Aphex Twin
© Dominic Kesterton
ミュージック

エイフェックス・ツインの一番好きな曲は? アーティストたちに訊いた名曲10曲

ロンドンで開催される「Red Bull Music Festival」で2年ぶりにライブを披露する鬼才:Richard D Jamesがこれまで発表した無数の楽曲の中から、気鋭のアーティストたちがベストを選出した。
Written by Phillip Williams
読み終わるまで:10分Published on
生きながらにして伝説的なステータスを獲得するアーティストは数少ないが、Polygon Window、Caustic Window、The Tuss、AFX、Aphex Twinなど無数の名義を持つRichard D Jamesは間違いなくそのひとりだ。
1990年代初頭にコーンウォールから現れたこの鬼才は目眩がするほど多彩なスタイルのエレクトロニック・ミュージックをリリースしながら、常に時代を数歩先取りしてきた。
Aphex Twinは1994年の名作『Selected Ambient Works II』のようにメランコリックで儚い楽曲を手がけたかと思えば、1997年の「Come To Daddy」のようにデスメタルとドラムンベースが正面衝突した悪夢的な楽曲も手がけてみせる。
また、2014年の『Syro』収録の「aisatsana [102]」のような、幽霊に取り憑かれたピアノのように聴こえる奇妙なチャイムや、ディジュリドゥのように震えながら鳴り続ける単音のドローンも生み出せる(1992年のシングル「Didgeridoo」)。
しかし不思議なことに、どのサウンドにも、リスナーが「Richard D Jamesの悪戯好きな手による作品だ」と理解できる特徴が備わっている。
2019年9月、Red Bull Music Festival Londonに出演するAphex Twinはロンドンで2年ぶりのライブを披露する。そこで今回は、同フェスティバルに出演するアーティストたちに思い入れのあるAphex Twin(および別名義)の作品を挙げてもらうことにした。
LapaluxCaterina BarbieriMira CalixSpecial RequestLoraine Jamesを含むアーティスト12組が選んだAphex Twinクラシックをチェックしていこう。

「Bucephalus Bouncing Ball」

選出者:Lapalux
子供の頃、父に地元の図書館へ連れて行ってもらっていた。CD1枚を買う値段で10枚借りられたからね。父は僕に5枚選ばせてくれたんだけど、その中に入っていたのがAphex Twin「Come to Daddy」が収録されたミニアルバムだったのさ。
このサウンドは一体どうやって作られているのかと不思議に思いながら、繰り返し細部まで聴き込んだよ。
特に強く印象に残ったのがこの「Bucephalus Bouncing Ball」だ。トラック冒頭に散りばめられたボールが跳ね回るようなエフェクトは、当時の僕の度肝を抜いたね。
そこから隙間が多いけれど豊かなメロディを持つインタールードへ進み、いつのまにかグリッチーでアブストラクトな狂気に引き戻される。このミニアルバムは僕の人間形成に大きな影響を与えた。今でもノスタルジックな敬意と共に聴いているよ。

「Alberto Basalm」

選出者:Impey
僕の中で「Alberto Balsalm」は、メロディとリズムのパーフェクトなバランスと、丸みを帯びたシンセメロディと生々しくてメタリックなパーカッションサンプルのコントラストが光る楽曲だ。
この楽曲では、弾薬箱の蓋を開けるようなサウンドやハイハット代わりのハサミを動かす音など、興味深いサウンドソースも確認できる。僕が生まれた年に制作されたという事実もクレイジーだね。タイムレスな音楽だ。

「Rhubarb」

選出者:Caterina Barbieri
「Rhubarb」を聴くと、高校時代の最初のスクールトリップを思い出すわ。バスの車窓を流れる風景を眺めながらずっとAphexを聴いていた。
以前から、Aphexの音楽にはコーンウォールの風景が強い影響を与えているんじゃないかと思っているの。
自然が持つ高揚感や憂鬱さ、没入感などをサウンドで表現する彼独特の才能は特にそう思えるわ。わたしはこの表現に非常に共感できるし、彼の音楽のこの側面にずっとインスパイアされている。

「Laughable Butane Bob」

選出者:Weirdcore(Aphex Twinのヴィジュアルコラボレーター)
たった1曲に絞り込むなんてほとんど不可能だけど、あえて選ぶなら「Hangable Auto Bulb EP」に収録された「Laughable Butane Bob」かな。
これには複数の理由がある。この曲がリリースされた1995年、僕はエクスペリメンタル・テクノやWarpの作品に熱中していたんだけど、ビートの反復要素が少ない、もっと複雑で予測不可能な構成の音楽が聴きたいと思っていた。
「Hangable Auto Bulb EP」はヴァイナルだと2枚に分けてリリースされたんだけど、どちらも僕にとてつもない衝撃を与えた。聴きたいと思っていた音楽のイメージをはるかに超えていた。ファニーで奇天烈だけど、リスナーがその気になればダンスもできる。
また、1996年のBig Loveでのライブも僕に絶大な影響を与えたんだけど、その時の1曲目も「Laughable Butane Bob」だった。
個人的な話になるけど、「T69 Collapse」のミュージックビデオの制作を依頼された時、あの曲のバイブスが「Laughable Butane Bob」のアップデートバージョンのように感じられた。「T69 Collapse」のミュージックビデオが1990年代的なのはそういう理由もあったんだ。

「xmas_evet10 120(thanaton3 mix)」

選出者:Loraine James
アルバム『Syro』を通しで聴き込んでいた時期があったんだけど、当時も今もこのアルバムのフェイバリットは「xmas_evet10 120(thanaton3 mix)」ね。約6分をかけてビルドアップしてドリーミーなシンセが溢れ出すたびに、ハッピーで自由な感情が生まれるの。

