいいのか、と。その方法を見つけ出すことに一生懸命だった。それらの対価として事実と新たなる情報を得て、また学ぶ。そこで学んできたことは真実であり、曲がってしまうことは決してないんだ。そして大人になると、自分は多くのことを知った気になってしまう。でもそれは、幸せや楽しみ、平和への近道でも何でもないんだ。つまり、ある年齢になると自身の成長を体感してしまい、何も学ばない時期がやってくる。けれど、エゴはより深い真実を知りたがり、この世の中のすべての仕組みを追求する術を手に入れたがるのさ。しかし、謙虚な心を持つことで、自分には再び判断力が蘇り、チームとしてひとつの物事を成功させるための重要なカギを見つけ出すことができる。さらに、自分の気持ちの中にも感謝やアイデアをシェアする余裕が生まれて、自分たちの住む世界における様々な美しい側面に対してオープンになれるんだ」

10月3日よりDVD&ブルーレイの販売がスタートし、iTunesよりダウンロード配信されている。日本語字幕も用意されているので、その真実の目撃者となれ。

 

野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード・ジャーナリスト。1974年生まれ。千葉県松戸市出身。スノーボード歴24年。専修大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社でスノーボード・エディターとしての道を歩み出し、2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に従事。編集長として10年3ヶ月に渡り職務を遂行し、2016年3月に退社。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員を務める。また、X GAMESのほか各種スノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。2016年8月18日、スノーボードメディア「BACKSIDE」をローンチ。フリースタイルスノーボーディングを再構築することで、シーンのさらなる活性化を目指す。

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