© Hikaru Funyu
BMX
中村輪夢のBMXに隠された秘密をメカニック担当者が初公開!
中村輪夢(リム)が様々なコンテストを共に戦ってきた自慢のBMXにはどんな秘密が隠されているのか!? 彼の強さの裏側を父・中村辰司さんのお力を借りて別の角度から紐解く!
昨今のBMXフリースタイル・パーク競技において、世界のトップライダーと互角以上の闘いを繰り広げるためには、どういったパーツ選びやセッテイングが必要になってくるのか? BMXシーンに30年以上携わり、現在は中村輪夢のメカニックとしてのキャリアも持つ中村辰司さんに聞くと、
『フリースタイル・パークは、自転車をクルクル回したり自分が回ったりする競技。1分間走り続けてさらにトリックをしなければいけないわけです。
まずは“自分の体型に一番最適なものを選ぶ”といった基本的なことをしっかりとおさえつつ、スピード・トリック・ジャンプ・耐久性など、どこに重点を置くかがポイントになってきます。
輪夢は体格や身長が海外選手に比べると小さいので、バイクは“軽量&コンパクト”を強く意識したセッティングが特徴です。今の市場に出回るフレームの中でも極めて軽量とされるものを軸にパーツのセレクトなどにも注意してバイク全体の軽量化を図っています。
また、取り回しがしやすいように全体をコンパクトにまとめてもいます。個人差はありますが、全体を“軽量&コンパクトにする=技がやりやすくなる”からです』
つまり、輪夢の愛機はトリックに最も重点を置いたセッテイングといえる。
それでは、さらに詳細に各部位ごとのこだわりポイントを辰司さんのナビゲートで見ていこう!
01
【フレーム】
市販されているフレームは2.3~2.4キロが一般的なのに対し、こちらは、輪夢の体型に一番最適なバランスで設計されたシグネチャーモデルで総重量2キロと他にはない超軽量モデル。
素材にはプロユースとして最もポピュラーな、しなやかさと堅牢さを併せ持つクロモリ4130が採用されている。
『BMXにもトレンドってものがあるんです。それこそ、昔は軽量化が流行ってる時代がありましたが、アスリートの技術レベルの向上や競技人口の増加とともに年々トリックのレベルは高まる一方です。世界で求められる最近のトリックはほんとにエグいものばかり。それに対応させるためには強度を高めなければなりません。強度を高めるとなると必然的に重くなる。これが今のトレンドです。
輪夢がトレンドとは真逆の超軽量フレームを選んでいるのは、海外選手と比べると本人の体型がそこまで大きくないから。強度よりも軽量化を重視する方が輪夢にとっては結果が出ると判断しての選択ですね。強度が低くなるとはいえクロモリ4130製なので最先端の高難度トリックにも十分対応しますし、自分の体型に適した重さなので、扱いやすくクイックな動きにスムーズに対応します』
さらに短めに設計されたチェーンステイのデザインにも強いこだわりがある。
『シートチューブとタイヤの感覚を見てもらえれば分かりやすいんですが、写真で見るとここが5センチくらいと狭い。チェーンステイが短めだと取り回しがしやすくなるんです』
しかし、チェーンステイを短めに設計することにはデメリットもある。
『ジャンプの高さだけを求めるなら長いフレームを選んだ方がいいんです。スピードを出してからの安定感が出るので飛びやすいって言われています。なので、ダート競技などでロングジャンプを飛ぶ人たちは(自転車の長さが必要となってくるので)チェーンステイが長めに設計されたフレームを選ぶ人が多い傾向にあります』
ただし、輪夢のようにこのフレームで高さのあるジャンプを楽々とメイクするライダーも多いのでやはり個人差はあるようだ。
02
【ハンドルバー】
辰司さんによれば、現在は20年に1度くらいのデカバーブームたるものが到来しているそう。
『僕たちが現役の時は7インチを使ってました。輪夢が20インチのBMXに乗り始めた頃は8インチでしたが数年前から8.75を使ってて、最近はウェイトトレーニングをはじめて体が大きくなってきたので9.25を愛用しています。ちなみに今の市場には9.5くらいのサイズも売ってますね』
では、デカバーにはどのようなメリットがあるのだろうか?
