世界最高難度の脱出ゲームをデザインする

世界最強の脱出ゲームプレイヤーたちに挑む空間はどうやってデザインされたのだろうか?
By Harry Davies

世界最強のプレイヤーたちが挑む脱出ゲームをデザインするのは簡単ではない。

先日ハンガリー・ブダペストで開催された脱出ゲーム世界最強チームを決めるイベント、Escape Room World Championshipsのための “空間” を用意するため、Red Bull Mind Gamersは、スコット・ニコルソン博士が率いる脱出ゲームデザインのエキスパートグループ、Fox in the Boxを招き入れた。

今回は、Fox in the BoxのCEOボブ・メルクスが、Escape Room World Championshipsに臨む世界最強のプレイヤーたちに対抗できる脱出ゲームをどうやって生み出したのかについて、量子力学と世界最高クラスの頭脳をベースにした彼らのユニークなアプローチと共に話してくれた。

メルクスは世界最高の脱出ゲームのデザインはストーリーの設定から始まるとしている。優秀なストーリーがプレイヤーたちをゲームに引き込むのだ。プレイヤーを数時間に渡って現実から引き離すことができれば、彼らのエクスペリエンスはよりリアルに、より強烈に、そしてより楽しいものになる。

よって、実際のデザイン作業に取り掛かる前の段階で、バックストーリーと目標が設定され、更には各プレイヤーに与える役割(ロール)も決められる。また、チームが攻略に成功した時と失敗した時の結末もそれぞれ用意される。このような大枠の設定が、プレイヤーが完全に没入できる空間を生み出す礎になる。

実際のパズルより先にストーリーを用意するもうひとつの理由は、全体の矛盾を避けるためだ。

 

海賊船が舞台に設定されているのに最新のタッチスクリーンが置かれていたら、全体のイメージが壊れてしまいます。

ボブ・メルクス


デザインチームは雰囲気を壊さないように、プレイヤーのアドレナリンが常に放出されるように、全体のつじつまを合わせていく。

これらが決まれば、デザインチームは具体的なパズルのアイディアに取り掛かり、手書きのコンセプトアートを用意してメルクスの元に届ける。自身も熱心な脱出ゲームプレイヤーであるメルクスは経験豊かな鋭い目でコンセプトアートをチェックし、それらがプレイヤーを興奮させるものなのか、それとも退屈させるものなのか、そして難易度が十分かどうかを判断していく。

そして、メルクスがコンセプトアートにゴーサインを出したあとは、大工や電気技師が招き入れられ、コンセプトアートを現実に変えるための具体的な部分が詰められていく。

話し合いを経て現実に変える手はずが整ったあとは、コンセプトアートが3Dイメージにレンダリングされ、コンピューター上で組み上げられたあと、専用のハードウェアとソフトウェアを使った現場での設営作業がスタートする。

設営作業には小物や家具なども持ち込まれ、空間のリアリティが更に高められていく。小物や家具の中には、パズルを解く重要なヒントになる物も含まれている。

小物や家具が配置されたあとは、テストへ移行する。ベータテストはFox in the Boxのデザインプロセスの中で最もハードな作業になる。

メルクスが説明する。「空間のテストは非常に重要です。プレイヤーが用いることが予想される様々なアプローチやロジックを全て試す必要があるからです。私たちが論理的だと考えているパズルが一般のプレイヤーにとってはそうではない場合があります。また、コンセプトの段階で難しいと思っていたパズルが、テストをしてみると意外に簡単なことが判明する場合もあります」

しかし、難易度と楽しさの絶妙なバランスは、Fox in the Boxが長年の経験で培ってきた部分だ。

デザインチームが定めていた目標のひとつは、全プレイヤーの限界をプッシュし、各チームのメンバー4人全員の才能を引き出すハイクオリティな空間を用意することだった。

しかし、同時にプレイヤーが共通性と解決策を必ず発見できる空間にする必要がある。よって、スコット・ニコルソン博士がディレクションを担当し、プレイヤーがある程度の努力をすれば必ず共通性と解決策が発見できるように、何度もテストを繰り返して全体を調整していくことになる。

そのあとで、人間的な要素が最後に加えられる。プレイヤーの没入感を高めてくれるゲームマスターの存在と、各プレイヤーに与えられるロールプレイングの要素は脱出ゲームでは非常に重要な役割を担う。

メルクスが説明する。「没入感は脱出ゲームで見落とされがちな部分です。私たちの場合は、以前デザインした脱出ゲーム『プリズン・ブレイク』では、恐ろしい看守に引きずられて牢屋に放り込まれてからゲームがスタートするようにしましたし、他の脱出ゲームでも、ただ係員が説明するのではなく、ストーリーを活き活きとエキサイティングに説明するイントロビデオを用意しました」

ストーリー、パズル、ディレクション、ロールプレイングがしっかりと準備されれば、プレイヤーを現実から引き離してパズルに没頭させる空間の完成だ。

しかし、今回は、Red Bull TVのライブストリーミングがFox in the Boxにもうひとつのチャレンジを追加することになった。

「世界中にライブストリーミング中継されることを考慮しながらニコルソン博士のビジョンを現実に変えることが、私たちにとっては一番難しいチャレンジでした。放送のフォーマットに合うようにプレイヤーエクスペリエンスを数回修正しました。今回の脱出ゲームの空間とパズルのデザインは完全に新しいアプローチで挑む必要がありましたね」

このように語るメルクスは最後にひとつ後悔していることがあると付け加える。

「プレイヤーとして参加できなかったのが本当に残念ですよ!」

Escape Room World Championship:Red Bull Mind Gamers World Finalはこちらにてオンデマンド配信中。

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