“タダ飯を山で食う”とはいったい何なのか?「タダ飯を山で食う」展

先週の日曜日、神保町にある「試聴室」で開催中の「タダ飯を山で食う」という展覧会に行ってきました。
「タダ飯を山で食う」展
「タダ飯を山で食う」展
By 宮越 裕生

赴いたきっかけはアーティストの多田ひと美さんから、小さなフライヤー(上写真)をいただいたことでした。
「タダ飯を山で食う」という展覧会名は、参加アーティストの多田ひと美さん、飯沢未央さん、山本悠さんの頭文字をとってできた名前だそう。
このプロジェクトはその名前が先に決まり、実際に「タダ飯を山で食うとは何なのか考えてみる」ために高尾山に行きタダ飯を食べる、というところからスタートしたのだそうです。(フライヤーの写真はその時に撮影されたもの/撮影 高尾俊介)

イラスト 飯沢未央
イラスト 飯沢未央

ちなみに、その高尾山登山時のタダ飯(おにぎり)提供者はアーティストの石黒ユウ子さん。石黒さんは以前から米などの食べ物を作品に用いており、中でも特におにぎりに執着が強いということもあり「これは石黒さんしかいない!」ということで依頼したそうです。 

展示は公開制作というかたちをとっており、今年の6月から「試聴室」で公開撮影や上映会などを行ったり、tumblrサイト に制作過程を公開したりしてきました。
現在同スペースで行われているのは、完成作品の展覧会。約2ヶ月かけて完成した作品のお披露目展示です。

神保町 試聴室
神保町 試聴室

地図をたよりに神保町のオフィス街を歩いていくと、ごく普通のオフィスビルの1階に「試聴室」がありました。普段はライブ会場やカフェとして使われているスペースとのことです。

 

飯沢未央さんの心臓のインスタレーション

会場に入って、まず目を奪われたのは巨大な心臓でした(!)

飯沢未央さんの心臓のインスタレーション
飯沢未央さんの心臓のインスタレーション

心臓から伸びた管についたセンサーに指をあてると心拍をセンシングし、プシュー、プシュー、と動くようになっています。
こちらの心臓が飯沢未央さんの作品。飯沢さんはこれまで電子デバイスに特殊造形やテキスタイルなどの素材を合わせ、生体を感じさせるインスタレーション作品を制作してきました。代表作には、へその緒型のiPhone充電ケーブルや心拍に合わせて走る心臓、生物のセルの蠢きを表現したインスタレーションなどがあります。
心臓の表面のパターンはNYで修行中のアーティスト、山上晃葉さんがドローイングしたものを長野県のプリント制作会社「美廣社」にてプリント。中にはバルーンやウレタン、綿などを使用しています。

飯沢未央さんの心臓のインスタレーション
飯沢未央さんの心臓のインスタレーション

こちらの心臓、独特なボリューム感と手触りが気持ち良く、だんだん愛おしさがわいてくるから不思議です。
今回の展示では床置きになっていていましたが、上から吊ることも可能だそうです。
ホワイトボックスの空間で見たら、また全然違った印象に見えそうです。

 

多田ひと美さんの映像インスタレーション

壁一面を使って映像インスタレーションを展示していたのは、多田ひと美さん。
この作品は童謡「森のくまさん」の歌詞を37の分節に分け、「くまさんに」「スタコラ」「お嬢さん」などのテーマで5秒程度の映像を37名の方から提供してもらい、集まった映像から一本の映像を制作。さらに多田さんがそれを「楽譜」のように解釈して映像を制作し、その二本を並べて映し出した作品です。

右が提供された映像、左がその映像をもとに多田さんが制作した映像です。多田さんは2006年頃から物事の関係性やズレに着目した「全的に歪な行且」というシリーズを制作しており、さまざまな状況を提示することによって、そこに立ち現れる「関係ないけど、関係ある」という感じについて考察を重ねています。
筆者もテーマをもらい映像を提供したのですが、ゆるりとコラボレーションというよりは、多田さん独自のルールが設定された作品の一部になった感じが体験でき、とても面白かったです。

多田さんが不定期で発行するフリーペーパー「TADA-Hi」(タダハイ)についてもちょっとご紹介。

左から飯沢未央さん、多田ひと美さん、山本悠さん
左から飯沢未央さん、多田ひと美さん、山本悠さん |フリーペーパー「TADA-Hi」

もともと筆者が多田さんを知ったのはこのフリーペーパーがきっかけでした。
多田さんの作品の紹介や知人のアーティストによる漫画などが載ったシンプルなフリ—ペーパーなのですが、絶妙なセンスと変な感じが妙に気になったことを覚えています。上の写真は最新号「タダ飯山特集号」。表紙には「アオリ文」の名手として知られる高尾俊介さんのアオリ文が載っています。「半透明少女tadahi」という表現が、多田さんの存在感を見事に言い表していると思いました。「TADA-Hi」最新号は展示会場にて配布されています。

 

山本悠さんのドラマ「悠になりたかった犬」

最後にご紹介するのは、山本さんによる全4話のドラマ作品「悠になりたかった犬」。

イラスト 飯沢未央 | 山本悠さんのドラマ「悠になりたかった犬」
イラスト 飯沢未央

こちらの作品は、通常展示で見ることはできません。「ドラマは上映会か、家で一人で見て欲しい」というこだわりによって、会場にはドラマに登場した飯沢さんによる絵画や多田さんによる彫刻などが展示されています。
ドラマは、各ストーリーを青柳菜摘さん、沼田友さん、地主麻衣子さん、石田祐規さんが監督。全話の動物監督を藤伸行さん、登場人物のキャラクターデザインを梅津庸一さん、オル太、仲山ひふみさんが手掛けています。キャストは、“神保町のアトリエにいるアーティスト”を山本さん(主人公)、飯沢さん、多田さんが演じ、現実の映し鏡のような世界を描いています。

