Mr.Wiggles
© Jason Halayko/Red Bull
ブレイキン

「ヒップホップという言葉に意味なんてなかった」 ― 伝説の男たちが語る、真の歴史

全ダンサー必読!? Red Bull BC One Japan Camp 2016で行われた、ストリートダンスのレジェンド4名によるスペシャルトークセッションの模様をお届け。
Written by Red Bull Japan
読み終わるまで:21分公開日:
Storm

Storm

© Jason Halayko/Red Bull

【Red Bull BC One Japan Camp 2016 Special Talk Session】
■開催日時:2016年12月2日(金)14:45〜16:00
■ホスト:Storm
■スピーカー:Crazy Legs、Mr.Wiggles、Buddha Stretch
Storm  今日はみんな、Red Bull BC One のCampに来てくれてありがとう。さて、このセッションでは、ヒップホップの世界で今起きているコトを皆とシェアしたいのと、このカルチャーの過去から今に至るまでの話をしたいと思います。なぜなら、オンラインの時代になってたくさんの情報に触れられるようになった一方で、そのソースを知ることがすごく重要だと思うからね。
今日はこの3人(Buddha Stretch、Mr.Wiggles、Crazy Legs)が集まってくれたけど、全員、ヒップホップ発祥の地が出身のメンバーだね。世界的なスケールで、ヒップホップの誕生から発展まで様々な出来事をずっと見てきたレジェンドたちだよ。
ヒップホップという言葉に、意味なんてなかった
Buddha Stretch
Storm  さて、僕からの一つ目の質問は、「言葉」についてだ。日本であろうとヨーロッパであろうと、世界中のいたるところで、僕らはヒップホップ特有のボキャブラリーを用いているよね。これらは、ヒップホップカルチャーにおいて、コミュニケーションをよりスムーズに行うために生まれたものだと言える。あるいは、ヒップホップがどういうアートフォームなのかを理解してもらうためのものでもあるんだ。
でも、毎日のように使われるこうしたヒップホップの用語がどうやってつくられてきたのかとか、今や意味が変わってしまっているとかっていうことは、皆さんもあまりよく分かっていないんじゃないかと思うんだ。ということでまずは、「ヒップホップ」という言葉がどうやって生まれたのか、そしてかつてはどのような意味を持っていたのか、そしてこの3人にとって今はどういう意味を持っているのかを聞いてみたいと思う。
Mr.Wiggles  まず始めに、僕らは決して「先生」になろうとしているわけではなくて、いつだって「教えるために学んでいる」ということを言っておきたいね。僕らも(皆と同じように)参加者であって、僕らはあくまで代表者にすぎないってことだ。とはいえここ10年〜15年くらいで、より多く深い質問をたくさん受けるようになってきていて、僕らもより優れた「先生」にならなくてはいけなくなってきているのが実情だけれどね。
Stormの質問に対する第一の答えは、僕もOG(先輩)たちからヒップホップという言葉の意味を学んだのだ、ということだね。ヒップホップという言葉をヒップホップダンサーたちと明確に結びつけた、第一世代のB-BOYたちだよ。(ヒップホップダンサーとは)パーティダンサーやB-BOYやB-GIRLのことで、かつては一緒だったもの。区別はしていなかったんだよ。なぜか今は別々になってしまっているけど、元々は一つのコミュニティなんだ。
そして第二に、「ヒップホップ」というのはカルチャーの名前なんかじゃなくて、ただのラップするための語句だったってコトだ。どのMCも「ヒップホップ」という言葉を自分のバージョンでラップしていたんだ。「Hip, Hip, Hop, Hop〜」(『Rapper’s Delight』のようなリズムを刻む)みたいにね。ヒップホップっていうのは、単なるラップだったってことだ。それをMCがダンサーに向かって言って、ダンサーたちがピョンピョン跳ね(HOP)て踊っていたんだよ、ウサギみたいにね。
