88rising
© Red Bull Music
ミュージック

88risingとは何か?——アジアから“新しい場所”を作り出す

アジアにルーツを持つアーティストたちをアメリカのヒップホップシーンで前例のない成功に導いたレーベル《88rising》。彼らが歩んできた道のりをあらためて振り返る。
Written by Tetsuro Wada
読み終わるまで:6分公開日:
2019年には、RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYOとのコラボレーションによって来日を果たした88rising。アメリカを拠点にしつつも、レーベルには、インドネシアのRich Brian、中国のHigher Brothers、また日本で生まれ育ったJojiなどアジアをルーツに持つアーティストが所属し、彼らはアジア系のアーティストが活躍するのが難しいと言われていたアメリカのヒップホップ/R&Bシーンで、これまでにない存在感を発揮している。
4月のイベントでは、88risingからAUGUST 08が来日、さらに日本からAwichやJin Doggといったローカルのアーティストたちも出演。
そしてそれにあわせて、88risingをはじめとするアジア系アーティストたちの躍進を追ったドキュメンタリー『Asia Rising - The Next Generation of Hip Hop』も制作されている。
日本でもじわじわとその存在感を高めている88risingだが、来日を前に88risingの歴史や、彼らがどのようにアメリカのヒップホップシーンにインパクトを与えていったかを本稿ではおさらいしてみよう。
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当初はYouTubeチャンネルとしてスタート

88risingのスタートは2015年だ。設立者で日系アメリカ人のSean Miyashiroは元々は、VICEが運営していたダンスミュージック専門サイトThumpの設立に携わっていた人物だ。
Sean Miyashiro

Sean Miyashiro

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Miyashiroはその後同じくアジア系のルーツを持つラッパーのDumbfoundeadやOkasian(どちらも韓国系)をマネージメントする会社としてCXSHXNLYを設立。そのYouTubeチャンネルとしてスタートしたのが88risingの始まりだ。
ただ当初の88risingは今のようなレーベルという形をとってはおらず、当初YouTubeにアップされていた動画は、Okasianなどのミュージックビデオに紛れて日本のバーテンダーを紹介する動画などもありかなり雑多だった。
しかしRich Brian(当時はRich Chigga)の楽曲”Dat $tick”が登場してから明確に88risingの方向性は変わっていく。現在88risingを代表するアーティストであるRich Brianだが、バイラルヒットとなった”Dat $tick”は当初は自主リリースされた楽曲だった。
そのユニークな楽曲に目をつけた88rising。”Dat $tick”のミュージックビデオにGhostface KillahやDesiignerなどアメリカのラッパーが鑑賞してリアクションするビデオを制作。アメリカのラッパーたちがインドネシアの少年ラッパーのスキルに驚き、笑い、そして喜ぶ姿はアメリカでの同曲のさらなるバズにつながった。
これをきっかけにGhostface Killahも参加した”Dat $tick”のリミックスまで88risingはリリースし、その後Rich Brianは正式に88risingに所属するアーティストとなった。
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レーベルとして本格始動

1つヒットの方程式を打ち立てた88risingはその後中国・成都のヒップホップグループHigher Brothersや大阪出身で元々はYouTuber Filthy Frankとして人気を博していたシンガーソングライターJojiなどと契約し、次々と成功を収めることになる。
88risingの躍進のきっかけとなったアーティストたちに共通しているのは音楽的な洗練と同時にユーモア溢れるキャラクターを持っていることだ。
もともとInstagramでコメディー動画をアップしていたRich BrianやJojiは言うまでもなく、Higher Brothersもある種アメリカ人がアジア系と言った時に想像しやすいようなルックスを持ちつつ、それとモダンなラップサウンドのギャップがあったからこそアメリカのシーンに入り込むことができたのだろう。
かつて筆者とのインタビューでSean Miyashiroはアジア系のアーティストがアメリカで成功することの困難さを語っていたが、同時期にK-POPグループのBTSなどがアメリカでの成功を収めていたことなど、様々な要因が重なり88risingのアーティストたちはアメリカのヒップホップシーンでこれまでにない成功を収めていく。
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さらに変化していく88rising

このような強力なキャラクターを持つアーティストたちによって、88risingはアジア系のアーティストだけが所属するレーベルとしては異例の成功を収めた。しかし88risingはその成功にすがることなく、どんどん新しいアーティストをレーベルに加入させていく。
インドネシア出身のシンガーのNIKIや4月のイベントでも来日するLAのコリアン・タウン出身のシンガーAUGUST 08、中国出身のシンガーLexie Liuといったアーティストとサイン。彼(女)らはこれまでの88risingのアーティストが持っていた強力なキャラクターではなく、より音楽性にフォーカスしたアーティストであったり、ユーモアではなくクールな存在感を持っていたりと、よりレーベルとして幅が広がっていると言えるだろう。
多様化している88risingを象徴するエピソードといえば、2月にアメリカの人気ラッパーGoldLinkが88risingと契約したと突如として発表したことだろう。その後の動きがまだないので、事実なのかは定かではないが、これまでアジア系になんらかのルーツを持つアーティストが所属していたレーベルと定義されてきた88risingが、GoldLinkが加入することでまた新しいステージに進むことになる。
またSean Miyashiroは、今後アーティストのリリースと同時に88risingはより映像制作に力を入れていきたいと、筆者との以前のインタビューでも述べていた。アジア系のアーティストのリリースから始まり、これまでも目の前の成功に満足することなく、その領域を広げてきた88rising。彼らの存在感は今後もより、アメリカ、そして世界で広まっていくのは間違いなさそうだ。
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