振り返ってみると、2018年、つまり、大作の年 / “ジ・イヤー・オブ・ザ・ブロックバスター” は、2017年6月12日から始まった。
この日、E3 2017のSonyのカンファレンスで、PS4独占タイトル『Marvel's Spider-Man』のファーストトレーラーが発表された。そしてこのトレーラーがソーシャルメディア上で拡散されると、発表からたった数日で視聴回数が700万回を超えた。
このトレーラーは実に美しくて滑らかだった。スーパーヒーロー物に求めることが全て実現されていた。スパイダーマンのスーツ、崩壊する建物から飛び散る火花、パンチやキックのリアクションなど、全てが細部まで美しくレンダリングされていた。
しかし、そのグラフィックスは美しすぎた。世間はすぐに自分たちが目にしたものを訝しむようになった。なぜなら、ハイパワーのコンピューターや開発中のバージョンなどを使って表現されるグラフィックスと、あらかじめレンダリングされたものではなく、実際のゲームプレイだということを訴えるためにPS4上で表現されるグラフィックスは全くの別物だからだ。
事前に用意した美しいグラフィックスを使用するマーケティングトリック “プリレンダリング”の最初期の例のひとつが、2005年にXbox 360のローンチタイトルとしてリリースされた『コール オブ デューティ2』のトレーラーだった。世間は新しい家庭用ゲーム機の性能のほとんど理解していなかったため、このプリレンダリングされたグラフィックスを鵜呑みにしていた。
『Marvel’s Spider-Man』に関する予想・推測は、リリースの直前にひとつのピークを迎えた。ファンが初期トレーラーと後期トレーラーを比較し、地面に描かれていたいくつかの水たまりが消えていることに気付いたのだ。この発見は「グラフィックスのダウングレードが行われているのではないか」という疑問に繋がっていき、デベロッパーのInsomniacに「水たまりのサイズを変更しただけです。グラフィックスのダウングレードではありません」とTwitter上で発表させることになった。
このような議論を収束させるには、実際のゲームプレイを確認するしかないわけだが、『Marvel’s Spider-Man』がリリースされると、グラフィックスに関する議論は一気に収束した。ソリッドなゲームプレイがこのような議論を完全に上回っていた上に、グラフィックスが約束通りのクオリティだったからだ。
『Marvel’s Spider-Man』のリリースは、2018年のAAAタイトルにまつわる動向をまとめている。最近のファンは、事前に発表された “革新” や “変更” に対して耐性を持っているのだ。また、ファンが大々的に謳われているセールスポイントを疑問視しても、デベロッパーは全てとは言わずとも大半の約束を守っている。
例を挙げていくと、ハック&スラッシュからアクションRPGへ方向転換した『ゴッド・オブ・ウォー』 について、シリーズのファンはこの方向転換を最初は拒否したが、最終的には年間最優秀タイトルのひとつとして高く評価した。
『レッド・デッド・リデンプション2』では、『GTAオンライン』とそのマイクロトランザクションの成功、そして『レッド・デッド・オンライン』の優先が原因で、シングルプレイヤー用コンテンツがおざなりになるのではないかとファンが危惧したが、Rockstar Gamesはここ数年で最も記憶に残る素晴らしいシングルプレイヤーモードのひとつを用意し、壮大な西部を舞台にした70時間超の旅を彼らに提供した。
AAAタイトルを手がけるデベロッパーはなぜ世間の高い期待に応えることができているのだろうか?
ひとつ目の理由は時間経過だ。PS4とXbox Oneに世代交代してからある程度の時間が経ったため、デベロッパーはこの2機種で何ができて、何ができないのかについての知見を蓄積できている。また、PS4とPS3の両方で楽しめるゲームを開発する必要性、つまり、互換性について頭を悩ます必要もない。
ふたつ目の理由は費用対効果分析だ。ビデオゲームのデベロッパーは、ハリウッドがMarvelとDCのシネマティックユニバースで見出した黄金律に従ってAAAタイトルを開発している。
MarvelやDCの知名度は世界的に高く、利益が出ることが事前に予想できるため、ハリウッドの映画プロデューサーたちは惜しむことなく予算を投入している。そしてゲームプロデューサーもこの手法を採用している。『レッド・デッド・リデンプション2』、『ゴッド・オブ・ウォー』、『コール オブ デューティ ブラックオプス4』、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』は、いずれもリブート・リメイク・続編で、知名度と人気は高い。利益が確実に見えていない作品に投資する人はいないのだ。
最後の理由は、デベロッパーが "終わりのない長時間労働と目に見えない犠牲」によってネクストレベルのゲームを生み出しているから" だ。
AAAタイトルを手がけるデベロッパーはマンパワーと融資を最大限活用し、小規模なデベロッパーやインディーデベロッパーでは絶対に不可能な、ファンの顎が外れるレベルのディテールの細かいゲームを開発している。現状、ビッグデベロッパーとスモールデベロッパーの格差を解消できる “クリエイティブなソリューション” はほとんど存在しない。壮大な世界を作り出すためには、千人単位のマンパワーが必要なのだ。
この結果、2018年は、ゲーミング業界がAAAタイトルの開発における倫理問題に取り組む1年でもあった。
何千・何万人のスタッフをどのように補償するべきなのだろうか? AAAタイトルの開発の “追い込み(Crunch)” が生み出す暗黙のプレッシャーとは? プレイヤー側はAAAタイトルのテストやデザインに携わっているスタッフをどこまで気にかけたり、支えたりすれば良いのだろうか? 開発サイクルを固定化・安定化すれば変わるのだろうか? 高額予算を投じても利益が一切生み出せなくなったら、つまり、今のバブルがはじけたらどうなるのだろうか?
このような疑問の答えを導き出すのは難しい。しかし、このような疑問がゲーミング業界を定義づけ、進化させ、業界を未来へ進ませるはずだ。
2019年はインディーが再び盛り上がるかもしれない。しかし、誤解してはいけない。経済的成功を生み出すフォーマットはすでに存在する。
我々はこのフォーマットを使うべきなのだろうか? これを使ったらどのような犠牲を払わなければならないのだろうか? 使わなければ、どのような新しいビジネスモデルが代わりに出てくるのだろうか…?
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