— Red Bull 64Bars、挑戦してみてどうでしたか?
AK-69「おもしろかったです。64Barsはいままでも見てたんですけど、実際に撮影現場に来てみるとマジで一発撮りだったんで、いい緊張感がありました」
— 今回は64小節ではなく、“69”小節のパフォーマンスになりましたね。
AK-69「リリックには最近自分が強く思ってること、もう一人の自分、オルターエゴと向き合って考えてることが反映されてます。
俺がヒップホップを始めた原動力って、物質的な欲求を満たしていくこと、物や金を手に入れることに憧れてたんですよ。やっぱりラッパーなんでフレックスもすることも大事だと思うし。そうやって当たり前のようにずっと動き続けて、稼ぎ続けてきたことに対して「これなんかちげーぞ」みたいなことを、自分と向き合いながら考えていて。
ニューヨークに行く飛行機に乗りながら、自分の身の回りにある物事のうち、何が本当に好きなのかって考えてたんですけど、やっぱり俺、物とか金ももちろんある程度は大事だけど、結局はこの音楽と、あとは車。それを愛していて、それ以外に物質的な欲を満たすことって、前みたいに大事じゃなくなってきたんですよね。
本当に大事なことっていうのがもっとシンプルになって、大事にすべきことのウェイトが自分のなかで変わってきてる。ジュエリーとか時計とか、ブランド物の服とか、ラッパーらしいアイテムを持って誇示してきたけど、もっとシンプルに自分の好きなものを突き詰める時間とか、家族との時間とか、あるいは社会問題に対してどう向き合うかとか、これから人生のなかでどこにウェイトを置いていくかっていうことを考えた上で、ちょっと前の自分に対して歌ってるのがこの69小節ですね」
— その中でいちばん気に入っているラインを挙げるとすると?
AK-69「そうですねえ、難しいけど、最後の部分。
すべてを受け入れここに居る 何周もしてきてここに居る / 愛を返すのが労働基準 未だに俺なら昇り龍 / 今までの基準とか価値が崩れ去る / もうモノとか金じゃねぇ時代が始まる
っていうラインかな」
— AKさんが音楽をつくる上で大切にしていることは何ですか?
AK-69「自分の中の心の叫びを具現化することですね。もちろん全部が全部シリアスな歌を歌ってるわけじゃないんで、ヒップホップを楽しむパーティーソングもあるけど、やっぱり俺のマスターピースになってる曲とか社会にメッセージを発したいっていう曲の場合は、自分の心の叫びみたいなものをどれだけ捕まえるかっていう、それに尽きるんですよね」
— ではAKさんが、生きていく上で大切にしていることは何ですか?
AK-69「“かっこつける”ってことかな。かっこつけるっていうのは、口先で『俺こういうことやってるんだよね』とか『俺は誰々と知り合いで』とか言うことじゃなくて。自分が志してることにどれくらい真剣に向き合ってるかっていう意味で。自分がなりたい自分になるためにどれだけ労力をかけてるか——結局それでしかない。だから俺も日々成長しようとしてますね。成長しないとかっこよくないと思うんで。
たとえば将来俺がこの世からいなくなって、俺のこどもが俺の人生を振り返って『親父は本当にかっこいい男だった』って言い切れるかどうか、そういう基準。ひとりの男としてそういう生き方にはこだわりたいと思ってますね」
— いまの日本のヒップホップシーンに対して思うことは?
AK-69「ヒップホップがブームになってシーンが大きくなってるのは、すごくいいことだと思います。今年だって武道館でやるアーティストが何人も出てきて、10年くらい前は俺しかいなかったけど、いろんなアーティストが武道館クラスでライブできるようになってるのはとても喜ばしいこと。そうなる日がいつ来るんだろうと思ってた景色に、いままさになっていると思います。
だけど、いまこそ大切にしなければいけないこともあると思ってます。ミュージシャンとして、スキルとかセンスって絶対大事なんですけど、音楽をつくる上で、その人の内面から出るものがもっと大事なんです。調子に乗って利己的な行動に出ちゃったりとか、自分の成功を自分だけのおかげだと考えちゃうと良くない。だから、自分が調子いい時にこそ周りに感謝して、周囲の人やシーンに対して自分が何を返せるかと考えることが、めちゃくちゃ大事だと思うんですよね。
別に丸くなれって言ってるわけじゃないんです。でもやっぱりHumble(謙虚)であることだったりNiceでいることで、周りが自分を助けてくれるようになる。いまのシーンを持続可能なものにするためにも、それを絶対に忘れてはいけないと思います」
— それはAKさん自身もどこかのタイミングでそう気付かされたわけですよね。
AK-69「俺も調子に乗って“俺様”みたいになってた時期ももちろんあったけど、近しい人に言われてハッとしたり、これじゃだめだって肌で感じたりしてきました。やっぱりひとりじゃ何もできないんですよ。自分たちのクルーだけでも何もできない。やっぱりこのシーン全体があって、『俺とは仲良くねえ』と思ってた人たちがいて、『別に世話になってもねえ』と思ってた先輩たちがいて、『関係ねえ』と思ってた後輩たちがいて、それではじめて成り立ってるんで。これだけ長いことやってきたら、そういうことが分かってきましたね」
— では最後に、AKさんが思う「ラッパーの理想像」とは?
AK-69「リアルでいることかな。それでみんなが言えないこと、特にみんなが言えない“正しいこと”を、アートに昇華できるっていうのが、俺はラッパーのかっこよさだと思いますね」
Red Bull 64 Bars - INTERVIEW