『ハンドルが大きい=胸に近い場所にハンドルが存在する。胸に近いのでハンドルをクイックに引き上げられます。力まかせに引き上げていない分、ハンドルを回す動作や飛ぶ動作など、次のモーションに持っていきやすいんです』
さらに“フロントフォークとハンドルを平行にセッティングすると良い”というアドバイスもくれた。
『人によっては、ハンドルをちょっと前にする人、後ろにする人っているんですが、輪夢の場合はフロントフォークと平行にセッティングしています。やはり、あれだけの高さや激しいモーションをするので、着地の衝撃でハンドルが前や後ろにズレることがあるんです。感覚と経験で分かるものではあるんですが、この方法だとズレちゃった時に気がつきやすいんです。やっぱり念には念を入れておいた方がいいですからね!』
怪我につながるほどのものではないそうだが、こういった些細な部分への配慮で調子の良し悪しが左右する需要なポイントなのだとか。
03
【ステム】
ハンドルを固定する重要なパーツ、ステムへのこだわりについて。
『輪夢のようにパークでジャンプをするライダーは、“迷ったら50ミリをチョイスするのが基本”と言われています。しかし、輪夢は48ミリと一般的なものよりもショートサイズを選んでいます。これはさっきも言った通りコンパクトにするって狙いがあってのこと』
改めておさらいだが、“コンパクトにする”のは“トリックがしやすくなる”からだ。ステムのコンパクト化についてこう詳しく解説する。
『ステムの長さが長いとプッシュをする時にパワーを使いやすかったり、ハンドルバーをグッと引き上げる時に溜めが作れたり、何かと有利になってきます。でもその分、ハンドルを回しにくいんです。ハンドルを回しにくいと技がしにくい。なので前者と後者から後者を取って短めのステムをチョイスしています』
我々からするとたかが2、3ミリの違いだが、世界基準で戦うライダーにとってはこのわずかなサイズ感がパフォーマンスを大きく左右する。
ちなみに山などでぶっ飛び系のビッグジャンプなどをするダート系の人たちは53~55ミリ。街を走るストリート系のライダーは45~48ミリが多い。
04
【ジャイロ】
通常どんな自転車でも、ブレーキをつけるとハンドルは半回転しかしない。ハンドルをクルクルと回すBMXライダーにとってハンドルを回した時にワイヤーが絡まないようにするために必要不可欠なパーツがこちらのジャイロシステムになる。
『パーク内での競技なのでノーブレーキでもOKなんですが、ブレーキがあるからこその安心感だとか、ブレーキがあるからこそできるトリックってのもあるんです。
あとはブレーキがないとトリック後に止まることまで考えないといけない。ホームだったら感覚が覚えているからいいんですが、新しい環境に行くと色々と大変で。最近はブレーキを付ける&付けないライダーが半々くらいの割合なんですが、輪夢は付けています』
05
【スプロケット】
自転車の“顔”としても認知されているスプロケットは、バイク全体の雰囲気を印象付ける重要なパーツであることから見た目重視で選ぶライダーも多い。堅牢さを高めたものや肉抜きで軽量化を図ったものなどデザインのバリエーションは様々。この辺りはライダーの好みにもよるので、ここではギア比率について解説してくれた。
『ギア比は、スプロケットの歯数÷コグの歯数(後輪に付いているパーツ)で導く数字です。
パークのライダーはジャンプをしてランプに着地してから漕ぎ始めることが多いので、初動が既に加速してる状態。なので、あまり細かく漕いだりしないんです。だから僕たちの間では“ギア比率に迷ったら2.75にしろ”ってのが定番になっています。
輪夢は前(スプロケ)が28Tで後ろ(コグ)が9Tなのでギア比は3.111111。数字が大きくなればペダルは重くなるのでハイスピード仕様という訳です』
余談だが、スプロケに関して、ピストなど他の自転車だとチェーンリングと呼ぶことが多いが、BMXだとなぜかスプロケットと呼ばれている。この違いについてはまた後日、詳しく解説したい。
06
【リム】
名前の由来にもなったリム(輪夢)について。注目すべきは、フロントとリアに別のモデルを取り入れていること。
『フロントにはブレーキをつけてないので軽量なリムを使っています。リアのリムにメッキ素材を使用しているのは、ブレーキと関係があります。ブレーキはメッキのリムの方が断然効くし音なりの軽減にもつながるからなんです。また、リアの方が体重が乗りやすいのでフロントと同じリムだと壊れやすい。なのでメッキにしつつ頑丈なリムをつけています』
リアのリムは軽量よりも強度を重視しているというわけだ。
07
【タイヤ】
タイヤ選びは太さが重要のようだ!