ハッキリと覚えているんだけど、Village VoiceというNYの雑誌が1981年に行った取材でアフリカ・バンバータに「このカルチャーは何て呼ぶのか」と聞いたときには、バンバータはヒップホップとは答えなかったね。バンバータは(先程のような)ラップを披露して見せたんだけれど、後々出た記事にはそのラップの端々を取って「ヒップホップカルチャー」として紹介されていたよ。当時は僕もそんな言葉を聞いたことは無かったから、変な感じがしたのを覚えているね。ラップして、ツルんで、ジャムをしていただけだったからね。
Storm  なるほどね。簡単にまとめると、はじめは名前もなくて、ただ「やっていた」だけだったんだよね。でも、ひょんなことからVillage Voiceがそれをカルチャーとして世に送り出したということが言えそうだね。それ(名前を付けられたこと)についてはどう思ったのかな?
Mr.Wiggles  当時はみんな15歳やそこらだったから、若すぎて「声」を持っていなかったんだよね。今は皆僕らのことをOGと呼ぶけど、僕らの前にも世代がいたのは確かだよ。彼らが作ったフレーズを僕らが受け継いで、世界に広まっていった。単純に、何をやっているかを説明する言葉はたくさんあったよ。例えば「ジャム:JAMMING」って言ったら、ストリートのパーティさ。NYならではのブロックパーティ、家でも公園でも日没後でも、とにかくたくさん開かれていたパーティだ。あとは例えば「フッキー:HOOKY」って言ったら、学校をサボることだったりね。
Storm  元々ジャムっていう言葉はジャズから来ていて、ミュージシャンが集って互いにインプロヴァイズするものだよね。それがヒップホップに取り入れられて、ヒップホップの中でジャムと呼ぶようになった。それって何ひとつオーガナイズ(準備)されたものじゃなくて、ただDJがいて音楽があって、そこに皆が遊びに来ていたってコトだよね。
Mr.Wiggles  確かに何もオーガナイズされていたものでは無かったけど、フライヤーとかはちゃんと作れられていたかな。
Storm  なるほどね。最初の質問に戻って、ヒップホップという言葉の意味についてだけど、さっきの1981年から35年を経て、意味が少しずつ変わってきたところがあると思うんだ。ゲストの皆にとって、はじめはどういう意味を持っていたのかな?
Buddha Stretch  OK、そうだね。元々は、色んな要素がそれぞれ存在していたのは確かだ。DJ、MC、グラフィティ、ダンサーだよ。ヒップホップという言葉が生まれる前は、それらは全て別々に、独立して存在していたんだ。
それらを集めてヒップホップという言葉のもとに同じカルチャーとして呼ばれるようになったのは、各要素が始まってから10年くらい経ってからだってコトだよね。1973年に始まったカルチャーが、1981年?(記事が出たのは)1982年か。9年後の1982年にヒップホップという名前をつけられたことによって、これが何なのか?ってことを、ようやく言えるようになったんだ。
ここ10年くらい、多くの人が「ヒップホップ」という言葉を説明しようと試みていると思う。「ヒップ:HIP」は「イケてる」って意味だとか、「ホップ:HOP」は「(跳ねる)動き」のコトだとかね。でも、かつてはヒップホップという言葉に、意味なんてなかったんだ。今の世代は、「ヒップ」と「ホップ」を区別して、それぞれの意味を探ろうとしていると思うけど、(自分より上の)OGの世代は、そういうふうには考えていなかったね。1982年から現在に至るまで、独立していたカルチャーを一つにまとめる「定義」としてヒップホップという言葉が使われたということだね。
Storm  ここで皆に理解してほしいのは、なぜ今ヒップホップのボキャブラリーを(あえて)非定義化しようとしているかというと、はじめはこれら言葉は非常に純粋なただの「遊び」に過ぎなかったということなんですね。ですが今はその(意味のなかった)言葉に色んな人が意味を見出そうとし、言葉がより力を持ち、人によっては人生で最も重要なものになってきた。だから皆、ヒップホップとはどんな意味を持ちうるのかということを考え始めたんだ。もともとはサウス・ブロンクスの若いギャングたちが遊びでやっていたものだけれどね。
Buddha Stretch