「15 Sekonda」

選出者:Special Request
Aphexのフェイバリットトラックを選べなんて、自分の子供の中からお気に入りをひとり選べって言ってるのと同じさ。無理に決まってる。
12曲ほどの候補が頭の中を行ったり来たりしているけど、現時点で選ぶなら、RichardがSoundcloudに大量アップロードした楽曲の中から「15 Sekonda」を挙げる。
この曲にはマジックがある。サイケデリックであることをアピールしていないのに真のサイケデリックが感じられる。最高だよ。

Baby Ford「Normal(Helston Flora Mix)」

選出者:Joe Muggs(音楽ジャーナリスト / 作家)
リスナーのマインドを狂わせるクレイジーさや様々な仕掛けが用意されていますが、Aphexがダンスミュージックを作っているということを覚えておくことは非常に重要です。
彼は元レイバーで、彼の旧友たちもレイバーやB-Boyでした。また、彼が最初にリリースした作品はレイブ用でした。さらに言えば、彼の作品全体には、レイブ以前のブラックアメリカンミュージック — ハウス、ヒップホップ、エレクトロ、そして何よりもファンク — への深い理解が示されています。
彼が1998年にBaby Fordへ提供したこのリミックスはAFX流ファンクの典型と言うべき内容です。
アシッドなフレーズ、フィジェットなシンセ、カット&スクラッチが渾然一体となってグルーヴを追求しており、リリースから21年を経た現在でもダンスフロアで映える内容となっています。

「Vordhosbn」

選出者:Afrodeutsche
わたしは1980年代にデヴォン州で育ったんだけど、Aphexの存在を知ったのは1990年代後半になってからだった。1990年代はジャングルをたくさん聴いていたけれど、その中にAphex Twinの曲が含まれていたのに気づいていなかったのね。
当時わたしが聴いていた音楽の大半はフリーパーティで録音されたカセットのミックステープだったし、そうやって音楽をシェアするのが普通だった。それらのテープはトラックリストが載っていないケースがほとんどで、曲のタイトルを覚えるのが難しかった。
「Vordhosbn」は親友がわたしの誕生日のために作ってくれたコンピレーションに入っていた曲で、一番のお気に入りなの。
Aphexの作品は、美しくてうねりのあるパターンのレイヤーが重ねられている。聴くたびに、毎回違うパターンを耳で追ってしまう。
もうひとつのフェイバリットは、Curve「Falling Free」のAphex Twinリミックスね。美しくてダークなんだけど、クレイジーにダンスさせるだけのブリーピーさもある。
「GAK EP」も気に入っているわ。「GAK 2」と「GAK 3」が特にね。ジャッキンだけどアシッドで、ダークな楽観主義を感じさせるムードがあるの。これはどんなシステムで聴いても大好き。最高だわ!

Polygon Window「Quino-Phec」

選出者:Mira Calix
1993年リリースのアルバム『Surfing on Sine Waves』に収録されている曲で、リリース当時から大好きだったし、今も大好き。シンプルかつ幽玄で、漂流したり焦点がぼやけたりするメロディが微細に変化しながら繰り返される。
個人的にはRichardの最高傑作だと思う。この世のものとは思えないところがあるし、場所や時間を感じさせない。変化やこれ見よがしな部分もなく、とにかく完成度が高い。Richardがこれまで手がけた中で、おそらく最もロマンティックな作品じゃないかしら。わたしのクラシックだわ。

「Avril 14TH」

選出者:Nabihah Iqbal
わたしがこの曲を好きな理由は、シンプルさと複雑さが共存していて、あらゆるハーモニーと転調がとにかく美しいから。細部まで緻密に作られている楽曲だし、そこが素晴らしいと思う。穏やかで心地よい気分になるわ。
選出者:Emma Jean Thackray
学生時代に親友とミックスCDの制作に熱中していたんだけど、その親友の誕生日が4月14日なの。Limewire(編注:かつて存在したオープンソースのP2Pクライアントソフト)でこの曲に出会ったのは、14歳か15歳だった。
この曲はわたしの心の琴線に触れる何かがあって、何時間もリピートして聴きながら、この曲の世界に入り込もうとしたわ。
当時のわたしには音楽専門誌を買ってインタビューを読む余裕なんてなかったし、一番好きなアーティストと自分の間にはいつも大きな壁が立ちはだかっていた。アーティストたちが作品について語る記事を読む手段がなかったから、想像で理解するしかなかった。
ティーンエイジャーだったわたしは自分が耳にする音楽すべてを採譜していた。そしてDebussyからDream Theatre、Miles Davisまで、自分の心に引っかかる曲を片っ端からMIDIデータ化していたの。
だからもちろん、「Avril 14TH」もそうしようとしたんだけど、オリジナルの再現はできなかった。ピアノの音色に特別な響きがあって、それがわたしを虜にしていた。
今はアコースティックピアノをMIDIでコントロールした楽曲だってことを知っている。このトリックが、暖かなピアノの音色を微妙にストレンジで非人間的な響きにしている。
聴き込まない限りはごく普通のサウンドなんだけど、ほんの少し聴き込むと不穏な感覚が備わっているのが分かる。別世界が見えてくるのよ。
選出者:Flora Yin-Wong
「Avril 14TH」は初めて聴いた人でさえもノスタルジックなフィーリングを得ると思う。わたしはAphexマニアではないけれど、この曲を聴くと静謐な美を想起するわ。
単純にわたしが悲しい音楽が好きというのもあるけれど(笑)、この曲は様々なムードと共鳴する純真さと哀愁も内包されているわ。