Kamiokande, 2007
© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON
アート&デザイン

すべてが等価な世界 アンドレアス・グルスキー展

広い画角と、高密度・高精細な細部によって圧倒的なスケール感を感じさせるフォトグラファー、アンドレアス・グルスキー。
Written by 宮越 裕生
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《カミオカンデ》 2007年

Kamiokande, 2007

© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON

■TOP画像:Kamiokande, 2007 © ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON
先週、六本木の国立新美術館でグルスキーの日本初個展を観てきました。
見どころは、グルスキー自身が厳選した作品65点と、年代順ではなく、独自の方法に従って構成されたレイアウト。
レイアウトも本人が手掛けおり、現在のグルスキーが自作を見る目を追体験できるような会場構成になっています。
会場に入ると、大小さまざまな作品が成すコントラストに圧倒されました。
大きな作品は身長を優に超えるほどの大きさがあり、岐阜県にある素粒子観測装置、スーパーカミオカンデを写した作品《カミオカンデ》(上)も、228.2×367.2×6.2 cm あります。画面の右下にはボートに乗った作業人が写っていますが、このボートの大きさが大体10〜15cmぐらい。人の姿を確認することによって、ぞっとするほど全体の大きさを感じさせられる、これがグルスキー作品の大きな魅力のひとつです。
グルスキーの写真は現実主義的ですが、デジタル技術も駆使されています。
例えば《カミオカンデ》が撮影された時は光電管の修復のために水が抜かれていたそうですが、グルスキーはCGによって水面と作業人を加えています。また、直径39.3m、高さ41.4mの円筒形の空間も、デジタル編集によって平面的に構成。そのことによって、永遠に連続するのではないかと思われるような空間をつくりだしています。
F1 Pit Stop Ⅳ, 2007

F1 Pit Stop Ⅳ, 2007

© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON

グルスキーは1955年、旧東ドイツのライプツィヒ生まれ。デュッセルドルフ芸術アカデミーでドイツ現代写真の大家、ベルント・ベッヒャーに師事しベッヒャーのタイポロジー(類型学)の影響を受けつつ、初めて群衆を写した作品「東京証券取引所」(1990)の頃から、反復するモチーフによって全体を満たす作風の作品をつくるようになります。そして、1992年頃にデジタル技術を取り入れるようになってからは、より明確に自身のビジョンを打ち出すようになりました。
《99セント》 1999年

99 Cent, 1999

© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON

複数の写真をつなぎ合わせ、現実とも虚像とも見分けのつかない独自の世界観をつくりだしています。
BahrainⅠ, 2005

BahrainⅠ, 2005

© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON

興味深かったのは、伝統的な西洋絵画に見られるようなパース(遠近法)を抑えた画面構成。そのことによって遠くも近くも等価に扱われ、どのパートも間近に感じられるようなリアリティをおびています。
PyongyangⅠ, 2007

PyongyangⅠ, 2007

© ANDREAS GURSKY / JASPAR, 2013 Courtesy SPRÜTH MAGERS BERLIN LONDON

グルスキーの作品の前に立つと、思わず近づいて見たり、遠くから見たりを繰り返してしまいます。
その巨視と微視を行き来するような感覚は、図版からは得られないものでした。
また、作品にインクジェットプリント(インクの微細な粒子を紙に吹き付ける印刷方式)とCプリント(印画紙プリント)が混在している点も興味深かったです。伝統的な写真の技法を継承しつつ、最先端のデジタル技術、印刷技術を駆使した作品は、まさに現代のアート。気になっていたという方は、ぜひともこの機会にお出かけになってみてください。国立新美術館で、9月16日まで開催されています。
ANDREAS GURSKY | アンドレアス・グルスキー展
会期:2013年7月3日(水)-9月16日(月・祝)
休館日:毎週火曜日
会場:国立新美術館 企画展示室1E
開館時間:10:00 -18:00 ※金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
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宮越 裕生(Yu Miyakoshi)
ライター。執筆範囲はメディアアート、ファインアート、写真、旅、猫。大学時代に絵画を勉強し、近ごろ境界領域の表現可能性、メディアアートと写真に出会いまた新たにアートに目覚める。CBCNET、HITSPAPER、greenzなどのHPを中心に執筆しています。今ここを伝える文体を研究中。