Buddha Stretch

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僕らには何も無かったから、これだけ夢中になれたんだ
Crazy Legs
Storm  さてここからもうちょっと踏み入れてみよう。僕たちが考えるヒップホップと、大多数の一般人が考えるヒップホップとはかなり違うと思うんだけど、それを僕らの考え方に寄せていくことに、可能性はあると思うかい?
Buddha Stretch  ほとんどの人は、ヒップホップをラップミュージックのことだと思っているよね。僕らはそれぞれのエレメント(DJ、MC、グラフィティ、B-BOY)を意識してヒップホップを捉えているけど、普通の人はひとつのメディア(=ラップ)だけを取り上げて、ヒップホップと言っているわけだね。なぜかというと、(エレメントの中で)最も発展出来たものが、ラップミュージックだったからだ。一般の人はラップ以外をすべて「背景」だと思ってしまっているよね。
Storm  そういう人たちに、これをカルチャーだと理解させるために、僕たちは何をしたら良いと思う?
Crazy Legs  う〜ん、正しい情報をきちんと手渡していくことかな。でも僕らは、約束事みたいには伝えられないと思うんだ。僕と同じように考えろ、とはいかないよね。僕らはただ、伝えて、一歩進んで、を繰り返すしかないと思うね。他人に誇りを持って欲しいならば、(自分が)歴史をしっかりと体現するか、あるいは誰が創ったものなのかを含めて歴史を伝えていくことが重要だと思うよ。そうすればその他人は、これがただの金儲けの手段ではなくて、アートだってことを理解してくれるハズだよね。
ヒップホップの誕生当初は、僕らはみんなNYの最も恵まれない状況で生きていた。僕らには何も無かったから、これだけ夢中になれたんだと思う。ほとんどの人には、人生の選択肢なんて無かったんだよ。そういう人たちにとっては、こういう(ヒップホップのような)ものが自然発生すると、自分の人生を体現出来るものになるんだ。だから、ヒップホップの一員であると標榜したかったし、それが何なのかってことを理解する必要があったんだ。
Storm  ヒップホップという言葉が生まれた当初は、価値体系は無かったんだよね。ただその中から、MC(ラップ)が他に比べて価値を持ち始めてしまった。元々はやりたいことを勝手にやっていればよかったものが、たった一つの価値体系によって変わってしまった。それは世界で最も有毒なもの「お金」だね。
Crazy Legs

