ハイキングを始めたばかりなら、ハイキングをよりチャレンジングにした「スクランブリング」という言葉を何回か聞いたことがあるかもしれない。
スクランブリングの目的も通常の登山と同じ “山の頂上を目指す” だが、頂上までのルートを示す目印や標識などはほとんど存在しない。その代わり、頂上までのルートを自分で選ぶことになる。
そのため、スクランブリングのルートは、通常の登山よりもやや高難度で両手を使った登攀が必要になるものから、ロッククライミングと呼ぶべき絶壁を登攀するアドレナリン満点のものまで実に幅広い。
日本ではまだ馴染みの薄いスクランブリングだが、今回は英国Expeditionguide.com所属のマウンテニアリング・インストラクター、ロブ・ジョンソンと、英国随一のマウンテンセンターPlas y Breninのシニアインストラクター、マイク・レインがスクランブリングの基礎知識を授けてくれた。
1:滑落のリスクを知る
British Mountaineering Council(英国登山評議会)が「むき出しのウォーキングルート」と定めるグレード1から、「適切なグレードのクライミングルート」と定めるグレード3まで、スクランブリングのトレイルレベルは3段階に分かれており、多くの山や丘陵地が複数の難易度のルートを抱えている。
「ハードなスクランブリングでは、ロッククライミングのスキルが必要になります」と語るのはレインだ。
「一方、イージーなスクランブリングでは、通常の登山から始まり、頂上付近で手を使った登攀が必要になってきます」
「ほとんどの人は、非常に安全で滑落のリスクも少ないヒルウォーキング(山歩き)を経験してからスクランブリングを始めています」とジョンソンは説明する。
「スクランブリングでは、滑落の可能性があるルートに遭遇しますが、これがスクランブリングの魅力の一部でもあります。刺激的なむき出しのルートに身を置く興奮が得られるからです。ですが、逆に言えば、滑落してしまうリスクが潜んでいるのです」
2:事前の経験は不要
スクランブリングの良さは、難しいテクニックが求められるロッククライミングやキャニオニングとは異なり、基本的にはヒルウォーキング(山歩き)と同じで、一歩ずつ進むだけというところにある。しかし、スクランブリングは簡単ではない。
「まずはそのルートを踏破できるだけのフィットネスが必要ですし、それに相応しいメンタルも必要です」とジョンソンは語る。
レインは、スクランブリングにはフィジカルの高さだけではなく、複雑なパズルを解ける頭脳や、優れた判断力と決断力も重要だとしている。
「使えるテクニックが限られているので、自分がクリアできると確信できる難度のルートを選ぶことが重要になります」
もうひとつ必要な要素は、高所への耐性だ。
「地形的な難度はそれほど高くないかもしれませんが、かなりの落差がある場所に向かうことになります」とレインは語り、さらに続ける。
「クリブ・ゴッホ(ウェールズ・スノードニアにある山)のような場所に登頂した経験があれば特に問題はないはずですが、守ってくれるものが何もないむき出しのルートですし、『自分には無理だ』と言ってすぐに戻れるわけでもありません。やり遂げなければならないのです」
3:スクランブリング専用ギアの購入は必須ではない
アウトドアブランドの大半は、その他のアドベンチャーカテゴリーと同じように、スクランブリング専用のウェアやシューズを取り揃えている。
しかし、ヘルメットやハーネス、ロープを含むクライミング専門ギアを購入しなくても、一般的なウォーキングブーツさえあれば、グレード1のトレイルはクリアできる。
「スクランブリングは、余計なギアが必要ないのも素晴らしいですね」とジョンソンが切り出す。
「もう少し本格的に楽しみたいなら、スクランブリング専用シューズを購入しても構いませんが、このようなシューズはロングウォークの快適性が通常のウォーキングシューズに劣ります」
「また、コンディションが完全にドライなら、アプローチシューズでもOKです。アプローチシューズは、快適にウォーキングできて、スクランブリングでは高いグリップが得られるので、かなり優秀な折衷案と言えます」
4:登山ガイドブックは必携
オンラインにはスクランブリングルートに関する情報が数多く存在するが、スマートフォンが圏外の時に自分が正しい方角へ向かっているか分からなくなってしまえばジ・エンドだ。
「他の人が “調査活動” を済ませているので、登山ガイドブックを手に入れて、ルートの詳細を読み、それに従って進みましょう。自分がいるルートのグレードも分かります」
「また、初心者は、自分の経験や希望を上回るような難度・傾斜度のルートは求めていないはずです」とジョンソンは説明する。
音を立てずにガレ場を歩いてみましょう。足の運び方や効率的な移動、足の伸ばしすぎなどについて考えるようになります
5:トレイルが途切れた時の対処法
ガイドブックを詳細に読んでも、山中で方向感覚を失ってしまう可能性はゼロではない。
「ガイドブックの中には半ページ分の文字だけで説明されている1,000m級のスクランブリングルートもあり、このようなルートではどう進めば良いのか分からなくなる時があります。その時は、一番簡単なラインを通るようにしましょう」とジョンソンは語る。
「そのようなラインは他の人たちが何度も踏破しているものが少なくないので、人に踏まれて艶が出ている岩、冬の間にクランポンで踏まれてできた傷などの目印を見つけるようにしましょう」
とはいえ、これらの目印をむやみにフォローするだけでは、自分のコンフォートゾーン外のグレードに遭遇してしまうことにもなりかねない。
「目印を追うだけでは、羊の通り道を辿っていたり、人気のあるルートで間違った方向に進んでしまったりする可能性があります」
「ルートを選ぶ理由は人によってそれぞれでしょうから、『間違った方向』と言い切るのは気が咎めますが、スノードニアにあるトライファンのような人気ルートでは、自分を過信してしまい、下山時に救助を要請する人たちがいます」
「ルートを間違えるのは大した問題ではありません。大事なのは、間違ったと認識することです。自分が何をしているのか常に考え、自分で自分の面倒を見る必要があります」
6:グレード1と上級ルートの違い
人気の山での登山とは違い、スクランブリングではルートの分岐を示す目印が存在しない場合もある。では、初心者はグレード2やグレード3のルートをどう見分ければ良いのだろうか?
