トラビス・ライスと滑った日

元ライダーの雑誌編集長が綴る SNOWBOARDING IS MY LIFE. Vol.105
Travis Rice © kuwaphoto.com
By DAISUKE NOGAMI

あのトラビス・ライスと一緒に滑ることができるなんて、夢にも思わなかった。しかも、日本のゲレンデで。取材で顔を合わせることは何度かあったものの、この仕事をしていても、彼がムービースターであることに変わりはない。映像の世界でしか観ることが許されない存在であるトラビスの滑りを生で拝め、同じ空間で滑ることができるなんて、わかっていてもリアリティを帯びないものだ。

さる1月13日、長野・白馬八方尾根で開催された「Ride with Travis Rice in HAKUBAVALLEY」に取材のため、参加することができた。イベント開催前までは、昨シーズンほどではなかったのかもしれないが、むしろ雪は少なかったという白馬エリア。すでに現地入りしていたDIGGIN’ MAGAZINE編集長であるDie-Go氏からの情報だったのだが、彼自身も妙高エリアまで足を伸ばすほどの状況だったようだ。

しかし、今シーズン最強かつ最長と言われた強烈な寒波の影響により、前日の12日から大粒の雪が降り続けていたようで、同日夜に現地入りしたときには事前の情報が信じられないほど白銀の世界と化していた。冒頭で述べたようにリアリティがないながらにも、貸し切りコースが用意されていることはわかっていたので、降り続ける雪を眺めながら、約束されたパウダーライディングに心を踊らせていた。

当日も大雪は降り続いており、車を覆うほどに積もった雪を除雪して白馬八方尾根に向かうと、そこには、メールでの事前申し込みで先着50名の座を勝ち取ったスノーボーダーたちが集まってきた。関係者に話を聞いたところ、告知後すぐに定員に達したとのこと。それはそうだ。今回のイベント参加費は、なんとたったの1,000円。それで一生に一度もなかったはずの貴重な経験ができるのだから、一瞬の迷いが明暗を分けたということだろう。

そして、イベントの開催時間が刻々と近づいていた。間違いないコンディションであることは誰もがわかっていただろうが、貸し切りでパウダーを溜めていたうさぎ新コースに架かっているリフトが遅れているとの情報が。大スターにも関わらず集合時間にやって来たトラビスは、少しの時間も無駄にしたくないとばかりに、QUIKSILVERの日本人ライダーたちを引き連れて別のコースを滑ろうという話になっていた。これはチャンスとばかりに、筆者も同行させてもらうことに。

たいして上手くもないアラフォー世代のくせに、ツインチップのキャンバーにセットバック0cmで跨っている筆者は圧倒的に引き離されるも、貴重な経験をさせてもらうことができた。トラビスらはリフトが動くまで数本楽しんでいたようで、その間に貸し切りコースに架かっているリフト運行の準備が整った。いざ、Ride with Travis Riceがスタート!

参加者は2班に分かれ、腰上くらいまで降り積もった貸し切りコースで雄叫びをあげながら楽しんでいた。あちこちで深すぎるパウダーに埋もれている参加者を見かけたが、間違いなく今季初……いや、スノーボード人生でもなかなかないだろうディープパウダーをトラビスと同じ空間で味わえるという、人生で最高クラスの思い出を残したはずだ。猛吹雪のなか、グループごとに記念撮影が行われるなど、参加費では安すぎるほど至れり尽くせりの贅沢な時間。フェイスマスクやバラクラバ越しでも彼らの笑顔が伝わってくるほど、アットホームな雰囲気に包まれていた。

ライディング後には特設会場にてサイン会も行われた。滑走イベントに参加できなかった人も先着順でサインをもらえるということで、会場内には長蛇の列が。予定されていた30分間を超えるほど集まった人々に対して、懇切丁寧に応じるトラビスの姿がとても印象に残った。これまでの取材対応からも感じていたことだが、常軌を逸するライディングスタイルとは対照的な彼の人徳に改めて感心させられたのだった。

超ハードなスケジュールにも関わらず、その後も、糸魚川大規模火災の被災者支援の一環として行われるチャリティーイベントへの協力や、弊誌「BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE」へのインタビュー取材などにも快く対応してくれたトラビス。世界最強のスノーボーダーと一緒に極上パウダーを滑ることができるという贅沢さだけでなく、彼の人間力を改めて垣間見られる有意義な時間を過ごすことができた。

さらに、下山途中にもQUIKSILVERジャパンチームの若手ライダーを追い撮りするなど、最後までサービス精神旺盛だったトラビス。スーパースターと呼ばれるに至る人間は、やはり人格者であるということだ。

──もしかすると、今回の最強寒波はトラビスが運んできたのかも?

 

野上大介(Daisuke Nogami)
スノーボード・ジャーナリスト。1974年生まれ。千葉県松戸市出身。スノーボード歴24年。専修大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社でスノーボード・エディターとしての道を歩み出し、2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN」に従事。編集長として10年3ヶ月に渡り職務を遂行し、2016年3月に退社。2013年に開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員を務める。また、X GAMESのほか各種スノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとして活動するなど、その幅を広げている。2016年8月18日、スノーボードメディア「BACKSIDE」をローンチ。フリースタイルスノーボーディングを再構築することで、シーンのさらなる活性化を目指す。

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