Crazy Legs

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それもこれも、NYスラングの言葉遊びにすぎないのさ
Wiggles
Storm  ヒップホップにまつわる言葉の一つ一つは、遊びとして発明された当初は大きな意味を持つなど誰も思っていなかったということを踏まえて、次は「BBOYING」という言葉について語ろうと思う。BBOYINGにはどんなことが起きてきたか?Crazy Legsは面白いストーリーを持っているよね。
Crazy Legs  後にBBOYINGという言葉はブレイクダンスという言葉に取って代わられるんだけど、その話をしよう。ある日、僕らはイギリス人の女性マネージャーとミーティングをしていた。自分らは15歳〜17歳くらいのゲトーなガキだったし、行儀も悪かったし、いつもフザケていたんだ。その女性マネージャーがイギリス訛りの英語を喋るもんだから、ブロンクスのガキだった僕らにとってはそれが面白くてね。たしか1982年くらいだったと思うんだけど。彼女が何か喋った最後に訛りながら「ブレ〜イクダンシング」って言うんだよ(笑)。そんな言葉は聞いたこともなかったから面白くてイジり倒していたんだ。「ブレイクダンスって何だよ!?」ってね。ちなみに彼女はセックス・ピストルズと仕事したこともあったし、(ピストルズのマネージャーだった)マルコム・マクラーレンの知り合いでもあった。初期に僕らをブッキングしていたのは彼女だったんだけど、彼女がプレスリリースのなかでブレイクダンスとかブレイクダンサーという言葉を使っていたのが、メディアにそういった言葉が流れた理由さ。ブレイクダンスって言葉は、僕らから生まれた言葉でも、ヒップホップから生まれた言葉でもないんだよ。
そのまましばらく時が過ぎてしまったんだけど、90年代の初めに、Mr.Wigglesと僕とでとあるドキュメンタリーの撮影をしていたんだ。その撮影が終わって出てきた後に自分たちが「ブレイクダンス」っていう言葉を使ってしまったことに気づいたんだ。「ブレイクダンスなんて言葉、何で使ってしまったんだろう?」ってね。僕らは相談して、「ダンス(シーン)がもう一度息を吹き返すために、議論になることをやろう。もう一度、BBOYINGと呼ぶように呼びかけよう」って決めたんだ。リアルなものに戻すために、呼び方をオリジナルに戻し、ダンスそのものへの注目を再び生み出そうとしたんだよ。(ブレイクダンスという)呼び名を正して、議論のレベルを上げようとしたのさ。それから10年以上経って、大手のメディアも少しずつ修正出来てきた気がするよ。
Storm  子どもの頃にニックネームを付けられても、大人になると本名を名乗るようになるのと同じだね。元々BBOYINGとして始まったものが、カルチャーと無関係の人によって別名を付けられ、それからまた意識が戻り、オリジナルの人々によって元の名前に戻そうっていうムーブメントだ。
ここでCrazy LegsやMr.Wigglesに聞きたいんだけど、BBOYINGっていう言葉はどこから生まれ、何を表しているのかな。
Wiggles  昔はBBOYINGとは呼ばずに、「ボイヨイング:BOYOING」だったんだ。BOYOINGっていうのは、BBOYINGにもあるバウンス(縦揺れ)のコトだ。BOYOINGって言葉は、BBOYINGに響きが似ているだろ?単なる(発音の)フロウなんだよ。Stormのこのセッションの始め方は正しいんだ。訳せない言葉があるってことだよ。だって、僕らはヒップホップのコトを教えるなんて思っていなかったんだからね。ただ踊っていただけだから。
今はこうして噛み砕いて教えるているけど、全て元々はスラング、ストリートの言葉だ。NYではNYのスラングでの会話があるんだ。Zulu Nationのスラング、刑務所上がりのスラング、グラフィティのスラング。ブレイクダンスとかブレイクダンサーっていう言葉には、NYならではの(発音の)フロウが無いんだよ。BBOYINGっていうのは、NYのフロウでBOYOINGを連想させるフロウを持っているんだ。正しいとかどうとかってよりも、NYっぽく(聞こえ)ないんだよ。なんだか田舎臭い響きさ。
だからさっきのCrazy Legsの説明は的を射ていて、リブランドって言ったっけ? BBOYINGっていう言葉にはNYのフロウがあるってのが重要なんだ。子どもの頃にあったBOYOINGっていう言葉の響きを思い出させる響きだ。たくさんバウンスして跳ねる(HOPする)ような、オリジナルのB-BOYスタイルだ。
だからStormは「無」に対して聞いているようなもので、僕らは答えを知らないんだよ。ちょっとクレイジーに聞こえるかもしれないけれど、例えばWu-Tang Clanの曲も意味なんか分からないだろ?それもこれも、NYスラングの言葉遊びにすぎないのさ。
Mr.Wiggles