第1話・2話は、公式ホームページですでに公開されており、未公開の第3話・4話は、9月7日(土)に開催される「悠になりたかった犬」全4話上映会で公開予定となっています。当日は監督4名を迎えたスペシャルトークも行われるとのことです。

山本さんのプロジェクトは、公開撮影までしておきながら展示会場で本編が見れなかったり、自身で主人公を演じておきながらほとんどセリフがなかったりと掴みどころがない感じがするのですが、会場やウェブ、上映会などといったさまざまなレイヤーから多角的に展開しているところが興味深いです。

「タダめし山まんが劇場」
「タダめし山まんが劇場」

tumblrに掲載されている山本さんの「タダめし山まんが劇場」も面白いです。

トークイベントの様子
トークイベントの様子

上の写真は先週の日曜日に行われたトークイベントの様子です。ゲストに、先ほどご紹介したアオリ文の制作者でフォトグラファー、takawo杯主催の高尾俊介さん(右から2人目)、アーティストの谷口暁彦さん(右)を迎え、講評会が行われました。講評会では、谷口さんから以下のようなコメントがよせられました。

「展覧会のタイトルの『タダ飯を山で食う』は、参加アーティストそれぞれの名前、『多田』『飯沢』『山本』を言葉あそびのように組み合わせて出来ているが、それはコンセプトやステートメントが先行して存在し、それに基づいて能動的に選ばれた展覧会タイトルではなく、単に『多田』『飯沢』『山本』の3人が参加し、そこから偶然にこの言葉が生み出されている。(そして公開制作が始まる際には、実際に3人で山に登り、知人に届けてもらったおにぎり(タダ飯)を食べるというイベントも行っている。)そもそも私たちは自分の名前を自分で名付けていないし、自分が生まれてきた事を自らの意思で選択出来ていない。だから『何故この3人が集まって展示をしているのか?』という問いに、都合のいいコンセプチュアルな答えなんて本当はない。けれども自分の名前や、自分の存在自体の根拠のなさや、それが既に与えられてしまっているどうしようもなさを、なんとか理解しようとしたりして、折り合いをつけなければならない。
何かそれは、手相占いのような、無根拠な出来事をなんとか意味付けようとする、合理的な思考とは異なる論理でもある。この、『タダ飯を山で食う』展は、タイトルだけでなく、それぞれの作品でも、(自分の意思と無関係に動き続ける心臓、知人から送られてくるノーテーションとしての映像、監督ではなく主演することでドラマのメタレベルに位置しない作者自身など)そういった自分ではどうしようもない所与の条件と、“なんとか折り合いをつける”試みが誠実に行われていたようにおもう。」

三人のアーティストが偶然にも居合わせたような展覧会、「タダ飯を山で食う」展。この展覧会は、アートを壇上に鎮座させず、アーティストが生きること ーー谷口さんの言葉を借りれば「生まれてきた事」や「自分ではどうしようもない所与の条件」とシームレスに向き合いつつ制作すること ーーを見せた展示だと思いました。
上映会は9月7日 土曜日、展覧会は9月8日の日曜日まで。気になった方はぜひ現場でご覧になってみてください。

 

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上映会:「悠になりたかった犬」全4話上映会
会場:神保町 試聴室(東京都千代田区西神田3-8-5)
日時:9月7日(土)http://shicho.org/2013/09/1event130907-2/
時間:19:00 〜 21:00
入場料:予約 1500円+1D(スペシャルDVD付)
当日 1500円+1D(スペシャルDVDなし)

展覧会:「タダ飯を山で食う」
会場:神保町 試聴室(東京都千代田区西神田3-8-5)
展示期間:2013年 8月31日(土)〜 9月8日(日)
時間:12:00 〜17:00(7日は22:00まで)
入場料:ワンドリンクオーダー制
出展作家:多田ひと美、飯沢未央、山本悠

 

飯沢未央
主に電子デバイスに特殊造形やテキスタイルなどの素材を合わせ生体を感じさせる作品を制作。今回のプロジェクトでは「悠になった犬」の映像内や「TADA-Hi」(タダハイ)紙面に、久々に絵画・イラスト作品を提供している。
http://iimio.com/

多田ひと美
映像、音、インターネットなど様々なメディアを用い、ソフト、ハードを独自に組み合わせ、インスタレーション、ライブパフォーマンス等の活動を行う。また、地主麻衣子、菊川恵里佳と共に行う朗読バンド “どっぢ” でもライブ活動などを行っている。最近、不定期で “TADA-Hi(タダハイ)” というフリーペーパーも発行中。
http://tadahi.com

山本悠
http://yuuyamamoto.jp/

 

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宮越 裕生(Yu Miyakoshi)

ライター。執筆範囲はメディアアート、ファインアート、写真、旅、猫。大学時代に絵画を勉強し、近ごろ境界領域の表現可能性、メディアアートと写真に出会いまた新たにアートに目覚める。CBCNET、HITSPAPER、greenzなどのHPを中心に執筆しています。今ここを伝える文体を研究中。

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