International hip-hop star and Trap God Gucci Mane played the hits at Roskilde Festival.
© Samy Khabthani / Red Bull Content Pool
ミュージック

トラップの歴史

ストリートレベルからヒットチャートの常連にまで成長したヒップホップのサブジャンルの歴史を名曲と共に振り返ろう。
Written by Sammy Lee
読み終わるまで:7分Published on
トラップが何かを知らない人でもFutureMigosGucci ManeFetty Wap2 Chainzなどの名前は聞いたことがあるだろう。彼らはサザンラップやクランクのスピンオフとも言える、細かく刻まれた808のドラムサウンドと不気味なシンセが特徴のこのジャンルのトップアーティストとして知られている。リリックはストリートライフのタフな現実を取り上げており、サウンドはダークでディストピアンなムードだ。また、トラップは、ラッパーと並んでプロデューサーも重要な存在だ。Shawty RedMannie FreshZaytovenTony Faddたちがいなければ、トラップは今のような人気を獲得していなかっただろう。
このような特徴が、2012年以降、トラップが世界的なヒットと共にラップとエレクトロニック・ミュージックシーンの両方で成功を収めている理由だ。今やトラップのトップアーティストたちはヒットチャート上位の常連で、そのエレクトロニック・ミュージック的なサウンドは繁華街やフェスティバルなど、至る所で耳にする。しかし、トラップはどうやって今のような成功を収めたのだろうか?
2003年:T.I.「Rubber Band Man」
アトランタ出身のラッパーT.I.(本名:Clifford Joseph Harris Jr)はGucci ManeやYoung Jeezyと並んでトラップをメインストリームに押し上げた人物に数えられる。もちろん、コカイン密売所とヒップホップシーンにおけるストリートライフを意味するスラングとしてのトラップは、すでに1990年代後半にOutkastGoodie Mobが使用していたが、T.I.がクランクと挑戦的なサザンラップにインスパイアされて2003年にリリースしたアルバム『Trap Muzik』が、今のトラップサウンドの原型になった。T.I.はこのジャンルを押し進めるために自身のレーベルGrand Hustleも立ち上げた。
2005年:Young Jeezy「Trap Star」
T.I.がトラップのオリジネイターだという意見に異議を唱える可能性がある人物がYoung Jeezyだ。サウスカロライナ州出身のJay Wayne JenkinsことYoung Jeezyは元々Lil Jと名乗っていたが、2001年にインディーデビューを果たした際にYoung Jeezyに変名し、Shawty Reddがプロデュースを担当して2005年にリリースされたダークなトラップアルバム『Let’s Get It: Thug Motivation 101』でメジャーデビューを果たした。Young Jeezyはその後もアルバムでチャートナンバーワンを獲得したり、Rihannaなどのビッグネームと共演したりと活躍を続けているが、今でもトラップを代表するアーティストであり、2016年にニューアルバム、その名も『Trap or Die 3』をリリースしている。
2007年:Gucci Mane「My Kitchen」
おそらくGucci Maneはトラップシーン初のスーパースターだ。2000年代初頭にOutkastとGoodie Mobの後を引き継ぐ形で、アトランタで人気を獲得した彼のヘヴィなリリックと強烈なトラックはトラップを定義づけた。今でも十分に有名なGucci Maneだが、警察絡みのトラブルがなければもっとビッグになれていただろう。しかし、軽率に騒ぎを起こすことで知られているGucci Maneだが、ここ1年半ほどは音楽に専念しており、ミックステープ2本、スタジオアルバム2枚、Metro Boominとのコラボレーションアルバムをリリースしている他、Rae SremmurdとYoung Thugとのコラボレーションも展開している。しかし、名作『Hard to Kill』(2006年)と『Trap-A-Thon』(2007年)の頃にレコーディングされたこの2007年のトラックこそ、Gucci Maneサウンドの真骨頂と言えるだろう。
Major Lazer with a guest MC

Major Lazer

© Dan Wilton/Red Bull Content Pool

2012年:Major Lazer「Original Don(Flosstradamus Remix)」
トラップがヒップホップシーンに偏在するようになると、他のジャンルのトッププロデューサーたちもこのジャンルに注目するようになった。タフなアリーナダブステップのプロデューサーたちが、トラップの早急なビートやハイハット、気味なシンセを自分たちのサウンドにバイブスを加えるために流用するようになったのだ。シカゴ出身のFlosstradamusMajor Lazerの「Original Don」をリミックスしたこのトラックにも、オリジナルのBPMを下げてトラップのあらゆる特徴を詰め込まれている。またFlosstradamusはDiploと共にBBC Radio 1の番組に出演し、ヒップホップ的なトラップとハウス的なトラップに限定したミックスも披露している。
2012年:Baauer「Harlem Shake」
この頃になるとトラップハウスが誕生した。DJ SliinkRL Grimeがこのジャンルを生み出すと、Soundcloudはベッドルームトラップハウスプロデューサーで溢れかえるようになった。その中のビッグアンセム(この言葉では説明できないほどのヒットになったが)がBaauerの「Harlem Shake」だった。「Harlem Shake」を聴いたことがない、ミュージックビデオを見たことがない、もしくはインターネットミームを見たこともないという人は、恐らくここ5年ほど宇宙飛行士訓練に参加していたのだろう。
Trap star Fetty Wap

Fetty Wap

© Press

2014年:Fetty Wap「Trap Queen」
Rae Sremmurdが2016年にトラップのスーパースター、Gucci Maneをフィーチャーしてリリースしたシングル「Black Beatles」はトラップの商業的成功のピークだったのかもしれない(しかし、2 Chainzのニューアルバムが好調なことを踏まえると恐らく間違いだろう)。しかし、このトラックの2年前にリリースされたFetty Wapのデビューシングル「Trap Queen」も同レベルの大ヒットとなり、ヒップホップトラップをポップヒットにする道を切り開いた作品だった。2000年代初頭のトラップ黎明期のようなダークなサウンドではないが、Tony Faddがプロデュースを担当したこのサウンドは、トラップにアンセムトラックという新しい役割を与えることになり、Fetty WapもBeyonce、Jay Z、Kanye West、Fall Out Boyなどから高く評価されることになった。
2016年:Migos「Bad And Boujee」
Betty WapやRae Sremmurdと違う方向性のトラップを生み出しているのがジョージア州出身のトリオMigosだ。2014年からこのトリオはベストクラブヒット賞からベストグループ賞まで、ヒップホップ関係の賞を数多く受賞している。しかし、Metro Boominがプロデュースを担当し、Lil Uzi Vertをフィーチャーしたこのダークでシュールなヒットトラックはリリース当時多くのファンを驚かせた。オリジネイターたちのサウンドに近いが、彼ららしいサウンドに仕上がっている。トラップにはまだ多くの可能性があることを示した1曲になった。