「グレード3のスクランブリングルートでは、手を使った登攀が必要になりますが、完全に垂直なドロップに遭遇することはないでしょう」とジョンソンは語る。
「グレード1に満足できない時は、他のヒルウォーキングルートにトライするのが基本です」
「グレード2や3は、一般的な登山ルートとは異なる急峻なルートですので、自分の足で探す必要があります。北向きの崖か急峻な斜面に位置していて、垂直に近いセクションも含まれます。また、エスケープルートもほとんどありません」
7:足の置き方 3つの基本
スメアリング(擦り付ける)、エッジング(エッジを立てる)、ウェッジング(食い込ませる)は普段聞かない言葉だが、スクランブリングでは、この3つの組み合わせが重要になってくる。
「スメアリングは、岩に対してシューズの底をできる限り強く押し付けることを意味します」とジョンソンは説明する。
スメアリングすれば、グリップを最大にして滑落を防げるようになるが、表面が完全に乾いている時のみ有効だ。
また、エッジングは足の縁(へり)を使って岩の隙間にある小さなレッジに沿って登攀することを意味し、ウェッジングは、水平・垂直の割れ目につま先を食い込ませ、登攀・下降時の足場を確保することを意味する。
8:じっくりと冷静に取り組む
基本的なムーブを覚えたあとは、グレード1のクライミングを安全にこなせると思い込んでしまいがちだ。しかし、スメアリングやエッジング、ウェッジングを覚えるだけでは頂上に辿り着けない。
ジョンソンが説明する。
「私は、ゆっくり動くように指導しています。たまに、スクランブリングというよりはただ “よじ登っているだけ” という人を見かけます。動きが速すぎてそう見えてしまうんです」
「ゆっくりと動き、普段より一歩一歩を慎重に進めるようにしましょう。そうすれば、より効率的に動けるようになるだけでなく、バランスも正しくなります」
「ゆっくり動けば、大きなストライドで足を進めて、リュックサックに全身が振り回される代わりに、両脚の中心に身体が位置するようになります」
「また、重心を意識するように指導しています。基本的に、鼻先は踏み出した足の親指の真上に来るようにします。こうすることで重心が正しい位置にきます」
「初心者は岩壁に前掛かりになりすぎる傾向があります。これは足を滑らせたり、踏み外したりする原因になります」
慎重なムーブの重要性を強調するジョンソンに同意しつつ、レインは次のように付け加える。
「音を立てずにガレ場を歩いてみましょう。足の運び方や効率的な移動、足の伸ばしすぎなどについて考えるようになります」
エッジングやウェッジング、または手で岩壁の登攀をエイドする際は、そのレッジが自重を支えられるかどうかをチェックすることも重要になる。
「掴んだり体重をかけたりする前に、その岩を叩いて、十分な強度なのかを確かめましょう」とジョンソンはアドバイスする。
「これは見落としやすいポイントです。全体重をかけた瞬間に崩れてしまえば、ひとたまりもありません」
9:スクランブリングは冬も楽しめる
スクランブリングは夏だけのアクティビティではない。また、山頂付近の天候は変わりやすく、気温も1年を通じて低い。
つまり、雪が地面を覆っていない限り、冬も夏と同じようなスクランブリングが楽しめるのだ。
しかし、冬は追加のギアを用意しておくべきだ。
「冬のスクランブリングでは、テクニカルでハイエンドなグローブやハット、また寒さから身を守るための追加レイヤーも必要になります」とレインは説明する。
「バッグにどのようなキットを追加するべきか考えておましょう — 自分のグループだけではなく、他のグループがトラブルに遭遇して、助けを求めてくる場合もあります」
地面が雪や氷に覆われている時は、スクランブリングは不可能だ。
「そのような時は、また別のスキルが求められる冬山登山になります。スクランブリングよりもさらにエキサイティングですが、同時に危険度も増します」とジョンソンはアドバイスし、さらに続ける。
「冬山の登山にはより多くのスキルが求められます — クランポンとアイスアックスの使い方に慣れている必要があります。また、雪崩を予知・回避する知識も持ち合わせておくべきでしょう」