『太ければ太いほど安定感が出るんです。安定感=グリップ力に繋がります。でも、グリップ力が強くなるとスピードが出なくなる。なのでフロントを2.1、リアを1.95と細めサイズのタイヤを履いてます。細タイヤだと助走スピードが上がって飛距離が出やすくなるんです』
ちなみにこのサイズ感は近年のパークライダーにとっては比較的ポピュラーだとか。比較対象として説明しておくと、ストリートライダーのタイヤは2.3~2.4の太めサイズが多いそう。
08
【サドル】
サドルは、輪夢と同じSUBROSAに所属するチームメイトのシグネチャーモデルをセレクト。あれだけの高さで空中トリックに挑むライダーにとって、シートはやはりクッション製が一番になってくると思いきや意外な回答が戻ってきた。
『クッション製はあまり関係ないですね。どれもそこまで変わりません。それより、肌触りが大切なんです。ナイロンとか革だとか生地も様々だし、刺繍とかステッチだとかデザインも豊富。だから当然、肌触りが全く違うんです。しっかりと掴める自分と相性のいいサドルを見つけて、使い続けることで感覚を覚えていくことが大切。空中で一度でも掴み損ねて恐怖感を味わうと、もうその後そのサドルを使うことはいっさいありませんね。今のものは同じモデルを3、4年使ってますからよっぽど相性がいいみたいです』
手だけでなく、自分の履いてるパンツとの相性なども考慮することが大切だとも教えてくれた。
09
【グリップ】
毎日ハードなトレーニングをするライダーは1ヶ月に1個くらいのペースで消耗すると言われているグリップ。
『様々な種類のものが発売されており、当たり前ですがどれも長さや太さが違います。一度相性が合うと飽きるまで同じモデルを使うことが多いんですが、カラーバリエーションが豊富なので、気分転換で(同じモデルの)カラーを変更して楽しんだりもしているようです』
ちなみに撮影時が夏だったため、この時は涼しげなカラーリングのものをチョイスしている。
10
【ペグ】
写真では見えないが、ペグは左側のフロントとリアにセッティングされている。
『ペグはグラインドなどのトリックに使ったりすることが多いので、フリースタイル・パークではあんまり使うことがないんです。重いから軽量化を図るためには取った方がいいんですけど、どうやらこの雰囲気が好きらしく、ずっとつけてます』
輪夢曰く、このこだわりは腕時計をつける感覚に近いそう。幼い頃からつけているものなので、なくてもいいけどないと落ち着かないのだとか。
11
▽Spec list
- フレーム - SUBROSA FLIGHT 20.5
- フォーク - SUBROSA NOSTER 27MM
- グリップ - SUBROSA GRIFFIN
- ステム - SUBROSA ROSE UP 48MM
- ペダル - RANT HELLA
- スプロケット - SPLINE 28T
- チェーン - FLY TRACTOR
- シート - SUBROSA AMMO CAMO
- シートポスト - SUBROSA TRI-POD
- フロント リム - ORIGINAL
- リア リム - G SPORT
- タイヤ - GRIFTER 2.10 / DTH 1.95
- ペグ - FEDERAL PLASTIC
※本稿は2021年8月にインタビュー&執筆されたものです
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