Mr.Wiggles

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オールドスクールとはアプローチのプロセスである
Crazy Legs
Storm  さて、次の質問に移ろう。僕がCrazy Legsに初めてNYで会った時、「Old School is the New School」って書いてあるTシャツを売っていたのを覚えているんだけど、何がオールドスクールで何がニュースクールなんだろうね?
Crazy Legs  (ヒップホップに限らず)地球上の全ての人が、オールドスクールと呼べる時代を持っていると思うね。オールドスクールって、初めは僕らの時代のコトだと思っていたけれど、今は誰もがオールドスクールと呼べる時期を持っているんじゃないかって思うな。かつて何かに一生懸命取り組んだ時間のコトだよね。今から10年もたてば、今日も誰かのオールドスクールになるさ、何歳であれね。
オールドスクールっていうのは、経験に紐付いていると思うんだ。例えば、僕がいまカザールをかけているだろ。いっぽうで、Rihannaみたいなセレブもカザールを身に着けている。僕にとってオールドスクールだけど、彼女らにとっては単にクールなモノなのさ。人それぞれってコトなんだ。僕がカザールをかけていたとして、ある人はクール!と言うだろうし、Mr.Wigglesだったらオールドスクールだな!と言うだろうね。
Buddha Stretch  僕は真逆の見方かもしれないな。日本ではミドルスクールっていう言葉があるよね。だから単純に、ある時期を指し示すものだと思うよ。問題は、これらの言葉が相対的だってことだ。20年前と今のミドルスクールはそれぞれ何だろう?もしダンスについて言うのなら、例えばサルサはブレイキングより古いからオールダースクール(Older School)なのか?どんどん古くなっていくし、遡ればキリが無いよね。
Storm  当時NYに行ったときは、ラップグループのLeaders of the New Schoolも出てきていたのを覚えているよ。ダンスで考えてみると、モダンダンスは(実際)モダンなのか?と言えば、Noだよね。コンテンポラリーダンスも同じ問題を抱えている。だから、言葉が重要であると同時に僕らの捉え方も重要なんだ。ずっと同じ意味を持ち続けるわけじゃないし、タイムラインを規定しないといけない。かつてオールドだったものが形を変えてニューだってこともあり得るよね。
Buddha Stretch  ニュースクールさえも古くなっていくとしたら、今は何だろうね?
Storm  Crazy Legsが言ったことを忘れてはいけないと思うんだ。ヒップホップに直接関係ないこともあり得るってことだね。ヒップホップではオールドスクールとかニュースクールという言葉はある集団を指すけれど、一般的な英語の解釈としては、前者は過去の何かで後者は現在の何かだってコトだね。
Crazy Legs  オールドスクールとはアプローチのプロセスであるとも言えるんじゃないかな。オールドスクールのアプローチはアルファベットで言えばAからZまで適用されうるし、ニュースクールのアプローチはアルファベットの途中から始まって、間違いに気づいたら戻って、みたいな感じ。つまりオールドスクールは、最初の基礎(Foundation)から始まるってことが言えるんじゃないかな。
BC One talk session add photo

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カルチャーと直接関連がないのであれば、ヒップホップという言葉を使うべきじゃないと思う
Buddha Stretch
Storm  あと2つ聞きたいことがあるんだけど、まずWiggles。ポッピン(Poppin’)とかロッキン(Lockin’)っていう言葉を解説してくれるかな。
Mr.Wiggles  色んな説がある西海岸発祥の言葉だよね。僕はNY出身だから外部の人間として話すけど、子どもの頃に言葉自体は聞いたことがあったけど、実際のポッパー(Popper)やロッカー(Locker)に会うまでは理解していなかったね。彼らの自己紹介で初めて理解したのさ。世界中のどのストリートで生まれた言葉も、生まれた土地の解釈が一番だ。類語があれこれ生まれるからね。
Storm  なるほどね。じゃあ次はBuddha Stretch、「HIP-HOP FREESTYLE」っていうのはどういう意味なんだろう?どうやって生まれて、今と昔でどんな意味を持っているのかな。別な言い方も出てきているけど、どう思っているの?
Buddha Stretch  OK。シンプルに言うと、僕らがやりだした頃は全てBBOYINGの延長だったんだ。全てのHIP-HOP FREESTYLEダンサーたちは、ポッパーやB-BOYたちの「あと」なんだよ。このスタイルのダンスを始めたとき、僕らは単に「ヒップホップ」と呼んでいたよ。それがダンスする唯一の音楽だったからね。もし違う音楽がかかったら、違うダンスをしていたと思うよ。それが語源だね。
今はHIP-HOP FREESTYLEって呼んでいるけど、なぜならヒップホップカルチャーにおける最初のダンスはブレイキングだからだ。これについては、疑いの余地はないね。僕らは皆、ポッピンとブレイキングから始めた。だからこそ、ヒップホップカルチャーの延長として、ヒップホップという名前で呼んでいるんだ。
でも、(商業的な仕事を多くこなす)コマーシャルダンサーとか、振り付けメインのダンサーたちも、ヒップホップカルチャーの延長線だと思ってやっているんだよね。でも「直接」ヒップホップカルチャーと関連があるのか?って聞きたいね。もしカルチャーと直接関連がないのであれば、ヒップホップという言葉を使うべきじゃないと思うね。だからそこに対しては懐疑的なんだ。
Storm  僕が思うに、現代ではFREESTYLEという言葉がインプロヴァイズの意味でも使われていて、それがBuddha StretchのいうHIP-HOP FREESTYLEと混ざり、元々の意味とズレてきて混乱が生じていると思うんだ。
Mr.Wiggles  ヒップホップという言葉をBuddha Stretchのようなダンサーが使うことは100%正しいと思うよ。ここに座っている2人(Crazy LegsとBuddha Stretch)が一番良い見本だろ。ヒップホップの歴史がここに座っているんだ。(グラフィティライターの)Phase 2はいろんなコトを教えてくれる存在だったんだけれど、彼はパーティで特に突出していた人のことを、フリースタイルしている(FREESTYLING)って表現していたんだ。女の子もお構いナシに、とにかく踊る、みたいな人だね。彼みたいなOGは、僕がパーティダンスとかって呼んでも「そんなのねぇよ」ってな具合で、お構いなしだった(笑)。イケてるダンサーはフリースタイルしているんだ、ってね。パーティダンスなんて、スタジオで教えるものじゃないのさ。
だから、言葉を細かく解釈しても混乱を招くだけじゃないのかな。すべてはヒップホップなんだ。ここにいる2人も、同じ時代に同じダンスを進化させてきたヒップホップダンサーさ。ブレイキングも特にファウンデーションと密接なだけで、同じくFREESTYLEのダンスだ。
bc one legend talk session image 06

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ジャムっていうのはFacebookと同じで、ソーシャルネットワーキングなんだ
Buddha Stretch
Mr.Wiggles  今日において僕らに出来ることは、きちんと伝える方法を考えることだ。こうして腰を据えて言葉の色んな側面を考えることも大切かも知れないけど、正直、歴史を書くのは僕らじゃないよなって思うんだよね。僕ら自身は歴史かもしれないけど、書くのは僕らじゃない。僕らよりも後の世代がやることさ。色んなことを参照しながら詳しくまとめる作業が、きっと行われることだと思う。次の何世紀かにわたって伝わっていく、何かしらのシステムだ。僕のような喋り方じゃ、本にならないだろ?(笑)
Buddha Stretch  僕からはひとつだけ、すべては繋がっているということを言っておきたいね。上から下まで、全部だよ。大きな画を見て、それをブレイクダウンすること。小さいものを見て、大きな画にしようとするのは逆行だよ。「木を見て森を見ず」ではいけない。
Storm  さて、そろそろ終わりの時間だね。今日話されたことは、ぜひ肝に銘じておこう。ヒップホップの生誕地から来たこの3人を前にして、30年以上に渡ってヒップホップがどのように変遷してきたかを話してきました。最後にひとつ質問。今日、Mr.Wigglesはパーティダンスをいう内容でワークショップを行っていたけど、なぜ今回のCampでその内容を選んだんだい。
Mr.Wiggles  分かんないね(笑)。違うことを教えたかもしれないよね。でもブロンクスやブルックリンでパーティダンスのクラスを開いたところで、誰も来ないことは確かだね(笑)。無人のクラスになることは間違いないよ。パーティダンスやグルーヴは教えられるモノじゃないから。黒人やラティーノはそういうものと生まれながらにして育つものだからね。Buddha Stretchのダンスからは、パーティ要素が絶対に消えないだろ?彼は俺のメンターだ。バウンスして、アップダウンして。パーティダンスに境界は無いんだよ。全てがパーティダンスさ。以上!
Buddha Stretch  ジャムっていうのはFacebookと同じで、ソーシャルネットワーキングなんだ。ディスカッションして、教えて、シェアすること。だからソーシャルな要素って凄く大事なんだ。今の時代のソーシャルは、ビートのないFacebookに変わっちゃったけどね。
Storm  今日は皆、Red Bull BC One Japan Campに来てくれてありがとう。3人に大きな拍手をとリスペクトを。
Crazy Legs  今日までヒップホップを支えてくれているStormにも大きな拍手を。みんなありがとう。